レオス・キャピタルワークス (7330) 運用力、販売力、発信力を強みとしている

2023/05/09

「ひふみ」ブランドの公募投資信託を運用・販売する資産運用会社
運用力、販売力、発信力を強みとしている

業種:証券、商品先物取引業
アナリスト:大間知淳

◆ 「ひふみ」ブランドの公募投資信託を運用・販売する資産運用会社
レオス・キャピタルワークス注1(以下、同社)は、日本株式を中心に運用する国内投資信託の中で最大級の純資産額を誇る「ひふみプラス」等の「ひふみ」ブランドのファンドを運用・販売する資産運用会社である。同社の事業領域は、投信投資顧問事業の単一セグメントであるが、投資信託委託業務と投資顧問業務(投資一任契約に係る業務)、ベンチャーキャピタル業務によって構成されている。

同社は、創業メンバーである藤野英人氏(現代表取締役会長兼社長、最高投資責任者、業界経験年数約33年)、湯浅光裕氏(現代表取締役副社長、業界経験年数約32年)、五十嵐毅氏(現営業本部長)によって、よりよい社会を作るため、国内外のヒト、モノ、カネの「流れ(レオス)」を興すこと、理想の投資信託を作ること、人々の資産形成の一助となることを目的に03年4月に設立された。

日本においては、設立間もない運用会社が投資信託委託業の認可を得ることが困難だったため、同社は03年12月に投資顧問業務から事業を始めた。07年9月に投資信託委託業の認可を取得できたため、同社は08年10月に初めての公募投資信託となる「ひふみ投信」の運用を開始した。

「ひふみ投信」の運用開始の直前にリーマンショックが起こったため、09年にかけて同社を含めて多くの資産運用会社は運用資産残高の急減を余儀なくされた。「ひふみ投信」の設立に備え、人員の増強やシステム投資を進めていたこともあり、同社はこの時期、赤字となった。

同社は、09年に外為オンライン等のIT・金融会社を傘下に持つISホールディングス(東京都千代田区)に対して第三者割当増資等を実施し、その子会社となった。

18年12月に同社は上場する予定であったが、コーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性に関する問題が浮上し、直前で上場を取りやめた。業容拡大に内部管理体制の強化が追い付いていなかったことから、同社は、チーフ・コンプライアンス・オフィサーを選任したほか、弁護士を採用する等、内部管理体制の強化に取り組んだ。

20年6月、ISホールディングスは、資金需要の発生に伴い、保有していた同社株式の一部を売却したため、SBIホールディングス(8473東証プライム)の連結子会社であるSBIファイナンシャルサービシーズが同社の親会社となった。SBIファイナンシャルサービシーズは、上場時に一部株式を売出したものの、依然として発行済株式総数の48.9%保有していることや、取締役を一人派遣していること等から、親会社の地位にとどまる見通しである。

同社の役員は、藤野会長兼社長、湯浅副社長、岩田常務取締役(ISホールディングス出身)、白水常務取締役、髙村取締役(SBIホールディングス代表取締役副社長等を兼務)のほか、3名の独立社外取締役、及び4名の独立社外監査役によって構成されており、取締役会の審議に当たっては多様な意見が反映され得る状況を確保している。

SBIホールディングスグループには、SBIアセットマネジメントや岡三アセットマネジメント(23年7月にSBI岡三アセットマネジメントに商号変更予定)等、同社と事業領域が類似している資産運用会社が存在しているものの、投資スタイルや販売先等が異なっていると同社は説明している。

また、同社とSBIホールディングスグループの間では取引関係も存在している。兄弟会社に該当するSBI証券は、ネット証券最大手であるため、間接販売を行う投資信託の主要販売パートナーとなっている。22/3期では、販売パト―ナーへの支払手数料の約2割がSBI証券に対するものであった。

◆ 投資信託委託業務
投資信託委託業務は、同社が組成した投資信託を購入した顧客の資金を国内外の株式等に投資し、その運用成果を顧客の投資額に応じて分配する仕組みの金融商品を運用する業務である。

同社が運用している投資信託は、23年3月末現在で、主に日本の成長企業に投資する「ひふみプラス」や「ひふみ投信」、海外の成長株に投資する「ひふみワールド+」や「ひふみワールド」等、12本となっている。同社が運用する投資信託の販売経路別、投資資産別の一覧は図表1の通りである。

同社が運用している投資信託業務の資産残高は、23年3月末現在で、1兆315億円であった。主要ファンド別では、「ひふみプラス」4,892億円、「ひふみワールド+」2,162億円、「ひふみ投信」1,437億円、DC注2投信「ひふみ年金」583億円となっている。

「ひふみ投信」、「ひふみワールド」、「ひふみらいと」は、同社が委託(運用)と共に販売も行う直接販売型であり、委託者報酬における運用会社としての機能分と販売会社としての機能分を収益としている。一方、「ひふみプラス」と「ひふみワールド+」、「ひふみ年金」等は、証券会社や銀行等の販売会社を通じて顧客に提供する間接販売型であり、委託者報酬における運用会社としての機能分のみを実質的な収益としている。

運用面では、ひふみシリーズ(ひふみ投信、ひふみプラス、ひふみ年金)は、ひふみ投信マザーファンド、ひふみワールドシリーズ(ひふみワールド、ひふみワールド+等)は、ひふみワールドマザーファンドに集約して運用されている。ひふみ投信マザーファンドとひふみワールドマザーファンドの合計純資産総額は、投資信託の運用資産残高の9割以上を占めている。

ひふみシリーズは、時価総額等の企業規模に拘らずに投資を行うオールキャップ戦略の商品に該当する。また、ひふみシリーズは、主に日本の成長企業に投資しているが、海外企業にも投資が可能な商品設計となっており、17年半ばからは海外株式にも投資している。

ひふみ投信マザーファンドの純資産総額は、23年3月末において7,259億円に達しており、291銘柄に投資している。資産配分比率は、日本株式87.83%、海外株式4.43%、現金等7.74%であった。保有銘柄の時価総額別比率は、大型株(時価総額3,000億円以上)68.68%、中小型株(同300億円以上3,000億円未満)21.83%、超小型株(同300億円未満)1.75%、現金等7.74%となっている。

ひふみワールドマザーファンドの純資産総額は、23年3月末において2,806億円に達しており、142銘柄に投資している。資産配分比率は、海外株式93.72%、現金等6.28%であった。保有銘柄の時価総額別比率は、時価総額10兆円以上32.47%、同1兆円以上10兆円未満43.27%、同3,000億円以上1兆円未満15.53%、同3,000億円未満2.45%、現金等6.28%となっている。

ひふみワールドマザーファンド、ひふみ投信マザーファンドの海外株式資産及び、「ひふみらいと」等が投資するグローバル債券マザーファンドの海外債券資産等によって構成される同社の外貨建て運用資産は、22/3期末において運用資産総額の3割程度となっている模様である。

同社は、運用する投資信託の特徴として、(1)独自に発掘した成長企業への投資を通じた「守りながら増やす運用」、(2)セミナー開催等による顧客とのコミュニケーション、(3)2つの販売チャネル(直接販売と間接販売)を挙げている。

(1) 独自に発掘した成長企業への投資を通じた「守りながら増やす運用」
同社の運用は、企業が提供する製品・サービスが世の中にどのような影響を与えるのか、アナリストやファンドマネージャーが自ら企業に足を運んで確認したり、経営者と面談したりすることで得られる足で稼いだ情報を基に投資判断を行っている。中長期の将来価値に対して割安と考えられる企業や、安定的に業績を伸ばしている企業に長期的な投資を行っている。

同社は、マーケットの変化に柔軟に対応するため、IT企業等の成長企業だけでなく、地道に収益をあげる企業まで、幅広いに銘柄に分散投資をすることで、基準価額の変動を抑えた、「守りながら増やす運用」を心掛けている。ファンドの価格変動リスクに対するリターンの高さを示す数値であるシャープレシオ(リターンをリスクで割った数値)を高位に保つことを目標としている。

(2) セミナー開催等による顧客とのコミュニケーション
同社は、セミナー、イベント、各地での運用報告会等を通じて、顧客に投資の楽しさや重要性をFace to Faceでコミュニケーションをとる活動に力を注いでいる。例えば、「ひふみ投信」の運用責任者やアナリストがどのような視点で経済や株式相場を捉え、運用を行っているか等について説明する「ひふみアカデミー」等のセミナーを開催するほか、直接販売投信の保有者を対象に、同社メンバーと投資先企業を見学する「ひふみの社会科見学」等を開催している。

同社は以前から、自社Webサイトで運用メンバーのインタビュー記事を公開する等、「顔の見える運用」を標榜している。21年1月には、お金や投資に関する情報を楽しく分かりやすく発信するYouTubeチャンネル「お金のまなびば!」を開設した。23年2月末時点の登録者数は、金融機関のチャンネルとしては最大規模の21.6万人となっている。

(3) 2つの販売チャネル
同社の販売手法の特長は、直接販売と間接販売という2つの販売チャネルを持っていることである。国内公募投資信託の多くは、証券会社等の販売会社を通じて販売されているため、ファンド保有者への対応は販売会社が行っている。一方、同社は直接販売も行っているため、当該販売ルート経由の投資信託保有者に対して積極的にコミュニケーションを取ることが可能となっている。同社は、「顔の見える運用」により、顧客が投資信託を長期にわたって保有するように促している。

また、直接販売する公募投資信託の一部では、長期に保有するほど信託報酬が低減する仕組み「資産形成応援団(信託報酬一部還元方式)」を日本で初めて導入している。該当する投資信託においては、5年以上保有している場合に、投資家が負担する信託報酬をあらかじめ決められた応援率分に基づき割り引く仕組みとなっている。

また、同社は、日本の大手銀行、大手証券会社、ネット証券、地方銀行等、23年2月末時点で96社の販売パートナーと取引している。同社の運用資産残高は、間接販売の公募投資信託が牽引役となり、17/3期から急拡大している。

同社は、投資信託の評価機関等が毎年実施する表彰制度において、数多くの受賞歴がある(図表2)。「ひふみ投信」については、格付投資情報センター(R&I)がシャープレシオを定量評価に用いて選定する「R&Iファンド大賞」投資信託10年国内株式(コア)部門において直近5年間(19年~23年)、継続して受賞している。

◆ 投資顧問業務(投資一任契約に係る業務)
投資顧問業務は、投資一任契約に基づいて顧客の投資資金を受託、運用する業務である。投資一任契約とは、顧客から投資判断を任され、顧客に代わって顧客資産を運用する契約である。投資顧問業における収益は、運用資産残高に一定率を掛け合わせることで算定される投資顧問報酬と、運用成績に応じて受け取る成功報酬によって構成されている。

同社は、投資一任契約に基づき、国内企業年金基金と海外ソブリンウェルスファンド等を受託、運用している。同社が運用している投資顧問業務の資産残高は、23年3月末現在で、1,127億円となっている。

◆ ベンチャーキャピタル業務
同社は、21年4月にベンチャー企業への出資を目的とした、「レオス・キャピタルパートナーズを100%子会社として設立した。レオス・キャピタルパートナーズは、22年2月1日にRheosCP1号投資事業有限責任組合を設立し、ベンチャーキャピタル業務を開始している。

RheosCP1号投資事業有限責任組合は、運用開始からまだ間もなく、投資回収(利益計上)までには長期間を要するため、ベンチャーキャピタル業務としては当面、営業損失が見込まれている模様である。

◆ 17年3月期から運用資産残高は急増している
同社が運用する投資信託の運用資産残高は、純流入額(設定額から解約額を控除した金額)と基準価額が堅調に推移したことから、17/3期と18/3期に急拡大した(図表3)。

テレビ東京の「カンブリア宮殿」で17年2月に同社が取り上げられた効果もあり、つみたてNISAの対象となった「ひふみプラス」の販売パートナー数や「ひふみ投信」の顧客数が急拡大したことから、18/3期末にかけては、「ひふみプラス」と「ひふみ投信」を中心に投資信託の運用資産残高が急増した。

20/3期においては、国内株式市場が調整局面であったため、同社の運用資産残高も減少を余儀なくされたが、21/3期以降の運用資産残高は拡大基調で推移している。19年に運用を開始した「ひふみワールド」と「ひふみワールド+」の販売が好調であったことや、20年6月のSBIホールディングスグループ入りにより、地方銀行等の販売パートナーが増加し、間接販売の公募投資信託の運用資産残高が拡大したことが主な要因である。

◆ 営業収益の大部分は投資信託の委託者報酬である
事業会社の売上高に相当する営業収益は、投資信託委託業の委託者報酬と投資顧問業務の投資顧問報酬によって構成されている。22/3期における委託者報酬と投資顧問報酬の構成比は、各々96.6%、3.4%となっている。

◆ 間接販売増加に伴う営業利益と営業利益率への影響に留意したい
同社の費用は、営業費用と一般管理費によって構成されている。費用の明細が開示されている単体の損益計算書(22/3期)によると、営業費用の83.5%は間接販売の公募投資信託の販売パト―ナーに支払う代行手数料(支払手数料)である。支払手数料は、該当する投資信託の信託報酬(委託者報酬)の50%に設定されている。22/3期においては、間接販売による運用資産残高(期中平均)の比率が上昇したため、支払手数料を委託者報酬で除した数値は、21/3期の38.3%から39.7%に上昇した。

その他の営業費用としては、顧客管理システムや投信バックオフィスシステム、マーケット情報サービス等の利用料を中心とした調査費や、営業諸費用が挙げられる。これらの費用は、営業収益ほどには増えなかったため、22/3期の営業収益営業費用率(単体)は、21/3期の46.3%から45.9%にやや改善した。

一般管理費の中心は、役員報酬、給料・手当、賞与等によって構成される給料であり、22/3期において、一般管理費(単体)の39.1%を占めていた。次に大きい項目は広告宣伝費であり、一般管理費(単体)の18.7%を占めている。その他の経費も含めて、一般管理費の増加率は営業収益の伸びを下回ったため、22/3期の営業収益一般管理費率(単体)は、前期の35.1%から33.2%に低下した。結果、22/3期の営業利益率(単体)は、前期の
18.7%から20.9%に改善している。

同社の費用を分類すると、支払手数料が変動費に、その他の費用が固定費に該当するため、22/3期の限界利益率は約62%と推定される。営業収益に占める間接販売を通じた委託者報酬比率の上昇は、限界利益率の低下に繋がる一方で、過去の業績推移を見ると、間接販売による運用資産残高の拡大が営業利益の増加の原動力となっていたことに留意したい。

◆ 国内外株式と国内外債券の2チームによる運用体制
同社の国内外株式の運用チームは、7名のファンドマネージャー兼アナリスト(最高投資責任者である藤野会長兼社長、湯浅副社長、渡邉庄太運用本部長ら)と、5名のアナリストによって構成されている。国内外債券の運用チームは、3人のファンドマネージャーと2名のアナリストによって構成されている。また、2名のエコノミストが在籍している。なお、ファンドマネージャーに親会社グループから派遣された役職員は在籍しておらず、投資判断は自社独自で行っている。また、同社は、運用チームの氏名や顔写真等をサイト上で公開しており、文字通り「顔の見える運用」を実践している。

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一般社団法人 証券リサーチセンター
資本市場のエンジンである新興市場の企業情報の拡充を目的に、アナリスト・カバーが少なく、適正に評価されていない上場企業に対して、中立的な視点での調査・分析を通じ、作成されたレポートです。