トリプルアイズ<5026> 画像認識に係る技術力やAI機能のシステムへの実装力に特徴がある

2022/06/06

顔認証等の画像認識AIソリューションやシステム開発向け技術者派遣等を展開
画像認識に係る技術力やAI機能のシステムへの実装力に特徴がある

業種: 情報・通信業
アナリスト: 大間知 淳

◆ システム開発向け技術者派遣や画像認識AIビジネス等を展開
トリプルアイズ(以下、同社)は、各種システム開発向け等の技術者派遣と画像認識分野を中心とするAIビジネスによって構成されるAIソリューション事業、企業研修・社員教育を行う研修事業、その他事業を展開している。

21/8期の売上高構成比(外部顧客ベース)は、AIソリューション事業98.0%、研修事業1.5%、その他の事業0.5%であった。セグメント利益率では、研修事業が26.7%と高採算であるが、人件費の負担が重いAIソリューション事業は、2.4%と低水準であった。また、のれん償却額の影響等により、その他の事業は若干ながらセグメント損失となっている(図表1)。

◆ AIソリューション事業
AIソリューション事業は、各種システム開発向け等の技術者派遣等を行うSI部門と、画像認識分野を中心とするAIビジネスであるAIZE(アイズ)部門に大別される。

SI部門は、企業等のシステム開発案件に関し、元請先となるSIer等への技術者派遣を中心にサービスを提供している。21/8期において、案件種類別売上高比率は、基幹システム49%、Webシステム35%、インフラ4%、保守3%、制御・組込系2%、その他7%であった。エンドユーザーの業種は、サービス、通信、流通、金融、公共、製造、保険、教育、印刷等、多岐に亘っている。同社がエンドユーザーから直接受注するプライム比率は、21/8期において12.6%であった。

同社は、システムの設計・開発からインフラ構築、運用・保守に至るまで一連のサービスをワンストップで提供できる体制を構築している。また、AI、ブロックチェーン注1、IoT等の研究開発成果を活かした最先端技術によるソリューションを提携先のSIerと協業して顧客に提案できるのも同社の特徴である。

22年4月時点のSI部門のエンジニアは、従業員145名(うち、中級上級95名)、協力会社社員115名の合計260名に達している。同社は、SI部門のKPIとして、協力会社社員を含めた派遣人月数(以下、派遣人月数)と月額派遣単価(以下、派遣単価)を挙げている。21/8期においては、派遣人月数が前期比4.5%増の2,896人月、派遣単価が同1.3%上昇の617千円となった結果、SI部門の売上高は同5.8%増の1,787百万円となった(図表2)。

SI部門において、13/8期から21/8期までの年平均売上高成長率は30.6%であった。21/8期において、SI部門の売上高構成比は84.2%、売上総利益構成比は75.8%であった。SI部門の売上総利益率は22.9%と全体の25.5%を下回っているが、売上高構成比が高いため、SI部門は同社の安定収益基盤に位置付けられる。

AIZE部門は、同社が自社開発したAIエンジンである画像認識プラットフォームAIZEを用いて、様々な業種、業態にサービスを提供している。同社は、14年8月に囲碁AIプロジェクトチームを発足してAIの研究開発に乗り出し、19年3月にAIZEの提供を開始した。

AIZEは、画像認識、中でも顔認証を中心領域としているが、言語処理、需要予測領域でも活用されている。顔認証においては、512次元の特徴量注2を顔画像から検出し、正面静止画像であれば認証率99%という高精度を誇っている。AIモデルの開発からサービス提供までを一つのプラットフォームで実現しているため、セキュリティや保守に対する不安を顧客に抱かせることなく、競争力のある価格でサービスを提供している。

AIZE部門は、AI等の先端技術に係るソフトウェアの受託開発及び顧客の既存システムに即したカスタマイズを通じたサービス提供(AIZEのカスタム開発)と、SaaS形態によるサービス提供(AIZEプロダクト販売)に大別される。AIZEプロダクトは、事前登録のない不特定多数の人や物、状態を認識する「AIZE Research」と、事前登録された人や物と、撮影時の人や物を照合する「AIZE Biz」によって構成されている。自動検温器を付加し、感染症対策に対応したものは、各々「AIZE Research+」、「AIZE Biz+」と呼ばれている。

AIZE Researchは、主として店舗等での顔認証によるマーケティングサービス等に利用されている。料金体系は、初期導入費用18,000円、月額利用料30,000円以上となっている。21/8期の顧客当たり平均月額利用料は、AIZE Researchが362,591円、AIZE Research+が806,374円であった。

AIZE Bizは、主として、顔認証による従業員の勤怠管理、会員管理、入退室管理等に利用されている。料金体系は、初期導入費用18,000円、月額利用料16,800円以上となっている。21/8期の顧客当たり平均月額利用料は、AIZE Bizが128,140円、AIZE Biz+が392,556円であった。

22年4月時点のAIZE部門のエンジニアは32名(全て従業員。うち、データサイエンティスト・AIプロフェッショナル20名超)である。同社は、AIZE部門のKPIとして、期末時点の拠点ID数とリカーリング収益を挙げている。リカーリング収益とは、継続課金となる契約に基づき、拠点ID数注3を課金単位として収受する月額利用料と、契約期間に亘って按分して売上計上する初期導入費用によって構成されている。

21/8期においては、拠点ID数が前期末比12.6倍の818件、リカーリング収益が前期比7.1倍の44,999千円となったほか、AIZE関連開発売上とAIZE関連機器販売売上が急拡大した結果、AIZE部門の売上高は同4.1倍の292百万円となった

21/8期において、AIZE部門の売上高構成比は13.8%、売上総利益構成比は19.6%であった。AIZE部門の売上総利益率は36.3%と全体の25.5%を大幅に上回っており、AIZE部門は、同社にとって高採算の成長源に位置付けられる。

◆ 研修事業
研修事業では、連結子会社のシンプルプランが、全国の様々な企業へ人材育成のためのセミナー研修業務を提供している。同社は、経営、営業、人材育成分野のリアル研修に強みを持つシンプルプランを19年10月に完全子会社化した。現在では、同社のエンジニア育成にシンプルプランの研修プログラムを採り入れている。

21/8期において、研修事業の売上高は31百万円に過ぎないが、セグメント利益率は26.7%と高水準である(図表3)。セグメント利益に減価償却費及びのれん償却額を加算したEBITDAは10百万円、EBITDAマージンは33.8%となっている。

◆ その他の事業
その他の事業では、連結子会社の所司一門将棋センターが将棋道場を運営している。グループ社員で構成する同社の将棋部は、アマチュア将棋団体戦の全国大会である「職団戦」において、トップクラスであるS級に属している。同社は、企業価値、ブランドイメージの向上を目的に、渡辺明名人の師匠である所司和晴氏が代表取締役を務める棋創社(現所司一門将棋センター)を19年9月に完全子会社化した。

その他の事業の売上高は、会費売上、大会開催収入、道場一時利用料で構成されている。21/8期において、その他の事業は、売上高10,501千円、セグメント損失321千円と損失を計上している(図表4)。但し、EBITDAは1,028千円、EBITDAマージンは9.8%となっており、のれんの償却負担の重さがセグメント損失に繋がっていると言えよう。

◆ 労働集約型のビジネスモデルであるが、AIZE部門の利益率は高い
同社の単体売上高は連結売上高の98.0%(21/8期)を占めているため、開示されている単体の売上原価明細を用いて、原価構成を分析した。

単体売上原価の9割強は製品製造原価、残りの1割弱はカメラやタブレット、検温器等の商品仕入高(AIZE部門)で構成されている。製品製造原価は、総製造費用から他勘定振替高(資産計上されるソフトウェア仮勘定)を控除し、受注損失引当金繰入額を加算して算出される。総製造費用の中心は、同社の技術者に支払う労務費(構成比47.2%)と協力会社の技術者の人件費となる外注費(同48.8%)であり、労働集約型のビジネスと言える。総製造費用の4.0%を占める経費は、両部門の費用である旅費交通費と地代家賃、AIZE部門の費用である通信費と減価償却費等によって構成されている。

21/8期の売上総利益率は25.5%である。事業別の数値は不明であるが、SI部門については22.9%と開示されている。AIZE部門については、その売上総利益構成比(19.6%)から推測される売上総利益率は36.3%であり、SI部門の数値を大きく上回る。AIZE部門の売上原価には商品仕入高や通信費、減価償却費等が含まれているが、売上高外注費率と売上高労務費率がSI部門に比べてかなり低いためと推測される。

販売費及び一般管理費(以下、販管費)については、給料手当や役員報酬、支払手数料、賞与引当金繰入額等が中心を占めている。研究開発費は、AIZE部門で計上されているが、20/8期が16百万円(売上高比0.9%)、21/8期が8百万円(同0.4%)にとどまっており、大きな負担とはなっていない。

◆ キューブシステムへの依存度が比較的高い
同社の主要顧客としては、SI部門、AIZE部門の両方で取引があるキューブシステム(2335東証プライム)のほか、SI部門では、富士通(6702東証プライム)グループ、TOKAIホールディングス(3167東証プライム)の連結子会社であるTOKAIコミュニケーションズ、野村総合研究所(4307東証プライム)等のSIerが挙げられる。

AIZE部門では、エンドユーザーとしては、ヤマダホールディングス(9831東証プライム)や東京建物(8804東証プライム)が、販売パートナーとしては、イノテック(9880東証プライム)や日本防犯システム(東京都港区)等が挙げられる。

主要顧客の中でも、キューブシステムへの依存度は比較的高く、20/8期以降において、総売上高の10%を超えている(図表5)。

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一般社団法人 証券リサーチセンター
資本市場のエンジンである新興市場の企業情報の拡充を目的に、アナリスト・カバーが少なく、適正に評価されていない上場企業に対して、中立的な視点での調査・分析を通じ、作成されたレポートです。