AI CROSS<4476> しばらくは導入社数の増加による増収増益が続くことに期待

2019/10/15

「働き方改革ICT」を標榜してコミュニケーションサービスを提供する企業
しばらくは導入社数の増加による増収増益が続くことに期待

業種: 情報・通信業
アナリスト: 藤野 敬太

◆ 「働き方改革」に資するコミュニケーションサービスを提供
AI CROSS(以下、同社)は、AOSテクノロジーズ(東京都港区)から分社する形で15年3月に設立された企業である。同年6月に現在の主力サービスであるSMS双方向配信サービスとビジネスチャットサービスを事業譲受した。企業のコミュニケーションに関連するサービスを通じて業務効率化や生産性向上を図るサービスを展開し、「働き方改革ICT市場」関連の企業であることを標榜している。

同社の事業は、ビジネスコミュニケーションプラットフォーム事業の単一セグメントだが、売上高は4つのサービスに分類されている。メッセージングサービスが、売上高の70~80%を占める主力サービスとなっているが、19/12期に入ってからAI Analyticsサービスが立ち上がりつつある(図表1)。

地域別には、国内が全売上高の7割強を占めるが、英国の売上構成比も2割強となっている。これは、メッセージングサービスの海外アグリゲーターであるOPENMARKET LIMITED向けの売上がほとんどである。

◆ SMS(ショート・メッセージ・サービス)とは
SMSはShort Message Service(ショート・メッセージ・サービス)の略であり、相手先の電話番号だけで一定字数の文字情報を送受信できるサービスである。サービス形態として、個人の携帯端末間でやり取りを行うP2P(Person to Person)-SMSと、公共機関や自治体を含む法人から消費者へ送信するA2P(Application to Person)-SMSの2種類がある。

元々は同一キャリア内の個人間のP2P-SMSしか存在しなかったが、11年7月の通信事業者の相互接続が開始された後に、A2P-SMS市場が形成され始めたと言われている。アプリのインストールを必要としないSMSは、スマートフォンの普及に伴い、多くの利用者がメッセージを受け取ることが可能な手段となってきた。

◆ 法人向けSMS送受信サービスのメッセージングサービス
同社のメッセージングサービスでは、主にB2C向けの事業を展開するユーザー企業に対し、エンドユーザーである消費者へショートメッセージを送るためのプラットフォームサービス「AIX Message SMS」を提供している。

エンドユーザーに対してショートメッセージを送りたいユーザー企業は、API接続注1か、同社のシステム管理画面の操作のどちらかの方法により、必要なショートメッセージの配信を手配する。ユーザー企業からの配信手配内容に応じて、同社は携帯電話事業者の回線に直接接続し、配信手配内容に応じて、消費者へショートメッセージを配信する。ユーザー企業が海外企業の場合は、海外のSMSアグリゲーター注2が間に入る。

同社はユーザー企業、販売会社、SMSアグリゲーターから、導入時などにかかるカスタマイズ料と、1通当たり販売単価と配信量の掛け算で算出される従量課金の月額利用料を受け取り、売上高としている。

一方、携帯電話事業者の回線に直接接続する際に、同社は回線利用料を支払う。ほかに、サーバー利用料や、人件費や外注費、減価償却費が加わり、同社の原価が構成される。

同社のサービスは単なる配信サービスではなく、ユーザー企業が抱える課題を解決するソリューションサービスとしての性格が強く、配信サービスに各種機能を付加したものをサービスプランとして提供する。現在、「ドタキャン防止ソリューション」、「安否確認ソリューション」、「DM効率化ソリューション」、「決済ソリューション」、「本人確認ソリューション」等を提供している。

販売チャネルは、(1)国内のユーザー企業への直接販売、(2)国内の販売会社経由での販売、(3)海外SMSアグリゲーター経由の販売の3種類となる。国内市場の開拓を優先する方針のため、海外SMSアグリゲーター経由は大きく増えない見込みである。なお、販売会社経由に注力し始めたのは18/12期になってからである。

◆ ビジネスチャットサービス
ビジネスチャットサービスでは、企業における業務連絡やビジネス上のコミュニケーションを行うための利用を想定したサービスである「InCircle」を提供している。エンジニア等が持つような高いITリテラシーを必要としない、利便性の高さのほか、シンプル、高セキュリティ、様々なインフラに対応できる多様性が特徴である。

クラウドサービスとして提供するSaaS版のほか、ユーザー企業のサーバーにインストールするオンプレミス型、OEM型での提供もある。

同社はユーザー企業から、初期設定やカスタマイズによる収入と、利用者ID数に応じた月額利用料を受け取り、売上高としている。一方、サーバー利用料等を費用として計上している。

◆ AI Analyticsサービス
ビジネスチャットで蓄積されたメッセージ等のデータをAIで分析し、主に人事分野の課題に対するソリューションを提供するサービスである。第一弾として、19年3月に、人材派遣会社向けに離職防止ソリューションサービス「People Engagement Cloud」の提供を開始した。

導入やカスタマイズによる収入と、ライセンス数に応じて受け取る月額利用料を売上高として、サーバー利用料等を費用として計上している。

◆ サービス導入社数の推移
3つのサービスいずれかを導入しているユーザー企業数(複数のサービスを導入しても社数は1社でカウント)は年を追うごとに増加し、18/12期末に1,418社、19/12期第2四半期末に2,433社となった(図表3)。期中平均社数を用いて算出した1社当たりの売上高は低下傾向にあるが、これは、販売会社が増加し、新規の導入企業が増えたためと考えられる。

◆ AI CROSSの強み
同社の特色及び強みとして、(1)メッセージングサービスにおいて、単なる機能ではなくソリューションとして提供していること、(2)メッセージングサービスでの高いシェアを有していること、(3)ビジネスチャットサービスでの解約率の低さに見られるようにユーザー企業の満足度が高いこと、(4)9件の特許に裏付けされるように技術力が高いことの4点が挙げられよう。

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一般社団法人 証券リサーチセンター
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