(6310) 井関農機株式会社 構造改革等で大幅な増益予想

2021/04/22

 

 

冨安 司郎 社長

井関農機株式会社(6310)

 

 

企業情報

市場

東証1部

業種

機械(製造業)

代表取締役社長

冨安 司郎

所在地

愛媛県松山市馬木町700番地

決算月

12月末日

HP

https://www.iseki.co.jp/

 

株式情報

株価

発行済株式数

時価総額

ROE(実)

売買単位

1,650円

22984,993株

37,925百万円

-8.8%

100株

DPS(予)

配当利回り(予)

EPS(予)

PER(予)

BPS(実)

PBR(実)

未定

106.18円

15.5倍

2,683.14円

0.6倍

*株価3/26終値。各数値は20年12月期決算短信より。

 

業績推移

決算期

売上高

営業利益

経常利益

当期純利益

EPS

DPS

2017年12月(実)

158,382

3,953

4,250

2,807

124.29

30.00

2018年12月(実)

155,955

3,179

2,629

1,090

48.29

30.00

2019年12月(実)

149,899

2,745

1,108

723

32.01

30.00

2020年12月(実)

149,304

2,084

1,702

-5,641

-249.58

0.00

2021年12月(予)

153,500

3,600

3,500

2,400

106.18

未定

*単位:円、百万円。当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益。以下同様。

 

 

井関農機株式会社の会社概要、2020年12月期決算概要、冨安社長へのインタビュー等をご紹介致します。

目次

今回のポイント
1.会社概要
2.2020年12月期決算概要
3.2021年12月期業績予想
4.新中期経営計画
5.冨安社長に聞く
6.今後の注目点
<参考:コーポレート・ガバナンスについて>

 

今回のポイント

  • 1926年創立の農業機械総合専業メーカー。長期ビジョンとして『「食と農と大地」のソリューションカンパニー』を掲げ、日本のほか、北米・欧州・アジアの3極で事業を展開。「高い技術力」「農家を支える営農提案・サポート力」「連携によるイノベーション」が特徴・強み。「新中期経営計画(2021~2025)」において、『「お客さまに喜ばれる製品・サービスの提供」を通じ、豊かな社会の実現』を目指しながら、次の100年に向けた礎づくりを進めている。

     

  • 2020年12月期の売上高は前期並みの1,493億円。国内は前期比1.5%減の1,159億円。海外は同3.8%増の333億円。営業利益は同24.1%減の20億円。販管費を削減したが減収に伴う粗利減を吸収できなかった。減損損失93億円の計上などで当期純利益は56億円の損失に転じた。20年8月公表の予想に対しては売上、利益ともに超過しての着地となった。

     

  • 2021年12月期の売上高は前期比2.8%増の1,535億円、営業利益は同72.7%増の36億円の予想。国内売上は同1.7%増の1,179億円、海外売上は同6.9%増の356億円を見込む。国内外ともに新型コロナウイルスの影響は依然残るものの、ワクチンの普及などで徐々に収束に向かい、今期中には社会活動や経済活動も緩やかに回復していくものと仮定している。販管費の増加はあるものの、増収効果に加え、構造改革と経営効率化に全社で取り組み増益を見込んでいる。配当は現時点では未定。

     

  • 新中期経営計画(2021~2025)」の基本戦略として「ベストソリューションの提供」と「収益とガバナンス強化による企業価値向上」を挙げている。前者においては、選択と集中の下、モノからコトへ「サービス」の提供に注力する。国内では大規模化、作付転換、ICT先端技術導入を、成長市場であるアジアでは、稲作の機械化を進める。後者においては、売上高に左右されることなく収益を確実に上げられる筋肉質への体質転換を進める。計数目標は営業利益率5%の達成。達成に向けて、最適生産体制構築による構造改革、グループ全体最適視点での経営効率化、適切な財務・資本戦略を推進する。ESGマテリアリティの見直しによる取り組み強化とSDGsへの貢献にも注力する。

     

  • 冨安社長に、社長のミッション、自社の競争優位性、今後の課題、株主・投資家へのメッセージ等を伺った。課題・メッセージについては、「農業機械やサービスの提供というのは、『食』を支えるエッセンシャルなビジネスです。このエッセンシャルビジネスを持続的に成長させていくことは、社会的にも極めて重要な責務であると認識しています。変化の激しい事業環境ですが、中期経営計画に掲げた施策を着実に実行し、社会的な課題を解決するとともに、企業価値の向上を実現してまいりますので、株主、投資家の皆様にはぜひ当社を中長期的な視点で応援していただきたいと存じます」とのことだ。

     

  • 中期経営計画の初年度である今期、短期的な視点からは、2期連続の営業減益からの底入れ・回復がなるか、四半期ごとの進捗をチェックしていきたい。一方、中長期的な視点では、冨安社長へのインタビューにもあるように「ビジネスモデルの変革」「筋肉質への転換」、この2つの変革がどのようなスピード感で進んでいくのかが注目される。また、人口減のため一見すると期待しにくいと思われがちな日本の農業市場だが、実は新たな需要が生まれているということも、大変興味深い。同社ならではの強みを活かしてそうした需要を取り込んでいくことも期待したい。加えて、成長が期待されるアジア市場においても、「農家を過酷な労働から解放したい」というミッションがどのように実を結び、社会的な価値を提供することになるのか、ウォッチしていきたい。

     

1.会社概要

1926年創立の農業機械総合専業メーカー。長期ビジョンとして『「食と農と大地」のソリューションカンパニー』を掲げ、日本のほか、北米・欧州・アジアの3極で事業を展開。「高い技術力」「農家を支える営農提案・サポート力」「連携によるイノベーション」が特徴・強み。
新中期経営計画(2021~2025)において、「『お客さまに喜ばれる製品・サービスの提供』を通じ、豊かな社会の実現」を目指しながら、次の100年に向けた礎づくりを進めている。

 

【1-1 沿革】

1926年、創業者である井関邦三郎氏が、愛媛県松山市新玉町に「井関農具商会」を創立し、自動籾すり選別機の製造を開始。
1936年には井関農機株式会社(資本金50万円)を設立、社長に井関邦三郎が就任し、ヰセキ式籾すり機及び自動選別機の製造を開始した。
「農家を過酷な労働から解放したい」という創業者の想いは、今も同社の基本精神として継承されており、使いやすく利便性の高い農業機械を提供することで農業の発展に貢献している。
第二次世界大戦で本社・工場を全焼するという被害も受けたが戦後、東京、大阪に進出し事業を拡大。1961年には東京証券取引所に株式を上場した。その後、日本各地に販売会社を設立し全国規模に展開。
2000年代に入り、子会社設立や買収で中国、インドネシア等のアジアにも本格進出し、グローバルで事業を展開している。

 

こうした歴史の中で、同社は創業時の自動籾すり選別機から始まり、世界初の「自脱型コンバイン」(1966年)、国産大型トラクタ(1978年)、乗用田植機(1978年)など、各種商品開発により日本における農機のスタンダードを創り出し、日本農業の生産性向上に大きく貢献してきた。

 

(同社資料より)

 

【1-2 企業理念など】

上記の創業者の理念を受け継ぎ、「『お客さまに喜ばれる製品・サービスの提供』を通じ、豊かな社会の実現へ貢献する」を経営の基本理念とし、日本ならびに世界の農業・景観整備に貢献していくことを企業理念としている。製品の提供だけでなくサービス(情報・コト・機能など)にも注力し、お客さまに喜ばれる井関として活動を展開している。

 

社是

1.需要家には喜ばれる製品を

2.従業員には安定した職場を

3.株主には適正な配当を

経営理念とし、もって社会的使命を達成する。

 

井関グループが目指すもの
 井関グループは2030年の長期ビジョンとして『「食と農と大地」のソリューションカンパニー
 ~夢ある農業と美しい景観を支え、持続可能な「直と農と大地」の未来を創造する~』を掲げている。
「農」は「食」と「大地」を守り、豊かな「人・社会」を実現しています。その「農」と「農家」を支えるのが井関グループであり、関連する課題を解決していく企業であり続けたいという想いが込められている。

 

こうした理念、ミッションをベースにし「中期経営計画」ではESG、SDGsについても積極的にコミットしている。

 

【1-3 市場環境】

日本国内および世界の農業に関する市場環境は以下の通りである。
井関農機はこうした状況認識を踏まえ、後述する「新中期経営計画(2021年~2025年)」において重要な課題、施策、目指すべき姿を掲げている。

 

(1)農政から見た国内市場環境
国内の農業の現在および今後の市場環境を見ていく上では、「農政」が重要な意味を持つ。
政府は食料・農業・農村基本法に基づき、食料・農業・農村に関し中長期的に取り組むべき方針を定め「食料・農業・農村基本計画」として発表している。
概ね5年ごとに変更される同基本計画の2020年3月発表分における主要ポイントは以下のようなものである。

 

項目

概要(抜粋)

食料・農業・農村をめぐる情勢

(国内外の環境変化)

*国内市場の縮小と海外市場の拡大:人口減少、消費者ニーズの多様化

 

(農政改革の着実な進展)

*農林水産物・食品輸出額4,497億円(2012)→9,121億円(2019)

*生産農業所得2.8兆円(2014)→3.5兆円(2018)

*若者の新規就農18,800人/年(09~13平均)→ 21,400人/年(14~18平均)

基本的な方針

「産業政策」と「地域政策」を車の両輪として推進し、将来にわたって国民生活に不可欠な食料を安定的に供給し、食料自給率の向上と食料安全保障を確立

目標・展望等

(食料自給率の目標)

【カロリーベース】37%(2018) → 45%(2030)

【生産額ベース】66%(2018)→ 75%(2030)

食料自給率の向上に向けた課題と重点的に取り組むべき事項

(農業生産)

ア:国内外の需要の変化に対応した生産・供給

「需要が旺盛な畜産物、加工・業務用需要に対応した野菜、高品質な果実、輸入品

に代替する需要が見込まれる小麦や堅調に需要が増加している大豆等、国内外の需要の変化に的確に対応した生産・供給を計画的に進める必要がある」

 

イ:国内農業の生産基盤の強化

「国内外の需要に応じた生産を進めるためには、国内農業の生産基盤の強化が必要である。このため、持続可能な農業構造の実現に向けた担い手の育成・確保と農地の集積・集約化の加速化、経営発展の後押しや円滑な経営継承を進めるとともに、農業生産基盤の整備やスマート農業の社会実装の加速化による生産性の向上、各品目ごとの課題の克服、生産・流通体制の改革等を進める必要がある」

*赤字部分は、(株)インベストメントブリッジによる。

 

食料自給率引き上げに向け官民総力を挙げて取り組んだ結果、食料消費に関する課題が解決された場合の2030年度における主要品目の食料消費および生産努力目標の見通しを、同基本計画では以下のように示している。
主食用米の生産が減少する一方、野菜、果実などは増加する見通しだ。

 

 

消費見通し

生産努力目標

克服すべき課題(抜粋)

2018年度

2030年度

2018年度

2030年度

主食用米

799

714

775

723

農地の集積・集約化による分散錯圃の解消・連坦化の推進

*多収品種やスマート農業技術等による多収・省力栽培技術の普及、資材費の低減等による生産コストの低減

飼料用米

43

70

43

70

*単収の大幅な増加による生産の効率化

野菜

1,461

1,431

1,131

1,302

水田を活用した新産地の形成や、複数の産地と協働して安定供給を行う拠点事業者の育成等を通じた加工・業務用野菜の生産拡大

機械化一貫体系や環境制御技術の導入等を通じた生産性の向上

果実

743

707

283

308

省力樹形や機械作業体系の導入、園内作業道やかんがい施設等の基盤整備等を通じた労働生産性の向上

*海外の規制・ニーズに対応した生産・出荷体制の構築、水田を活用した新産地の形成等を通じた輸出向け果実の生産拡大

小麦

651

579

76

108

*団地化・ブロックローテーションの推進、排

水対策の更なる強化やスマート農業の活用による生産性の向上

大豆

356

336

21

34

*団地化・ブロックローテーションの推進、排

水対策の更なる強化やスマート農業の活用による生産性の向上

*単位:万トン。赤字部分は、(株)インベストメントブリッジによる。

 

また、2018年6月に閣議決定された「未来投資戦略 2018 -「Society 5.0」「データ駆動型社会」への変革-」においては、
「農林水産業全体にわたる改革とスマート農林水産業の実現」の項目で、以下のような施策を挙げている。

農業改革の加速

生産現場の強化

米政策改革

 

農業経営者が自らの経営判断に基づき作物を選択できるよう、きめ細かな情報提供や水田フル活用に向けた支援を行うなどにより、米政策改革の定着を図る。

データと先端技術のフル活用による世界トップレベルの「スマート農業」の実現

先端技術の実装

国、研究機関、民間企業、農業者の活力を結集し、現場ニーズを踏まえながら、バリューチェーン全体を視野に、オープンイノベーション、産学連携等を進め、AI、IoT、センシング技術、ロボット、ドローンなどの先端技術の研究開発から、モデル農場における体系的な一気通貫の技術実証、速やかな現場への普及までを総合的に推進する。

 

「スマート農業」においては、具体例として、「遠隔監視による農機の無人走行システムの2020年までの実現」「ドローンとセンシング技術やAI の組み合わせによる農薬散布、施肥等の最適化」「自動走行農機等の導入・利用に対応した土地改良事業の推進」「農業用水利用の効率化に向けたICT 技術の活用」「スマートフォン等を用いた栽培・飼養管理システムの導入」「農業データ連携基盤を介した、農業者間での生育データの共有やきめ細かな気象データの活用等による生産性の向上」などを挙げている。

 

以上のような農政の方針から、今後の日本の農業は、食料自給率の向上および農業の生産性向上に向け、
*「米から野菜など他作物への転換」
*「農地の集積・集約化の加速化」
*「機械化の進展による生産性の向上」
*「スマート農業の実現」
などが、日本農業における中長期の最重要テーマであることがわかる。

 

また、農林水産物・食品輸出額、生産農業所得、若者の新規就農が着実に増大している点も、留意すべき点であろう。

 

(2)世界の農業市場
「平成30年度 食料・農業・農村白書」によれば、「世界の人口は、今後も開発途上国を中心に増加することが見込まれており、令和32(2050)年には97.7億人になると見通されています、このような中、世界の穀物等の需要は、開発途上国を中心とした人口増加により食用の需要が増加するとともに、経済成長に伴い、多くの穀物等を飼料として必要とする肉類の需要が大幅に増加することにより、全体として増加する見込みです」とある。

 

また、同白書内では「OECD – FAO農業アウトルック2018 – 2027」を紹介し、農作物の供給国について「米については、タイ、インド、ベトナムが主要な供給源となる一方、カンボジア及びミャンマーが新たに供給源として浮上」すると予測している。

 

人口増に加え気候変動を始め、水資源の制約や土壌劣化等が影響して、穀物需給が逼迫するリスクも指摘されており、中国を中心としたアジア各国における安定的な農産物の生産拡大も世界的な課題である。

 

(同社資料より)

 

(3)競合状況
日本企業では、株式会社クボタ(6326、東証1部)、ヤンマーホールディングス株式会社(未上場)があげられる。
シェアに関する詳細なデータはないが、農業機械において井関農機、クボタ、ヤンマーの3社で太宗を占めているという。
井関農機は沿革で触れたように「農家を過酷な労働から解放したい」という想いが創業の原点であり、農業機械専業メーカーとして農家に寄り添い、ユーザーの真のニーズに沿った設計思想や製品開発・提供を差別化のポイントとしている。
<同業他社比較>

 

 

売上高

増収率

営業利益

増益率

営業利益率

時価総額

PER

PBR

ROE

6310

井関農機

153,500

+2.8%

3,600

+72.7%

2.3%

37,925

15.5

0.6

-8.8%

6326

クボタ

2,050,000

+10.6%

220,000

+25.5%

10.7%

3,004,522

19.0

2.0

8.8%

*単位:百万円、倍。売上高、営業利益は各社の今期予想。ROEは前期実績。時価総額、PER、PBRは2021年3月26日終値ベース。

 

【1-4 事業内容】

稲作、野菜作等に関連する農業用機械や景観整備用機械の開発、製造、販売・サービスを手掛けている。

 

(1)製品分類
取扱製品等を以下のように分類している。

製品分類

主な製品

構成比

整地用機械

トラクタ、耕うん機、乗用管理機、芝刈り機など

31.8%

栽培用機械

田植機、野菜移植機など

7.1%

収穫調整用機械

コンバイン、バインダ、ハーベスタなど

12.9%

作業機・補修用部品・修理収入

作業機、補修、修理など

30.3%

その他農業関連

施設工事など

17.9%

*構成比は2020年12月期

 

(2)地域別事業概要
日本国内および海外で事業を展開している。20年12月期の売上構成は、国内が約8割、海外が約2割。

 

①国内事業
①-1 取扱商品
稲作用機械及び畑作・野菜柵用機械に関し、機械化一貫体系を確立し農家に提供している。
*稲作用機械
コメの生産にかかわる大半の機械を取り扱っている。

(同社資料より)

 

*畑作・野菜用機械
コメの生産が減少する一方で、多くの農家は付加価値の高い野菜や果物の生産に注力しており、多種多様な野菜品種に対応した製品をラインナップしている。

(同社資料より)

 

2020年12月期の国内における製品別売上高構成は以下の通りで、近年は収益性の高い部品・作業機・修理収入の構成比が上昇している。

①-2 事業拠点及び商流
系列の販売会社11社による全国ネットワークを構築している。うち6社は100%子会社。営業活動の効率性を考慮し広域化を進めつつ、地域ごとの特性を考慮した商品やサービスをラインアップしている。
また愛媛県、熊本県、新潟県に生産会社を4社有しているほか、茨城県の「つくばみらい事業所」に、将来の農業の在り方を研究する「夢ある農業総合研究所」、ISEKIグローバルトレーニングセンター、技術サービス部を設置している。
製品の販売は最終ユーザーである農家への直接販売が約7割、農協を含めた代理店向け販売が約3割となっている。

 

②海外事業
北米、欧州、アジア(アセアン、東アジア、中国)の3極で事業を展開している。
各地域の事業形態や取扱商品、主要顧客層は以下の通りで、地域ごとの特色がある。
海外の生産拠点は、インドネシアのPT ISEKIインドネシア、中国の東風井関農業機械有限公司(湖北省・江蘇省)の3か所。

 

地域

販売及び事業形態

取扱商品

主要顧客層

北米

OEM供給

トラクタ

・個人(ホビーファーマー)

・景観整備・軽土木業者

・農家(セカンドトラクタ、管理作業)

欧州

代理店販売(一部OEM)

トラクタ、乗用芝刈り機

・景観整備業者

・小規模農家

・個人

アセアン

代理店販売(一部OEM)・生産

トラクタ、コンバイン、田植機

・農家、コントラクター

東アジア

代理店販売

トラクタ、コンバイン、田植機、乗用管理機、野菜移植機他

中国

生産・販売

トラクタ、コンバイン、田植機、乗用管理機他

 

◎北米事業
1977年から、北米市場にトラクタを輸出してきた。
現在では世界的な農機メーカーAGCO社にコンパクトトラクタなどをOEM供給している。

 

◎欧州事業
1971年ベルギーにISEKIヨーロッパを設立。以降ヨーロッパ全域に販売エリアを拡大している。
景観整備市場(コンパクトトラクタ、乗用芝刈機)と農業用トラクタ市場を主体に、市場ニーズに即した小型・高性能な商品を投入している。

 

◎アジア事業(中国、アセアン)
中国では2004年の「農業機械促進法」制定以降、田植機、コンバインの需要が拡大し、急激に農業機械の普及が進んでいる。それに呼応し同社では2003年に井関農機(常州)有限公司、2011年には中国の国有自動車メーカーである東風汽車集団有限公司との合弁で東風井関農業機械有限公司を設立し、高機能・高品質の田植機・コンバインを投入するなど市場ニーズに即応した商品を提供している。
アセアンでは、2013年にタイに販売会社ISEKI SALES (THAILAND)CO.,LTD.(現IST Farm Machinery)を設立し、タイやタイ周辺国向けに事業を展開。日本同様、大規模化が進展する韓国、台湾においては、大型・高能率の商品を投入している。2012年にはインドネシア(水稲の生産量世界3位)にトラクタ製造会社PT. 井関インドネシアを設立した。

(同社資料より)

 

売上の大半を占める北米、欧州ではガーデニングを趣味とする個人や、公園などの景観整備業者が主要ユーザーである。
このため、海外事業の製品構成は、トラクタ、芝刈機が全体の7割を占めている。

【1-5 特長と強み】

(1)技術力
1926年の創立以来、世に先駆けて画期的な農業機械を開発し、農業や社会にイノベーションを起こしてきた。

 

画期的な農業機械開発の一例が2016年にリリースした業界初の「土壌センサ搭載型可変施肥田植機」である。
2種類のセンサで「肥沃度(土壌の肥え具合)」と「深さ」を測定し、苗を植える箇所毎の土壌にあわせて施肥量を自動でコントロールする田植機で、最適な施肥により、稲の倒伏の低減や生育の均一化が図れ、計画的な収穫作業を可能にした。また、品質の安定や過剰施肥防止による肥料コスト・の削減、環境保全などにも寄与している。

(同社WEBSITEより)

 

知的財産戦略にも注力し、農業機械や関連商品のコア技術の創造活動で得られた知的成果である発明や創作を戦略的に権利化している。
特許分野別登録数(その他特殊機械分野)は、2013年から2017年まで1位、2018年2位、2019年1位と常に最上位にある。
また、特許査定率(特許査定件数/(特許査定件数+拒絶査定件数+取下・放棄件数))も96%から100%で推移し、1位ないし2位に位置しており、技術力の高さを裏付けている。
こうした知的財産に裏打ちされた「強み」を活かし、他社商品との差別化を図っている。

 

(2)営農提案・サポート力
生産者の夢ある(=儲かる)農業を実現するためには、省力化や生産性を向上させる農業機械(ハード)と生産管理や先端営農技術(ソフト)の両面において、総合的に農業経営を行っていくことが重要だと考えており、総合的な営農提案とサポートを行っている。

 

この中核となっているのが茨城県つくばみらい市にある「夢ある農業総合研究所」である。

 

2015年に設立した同研究所では、国や自治体、研究機関、大学、民間企業、JAなどと連携を強化しながら、先端技術や先端営農技術を活用したスマート農業の研究・実証・普及に取り組んでいる。グループにおけるエキスパート人材の育成に注力しており、ここで教育を受けたプロ人材を、全国の販売会社に配置し、地域密着型の営農提案により、サポート力を強化している。さらに、日本で培った営農栽培技術やノウハウなどを海外にも展開し、農業の機械化とあわせて普及促進に取り組んでいる。

(同社資料より)

 

(主な取り組み事項)
*スマート農業の普及促進
*水田利活用(大豆・麦・野菜への作付転換)の提案
*GAP(※)認証取得に向けたサポート
*異業種参入、新規参入への栽培技術提案
*地域伝統作物の栽培支援
*自治体などと連携した耕作放棄地再生と地域活性化支援
*夢ある農業女子応援プロジェクトの実施

 

※GAP
Good Agricultural Practice:農業生産工程管理。農業において、食品安全、環境保全、労働安全等の持続可能性を確保するための生産工程管理の取組み。井関農機の指導員が農家の認証取得をサポートしている。

 

(3)連携によるイノベーション
変化し続ける事業環境に迅速に対応するため、産学官との連携や自前主義にこだわらないパートナーとの幅広い連携により、技術力の向上と画期的な商品・サービスの開発・提供に取り組んでいる。
また、海外では各地域の有力な戦略パートナーと提携し、新市場の開拓などグローバル展開を加速させている。

 

(国内)

自治体との先端技術を活用した農業推進に関する連携協定

つくばみらい市と連携したスマート農業に関する実証。センシング技術やスマート技術を活用し、稲作の生産技術向上、コスト低減、高品質化など持続可能な農業の実現を目指す。

夢ある‘農業女子’応援プロジェクト

農林水産省、各地域と連携し、農業女子目線での商品を開発。各地域で農機取扱いセミナー等女性農業者の研修を実施している。

 

(海外)

TAFE社(インド)

インドでの乗用田植機の試験販売、育苗の指導

AGCO社(米国)

販売網を活用した中南米やアジア新市場への試験販売

東洋物産グループ

韓国での高性能農機の販売

 

 

【1-6 ROE分析】

 

17/12期

18/12期

19/12期

20/12期

ROE(%)

4.2

1.6

1.1

-8.8

 売上高当期純利益率(%)

1.77

0.70

0.48

-3.78

 総資産回転率(回)

0.78

0.77

0.75

0.78

 レバレッジ(倍)

3.01

2.95

2.96

3.00

 

中期経営計画ではROE8%を目標としている。レバレッジは既に高水準であり、収益性の改善、資産効率性の向上をどこまで進められるかが課題である。

2.2020年12月期決算概要

(1)連結業績概要

 

19/12期

対売上比

20/12期

対売上比

前期比

予想比

売上高

149,899

100%

149,304

100%

-0.4%

+3.3%

国内

117,717

79%

115,907

78%

-1.5%

+1.2%

海外

32,181

21%

33,397

22%

+3.8%

+11.3%

売上総利益

44,507

30%

43,476

29%

-2.3%

販管費

41,761

28%

41,392

28%

-0.9%

営業利益

2,745

2%

2,084

1%

-24.1%

+89.5%

経常利益

1,108

1%

1,702

1%

+53.6%

+751.0%

当期純利益

723

0%

-5,641

*単位:百万円。当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益。予想比は20年8月公表予想との対比。

 

減収減益も予想は上回る
売上高は前期並みの1,493億円。国内は前期比1.5%減の1,159億円。補修用部品・修理収入が堅調だったが、消費増税前駆け込み需要の反動減や新型コロナウイルスの影響を受け農機製品が減収。海外は同3.8%増の333億円。北米、アセアンが減収の一方、台湾、中国向け出荷が好調だった。営業利益は同24.1%減の20億円。販管費を削減したが減収に伴う粗利減を吸収できなかった。経常利益は同53.6%増の17億円。為替差損および持分法投資損失が縮小した。連結製造子会社に関する土地・建物・機械装置について、土地時価下落と新型コロナ影響を受けた減産による収益性低下に伴い固定資産の減損損失93億円を計上したことなどで当期純利益は56億円の損失に転じた。20年8月公表の予想に対しては売上、利益ともに超過しての着地となった。

 

(2)地域別動向

①国内

売上高

19/12期

20/12期

前期比

予想比

農機製品

 

 

 

 

整地機

253

228

-9.8%

-3.8%

栽培機

90

88

-2.0%

+4.8%

収穫調整機

185

168

-9.2%

0.0%

小計

530

486

-8.3%

-0.6%

作業機

200

204

+2.0%

+7.4%

部品

150

156

+4.0%

+2.0%

修理収入

57

58

+1.8%

-1.7%

小計

408

420

+2.9%

+4.5%

農機関連計

938

906

-3.4%

+1.7%

施設工事

45

61

+35.6%

-3.2%

その他農業関連

193

191

-1.0%

0.0%

合計

1,177

1,159

-1.5%

+1.2%

*単位:億円。予想比は20年8月公表予想との対比。

 

*農機製品は、消費増税前駆け込み需要の反動減、新型コロナウイルス影響による展示会中止や営業活動自粛により減収
*経営継続補助金関連により作業機は増収
*部品売上、修理収入は引続き堅調に推移
*施設は大型物件が完工

 

②海外

売上高

19/12期

20/12期

前期比

予想比

北米

126

122

-3.2%

+4.3%

欧州

102

103

+1.0%

+10.8%

中国

1

8

+700.0%

+33.3%

アセアン

16

7

-56.3%

-12.5%

その他

34

44

+29.4%

-2.2%

製品計

282

286

+1.4%

+6.3%

部品その他

39

47

+20.5%

+51.6%

合計

321

333

+3.8%

+11.0%

*単位:億円。予想比は20年8月公表予想との対比。

 

*北米は、コンパクトトラクタの巣ごもり特需はあったものの、上期までのエンジン入荷遅れによる出荷減影響により減収
*欧州は、春先のロックダウン影響あるも下期は回復傾向、連結子会社の決算期統一(15ヶ月決算)や為替影響もあり増収
*中国は、田植機半製品出荷増により増収
*アセアンは、タイでは干ばつ等の天候影響が徐々に薄れてきたものの、コロナ影響による農家所得の低下に伴い減収。インドネシアでは、入札の減少により減収
*その他:韓国および台湾向け出荷増により増収

 

(3)財政状態とキャッシュ・フロー

◎主要BS

 

19/12月末

20/12月末

増減

 

19/12月末

20/12月末

増減

流動資産

87,159

89,979

+2,820

流動負債

89,735

86,147

-3,588

 現預金

8,404

10,787

+2,383

 仕入債務

37,752

36,872

-880

 売上債権

19,675

21,780

+2,105

 短期有利子負債

41,407

39,459

-1,948

 たな卸資産

54,177

51,845

-2,332

固定負債

38,524

38,861

+337

固定資産

110,352

97,449

-12,903

 長期有利子負債

27,915

29,890

+1,975

 有形固定資産

98,346

86,287

-12,059

負債合計

128,259

125,009

-3,250

 無形固定資産

1,288

1,967

+679

純資産

69,252

62,419

-6,833

 投資その他の資産

10,717

9,193

-1,524

 株主資本

52,840

50,346

-2,494

資産合計

197,511

187,428

-10,083

負債純資産合計

197,511

187,428

-10,083

 

 

 

 

有利子負債残高

69,322

69,349

+27

*単位:百万円。仕入債務には電子記録債務を含む。

 

現預金、売上債権が増加したが、減損損失計上で固定資産が減少し、資産合計は前期末比100億円減少し1,874億円。
負債合計は同32億円減少し1,250億円。
損失計上による利益剰余金の減少などで純資産は同68億円減少の624億円。
自己資本比率は前期末比1.8ポイント低下し32.4%となった。

 

◎キャッシュ・フロー

 

19/12期

20/12期

増減

営業CF

10,509

9,694

-815

投資CF

-7,104

-5,167

+1,937

フリーCF

3,405

4,527

+1,122

財務CF

-2,396

-2,179

+217

現金同等物残高

8,369

10,752

+2,383

単位:百万円

 

税金等調整前当期純利益が損失となったことなどから営業CFのプラス幅は縮小したものの、有形及び無形固定資産の取得による支出の減少で、フリーCFのプラス幅は拡大。
キャッシュポジションは上昇。

 

(4)トピックス

◎「令和2年度なでしこ銘柄レポート」の注目企業にリストアップ
経済産業省「令和 2 年度なでしこ銘柄レポート」において、女性の活躍推進に向けた企業の特徴的な取り組みを行う「注目企業」として紹介された。
レポートでは、社会全体における女性活躍の前進に向けた事例のひとつとして、農林水産省「農業女子プロジェクト」を通じた女性農業者の活躍に貢献する同社の取組みが紹介されている。

 

3.2021年12月期業績予想

(1)業績予想

 

20/12期

構成比

21/12期(予)

構成比

前期比

売上高

1,493

100%

1,535

100%

+2.8%

国内

1,159

78%

1,179

77%

+1.7%

海外

333

22%

356

23%

+6.9%

売上総利益

434

29%

464

30%

+6.9%

販管費

413

28%

428

28%

+3.6%

営業利益

20

1%

36

2%

+72.7%

経常利益

17

1%

35

2%

+105.6%

当期純利益

-56

24

2%

*単位:億円。予想は会社側発表。

 

*為替の前提

 

20/12期

21/12期

予想

1ドル

107.0円

105.0円

1ユーロ

121.5円

123.0円

 

増収・増益を予想
売上高は前期比2.8%増の1,535億円、営業利益は同72.7%増の36億円の予想。
国内売上は同1.7%増の1,179億円、海外売上は同6.9%増の356億円を見込む。
国内外ともに新型コロナウイルス感染症は依然残るものの、ワクチンの普及などで徐々に収束に向かい、今期中には社会活動や経済活動も緩やかに回復していくものと仮定している。
販管費の増加はあるものの、増収効果加え、構造改革と経営効率化に全社で取り組み増益を見込んでいる。
配当は現時点では未定。

 

(2)地域別動向

①国内

売上高

20/12期

21/12期(予)

前期比

農機製品

 

 

 

整地機

228

238

+4.4%

栽培機

88

93

+5.7%

収穫調整機

168

178

+6.0%

小計

486

509

+4.7%

作業機

204

201

-1.5%

部品

156

157

+0.6%

修理収入

58

61

+5.2%

小計

420

419

-0.2%

農機関連計

906

928

+2.4%

施設工事

61

55

-9.8%

その他農業関連

191

196

+2.6%

合計

1,159

1,179

+1.7%

*単位:億円。想比は20年8月公表予想との対比。

 

農業の構造変化に対応した大型機械、スマート農機に加え、サービス・サポート対応の推進強化と、堅調な部品・修理収入により増収を見込んでいる。

 

②海外

売上高

20/12期

21/12期(予)

前期比

北米

128

138

+7.8%

欧州

139

140

+0.7%

アジア

62

74

+19.4%

その他

3

4

+33.3%

合計

333

356

+6.9%

*単位:億円。2021年12月期より、海外売上高の集計区分を変更している。①地域区分の変更 ・アジア:「中国」「アセアン」「東アジア」、・その他:「オセアニア」ほか、②「部品その他」を地域別に集計

 

北米におけるコロナ禍での巣ごもり需要の継続、2020年12月に実施したアセアン販売代理店の連結子会社化などにより、増収を見込んでいる。

4.新中期経営計画

今期を初年度とする5年間の新中期経営計画(2021~2025)を公表した。
長期ビジョンに『「食と農と大地」のソリューションカンパニー』を掲げ、次の100年に向けた礎づくりとするものである。

 

(1)前中計の振り返り

①位置づけ
同社は、創立100周年となる2025年にあるべき姿に近づくための重要なステップとして策定した前半5ヶ年の計画である「中期経営計画(2016-2020)」を策定した。2016年17年は順調に推移したが、2018年以降、市場環境が想定以上に大きく変化し、2020年には新型コロナウイルスが全世界で拡大し大きく影響を受けた。

 

②市場環境の変化
世界的な新型コロナウイルス感染症拡大に加え、国内では、未来投資戦略など、農政によるスマート農業推進が想定以上に加速したが、消費税増税による駆け込み需要に対する反動が想定以上であった。また、天候不順、長雨による作況悪化、台風など自然災害による被害も甚大であった。
海外では、アセアンにおいてタイ市場が軟調で、販売競争が激化したほか、中国でも補助金政策の変化、穀物価格下落等により農機市場が低迷し、現地メーカー製品も台頭するなど成長の踊り場状態が継続した。

 

③数値目標について
上記のように想定した環境からの乖離もあり売上高、利益面ともに大きく未達となってしまった。
ただ、会社側は、各種施策は着実に進んだと考えているとともに、以下のような課題を認識している。

(同社資料より)

 

 

主な成果

引き継ぐべき残課題

激変する国内農業への対応強化

*販売・サービス体制広域化

広域販売会社を10社から6社体制に再編

*収支構造改革

メンテナンス収入が増加し、販売会社の利益率が改善。市場変化に合わせた拠点大型化

*大型、先端、野菜作の取り組み施策強化

*販売会社収益体質の更なる強化

海外事業の拡大

*イギリス、インドで戦略パートナーとの提携が拡大*市場にマッチした商品開発・投入

排出ガス規制対応、先端製品、コンパクトトラクタ等

*更なる連携強化による事業拡大

*ニーズ変化に対応した商品開発

(欧州:電動化、中国:ハイエンド等)

開発・生産最適化による収益力強化

*排出ガス規制エンジン内製化

コスト低減、競争力強化

*インドネシア事業の収益改善

PT.ISEKIインドネシアの黒字定着

*国内外の不採算商品の収益改善、低コスト設計の抜本的見直し

*生産区分最適化

 

(2)新中期経営計画の概要

①基本理念、長期ビジョン、キーワード
◎基本理念
「『お客さまに喜ばれる製品・サービスの提供』を通じ、豊かな社会の実現へ貢献する」
事業環境に対応したビジネスモデルの変化を目指すために前述の企業理念に、新たに「サービス」を加えた。

 

◎長期ビジョン
「食と農と大地」のソリューションカンパニー
~夢ある農業と美しい景観を支え、持続可能な「食と農と大地」の未来を創造する~

 

このビジョンの下、SDGsの実現にも取り組む。
*農業の強靭化を応援
*住みよい村や街の景観整備
*循環型社会を目指す環境保全

 

◎キーワード
「変革」
『次の100年に向けて…』

 

②経営環境と課題
◎環境認識

国内

海外

*農家戸数の減少と大規模化

*作付転換

*スマート化、規制改革(WAGRI(※)、オープンAPI、DX他)

*低価格化

*地域毎の多様な環境

*高機能化と低価格化(多様なニーズ)

*競争激化

※WAGRI:農業の担い手が、データを使って生産性の向上や、経営の改善に挑戦できる環境をつくるために、データの連携や提供機能を持つ「農業データ連携基盤」を指す。
※オープンAPI:OSやソフトウェアが提供している機能を外部のアプリケーションから利用できるようにするインターフェース。

 

加えて、「ウィズ〜アフターコロナ、世界的食糧問題、気候変動リスク」「ビジネスモデルの変化(モノからコトへ)」「環境意識の高まり(排出ガス、電動)」「非財務情報の開示要求の高まり、SDGs」「法規制変化への対応、コンプライアンス」への対応も必須である。

 

◎経営課題
*需要、ニーズ変化への対応
*技術革新の実現
*ESGへの取り組み強化
*財務体質改善、収益拡大
の4つを挙げている。

 

③基本戦略
計画の位置づけは「2025年に迎える100周年の次の100年に向けた礎づくり」。

 

基本戦略は経営課題の解決のための以下2つ。
<1.ベストソリューションの提供>
お客さまを対象に、製品だけでなくモノからコトへ「サービス」の提供に注力する。

 

各分野で国内、海外、開発生産が一体となった商品開発と営業戦略を推進し「選択と集中」に取り組む。
また、「サービス」を柱とするビジネスモデルの転換を図る。ビジネスモデルの転換においては、「情報」を軸としたDXの推進、ニューノーマルへの対応、メンテナンス収入の更なる拡大を目指す。

 

<2.収益とガバナンス強化による企業価値向上>
売上高に左右されることなく収益を確実に上げられる筋肉質への体質転換を進める。対象となるステークホルダーは、株主・従業員・取引先。

 

営業利益率5%に向け、最適生産体制構築による構造改革、グループ全体最適視点での経営効率化、適切な財務・資本戦略を推進する。
また、ESGマテリアリティの見直しによる取り組み強化とSDGsへの貢献にも注力する。

 

これら基本戦略の推進にあたっては、事業別視点や社内カンパニー制導入による「不採算事業の見える化」や、グループ全体での人材をフル活用しての「人材の最適配置」が不可欠である。

 

④基本戦略の具体的な展開
◎選択と集中
(国内市場戦略)
重点施策は「大規模農家取組み強化」「DX、スマート戦略強化」「収支構造改革加速」の3つ。
大規模農家への取り組み強化には、「売上拡大機種」としてALL Japanシリーズ、スマート農機、野菜作機械、輸入作業機を挙げる。2020年にALL Japanシリーズのフルラインナップが完成した。今期はロボットトラクタの本格展開・低価格商品・野菜作機械を投入し、その後も上記重点商品を投入する。
DXやスマート戦略を強化し、「営業力及びサービス力向上」を図る。
収支構造改革を加速化し、「営業利益率を改善」する。

 

こうした国内事業の変革を進め、農業機械の「販売」と「サービス」を通じて存在感のある「ISEKI」を目指す。

 

(海外市場戦略)
「食と農と大地」のソリューションカンパニーとして世界各地の地域ニーズに、ものづくりを通して貢献する。

 

3極それぞれにおける戦略、施策は以下の通りである。
【北米】
*環境認識
北米コンパクト市場は堅調に拡大している。2020年度は21万台超の実績であった。
巣ごもり特需の一時的な反動は予想されるものの中長期的に市場は安定推移すると見込む。

 

*戦略・施策
パートナーであるAGCO社との協力関係を強化し、AGCOブランド戦略の展開をサポートする。
堅調な市場における売上・マーケットシェアの拡大に向け、商材の拡充、エコノミー仕様コストダウン機の投入を進める。
一方、収益性の改善・拡大のために低収益商品の改善を目指す。
こうした施策により、収益性の改善と共にシェアアップを図る。

 

 

【欧州】
*環境認識
欧州でのコンパクト及びディーゼルガーデン市場は中東欧含め緩やかに拡大する。
環境意識の高まりによる電動化が加速する。

 

*戦略・施策
欧州販売網を再構築する。サービスおよび販売体制を強化するほか、効率化によるグループ収益拡大を目指す。
ブランド認知度の高い景観整備市場でのシェア維持・拡大に向け、電動化及びインド勢対抗の低価格機の研究、開発を進める。
コンシューマー向け商品やインプルメント(※)の調達の効率化や低収益商品の改善による収益性の改善・拡大にも取り組む。
※インプルメント:トラクタが牽引する様々な作業機械。

 

【アジア】
*環境認識
アセアンでは、農市場の大きさと成長性が期待される。
韓国、台湾では、農業従事者の高齢化等、農業従事者不足が顕著となっている。
中国では、アジア最大の米生産量を担う低価格農機と高性能農機が混在している。

 

*戦略・施策
新生IST Farm Machinery(タイ)を起点にアセアン事業を加速化させる。
パートナーである韓国・台湾代理店を通じ大型高性能農機市場でのマーケットプレゼンスを確立する。
日本の高性能稲作農機と中国生産によるコストメリットを生む商材を取り混ぜて事業を展開する。

 

(商品・開発戦略)
強みである地域・商品と成長市場に集中した商品開発により収益を拡大させる。

 

国内では、「大規模化対応」がメインテーマである。
大中型、低価格、スマート農機、畑・野菜作商品のラインアップを強化する。
また農業スタイルの変化にも対応し、提供方法を多様化させる。

 

海外でのメインテーマは「ブランド拡大対応」。
強みである欧州と北米商品を更に強化する。
アセアンにおける商品の強化による足固めを図る。
中国・東アジアにおけるブランドを確立する。

 

国内外共通のテーマは、「安全・環境対応」と「先行開発」。
安全・環境対応においては、農作業事故防止への対応、排出ガス規制対応内製エンジンの拡大、電動商品の開発に取り組む。
先行開発(フロントランナー)においては、グローバル戦略機、環境問題に対応した電動化・水素活用、自動化・ロボット化・データ活用などがターゲットである。

 

この中で、「グローバル戦略機」「電動化」「自動化・ロボット化・データ活用」への取り組みは以下の通りである。

グローバル戦略機

食糧不足による農機需要の拡大に向けて、トラクタ、コンバイン、田植機それぞれ主となるプラットフォームを開発し、それをベースに各地域の規制および耐久性、デザインも考慮し、必要装備を付加したシンプル低価格なグローバル戦略機を投入する。

電動化

電動商品や研究で培った技術を活用し、環境問題に対応する欧州景観整備市場のプロ向け電動化商品を投入する。

コンシューマーを対象に、家庭菜園やハウス向け商品も展開する。

自動化・ロボット化・データ活用

国内農家の規模拡大に向けて、省力化やデータ利用型農業に対応するスマート農機を順次投入していきながら、レベル3の完全無人型の本格的な普及に向けて開発を推進する。

 

(同社資料より)

 

◎ビジネスモデル転換
(DXの推進)
スマート農機が重要なデバイスとなる。
収集したデータを販売・サービスにおいては「データを活用したユーザーの想いに応えるサービス」の開発につなげる。また、開発・生産においては新機能開発や品質分析を通じた商品開発に活用する。
ユーザーのDXと自社のDX、双方を推進し、農業バリューチェーンの発展に貢献する。

(同社資料より)

 

(ニューノーマル)
新型コロナウイルス感染症の拡大により、食への関心の高まりから食料の安定供給に向け、生産基盤の強化や食料自給率向上が重要となっていることや住環境保全による住みよい街づくりに貢献することから農業、景観整備事業はエッセンシャルビジネスであると再認識された。「食と農と大地」を支えるISEKIという立場から、営業面ではWebを活用したバーチャル実演会や小規模ロングラン商談会、生産面ではオンラインでの生産立ち上げサポート、働き方の面では在宅勤務や分散業務など、様々な変革を進めている。

 

(サービス事業の拡大)
「モノ」売りにとどまらず、「情報」のビジネス化などサービス事業を拡大していく。
国内では、部品・修理収入、作業機の拡大に向け、大型整備拠点の拡充、ICT等新規商材の拡大、サービス担当者増員および人材育成に取り組んでいく。
海外でも、部品、サービス事業の確立のため、ディーラー教育によるサービス力の強化、欧州代理店との連携強化を図る。
また、上記以外の新たなビジネススタイルを企画、展開していく。

 

◎収益性改善
(構造改革)
生産体制の改革を進める。
部品・ユニットの生産拠点および製品組立、出荷拠点など生産体制を再編し、グループの人材・設備を有効活用し生産性の向上を図る。
また、内外作の区分も見直す。
重要保安部品や技能伝承が必要なコア技術については内作を継続する一方で、上記の生産体制再編成に伴い、内作部品の外作化を推進し構造改革を図る。

 

(同社資料より)

 

 

(経営効率化)
各視点から効率化を図る。

業務効率化

*開発プロセス厳格化による開発の効率化

*IT、RPA、シェアードサービス強化で間接部門スリム化

営業効率化

*デジタルツールを活用した営業活動

*国内商品流通改善による運送コストと在庫の削減

投資効率最大化

*グローバル共通設計によるコストダウン、型式削減

*最適生産体制の再構築

人材の最大活用

*グループ全体での人員フル活用

*ダイバーシティ推進体制整備

 

(財務・資本戦略)
この5年間累計で営業CFを600億円創出し、ROE8%を目指す。
粗利率改善などによる営業利益率向上、CCCの改善などによる資産効率改善、減価償却内での設備投資、有利子負債削減、安定的な配当継続などに取り組む。
2025年に営業利益率5%、D/Eレシオ0.8倍を掲げている。設備投資においては資本コストも重視する。

 

前中計が大幅計画未達であったことを踏まえて、「売上に左右されることなく収益を確実にあげられる筋肉質への転換」が必須と考えている。

 

営業利益率5%実現に向けては、製品ごとの利益率改善、不採算商品の見直し、メンテナンス収入拡大、新規事業立ち上げによる「売上総利益率改善」と、生産区分最適化、余剰設備の整理、PRS・シェアード強化、ブロック戦略、不採算事業の整理による「固定比率改善」を具体的な施策として挙げている。

 

◎ESG
(SDGs)
3つのテーマを設定し、事業を通じての目標達成を目指している。

農業の強靭化を応援

 

 

住みよい村や街の景観整備

 

 

循環型社会を目指す環境保全

 

 

 

(ESG)
以下のESGマテリアリティを特定し、事業機会の創出とリスク低減を通じて社会課題の解決と価値提供を追求する。

分野

重要課題(マテリアリティ)

社会へ提供する価値

関連するSDGs

社会

ブランド価値向上

*顧客満足向上と品質づくり

*サプライチェーンマネジメント

*社会貢献と国際協調

*農業・景観整備の生産性向上、安全や環境負荷低減に貢献する商品・サービス

*女性農業者の活躍促進(農業女子応援プロジェクト)

*地域社会の活性化・発展

 

エンゲージメント向上

*ダイバーシティ

*働きやすい職場づくり

*労働安全衛生マネジメント

*多様な人材の創出

*安全で働きがいのある職場提供

 

環境

環境保全

*環境経営マネジメント

*環境適合設計(エコ商品)

*環境負荷低減(CO2ほか)

*温暖化ガス排出量削減

*循環型社会形成への貢献

 

企業統治

企業価値向上

*ガバナンスの強化

*リスクマネジメント

*コンプライアンス

*情報開示と建設的な対話

*企業価値向上、安定的な配当

 

 

(エコ商品、環境マネジメント)
グループ全体で環境マネジメントシステム(EMS)を導入しており、製造拠点(国内6、海外3)での認証取得率は100%。非製造拠点(国内販売会社9社)、その他9拠点でも同じく100%の取得率である。

 

また、環境負荷低減に向け、中長期目標を設定し推進している。
国内製造所の生産活動におけるCO2排出量削減を、2030年には2013年度比26%削減する。また、国内売上高におけるエコ商品比率を2030年には50%以上に引き上げる考えだ。また、2050年の脱炭素に向けて、電動化・水素活用なども検討し、取り組みを更にレベルアップしていく方向だ。

 

 

(人事の変革とエンゲージメント)
人事の変革においては、事業戦略に基づく人事政策を実行し、グループ人材の最適配置を行う。また、先端技術やグローバル人材など、今後の事業戦略実現に向けた人材の確保・育成に注力する。
従業員エンゲージメント向上に向け、エンゲージメントサーベイの実施やワークライフバランス充実を通じて働きやすく魅力ある職場を形成する。
加えて、次の100年を担う人材を育成するために、育成プログラムや教育を充実させるとともに、ダイバーシティを推進する。

 

 

(ガバナンス)
2021年に行われるコーポレートガバナンス・コードの改定を踏まえ、改革を進める。
取締役会に関しては、現在の取締役は全員日本人の男性のみで、社外取締役は10名中3名という状況であり、「社外取締役の比率向上、多様化検討」に取り組む。また、「後継者計画策定・報酬制度見直し」も重要な課題である。
海外子会社の内部統制や国内外における個人情報保護などコンプライアンスの更なる徹底、リスクマネジメントの一層の強化を図っていく考えだ。

 

◎計数目標
基本戦略の一つを「売上高に左右されることなく収益を確実に上げられる筋肉質への体質転換を進める」としたように、売上規模を計数目標としては設定せず、「2025年 売上高営業利益率5%」を目標として掲げている。
前述の通り、売上総利益率改善、固定費削減、経営効率化、構造改革に取り組む。

 

5.冨安社長に聞く

冨安社長に、社長のミッション、自社の競争優位性、今後の課題、株主・投資家へのメッセージ等を伺った。

 

Q:「2025年に創業100周年を迎える御社にあって、現在の社長の役割、ミッションは何であると考えていますか?」
A:「100周年を迎える2025年、更にその先100年に向けた礎をどうやって作るか、これこそが私のミッションであり、そのための変革を先頭に立って牽引するのが私の役割であると認識しています」

 

ゴーイングコンサーンである企業において経営者の最大の役割は「次の世代に繋ぐこと」です。
100周年を迎える2025年までしっかり繋ぐことに加え、井関農機はそこで終わるわけではないので、更にその先100年に向けた礎をどうやって作るか、これこそが私のミッションです。

 

中期経営計画でキーワードとしている「変革」は、前中期経営計画から掲げているのですが、改めて変革にしっかりと取り組んでいきます。私は井関農機の生え抜きではありませんが、外からきた人間が社長を務める意味がまさに「変革の実行」にあるのではないかと思っています。
長い伝統と歴史を持つ当社ですが、これからも成長を続けていくには、これまでの常識に囚われず変えるべきものは変えなければならない。私は「創業的変革」とも言っているのですが、100周年という節目に向かって新しい企業を立ち上げるような意識を持つことが求められており、そうした変革を進めるには私のような外の人間の方が適していると考えています。
今回の中計では「製品に加えサービスの提供を行う」というビジネスモデルへの変革を掲げていますが、まさにこうした変革を先頭に立って牽引するのが私の役割であると認識しています。

 

Q:「ありがとうございます。大変明確なミッションだと理解しました。続いて社長は井関農機の強み、競争優位性はどこにあるとお考えでしょうか?」
A:「農業機械の総合メーカーであるとともに、唯一の専業メーカーとして農業一筋に農家に最も近い所に立ち続けていること、高い技術力で本当に農家にとって役立つものを創り出していることだと考えています」

 

先程の変革とは一見すると反対のようですが、当社で絶対に変えてはならないのが「農家を過酷な労働から解放したい」という創業者の想いです。これは井関農機100年の歴史の最大の土台です。
当社は農業機械の総合メーカーであるとともに、唯一の専業メーカーでもあります。競合先の企業は様々な事業を展開していますが、それに対し農業一筋に農家に最も近い所に立ち続けているというのが当社最大の強みであろうと考えています。
こうしたポジションにいるからこそ、日本の稲作の一貫体系を形成する大型トラクタ、田植機、コンバインといった各種機械をフロントランナーとして世に出すことができてきたのです。

 

また、こうした製品を次々と送り出すことのできる高い技術力も大きな競争優位性であると考えています。
特許登録件数は常に1位か2位ですし、特許査定率も常に90%以上を維持しています。つまり量のみではなく質も伴った独自性の高い製品をコンスタントに生み出し続けているのです。

 

一つ実例をご紹介しましょう。
当社が、農業機械の中でも最も強みを発揮しているのが田植機です。
これまでも1971年に発売した「さなえ」を皮切りに様々な田植機を開発してきましたが、最近では2016年にリリースした「土壌センサ搭載型可変施肥田植機」は今申し上げた当社の特徴がよく現れた製品です。
この田植機の開発は、「作業効率や品質の低下につながる稲の倒伏をなんとかしたい」という農家の悩みから始まりました。この田植機は、2種類のセンサで「肥沃度(土壌の肥え具合)」と「深さ」を測定し、苗を植える箇所毎の土壌にあわせて施肥量を自動でコントロールする田植機で、最適な施肥により、稲の倒伏の低減や生育の均一化を図ることができるため、農家は計画的な収穫作業が可能になります。
過去のデータ等を基に肥料をコントロールする技術は他社でも見られますが、田植え時の土の状態にあわせてリアルタイムに最適な施肥を行えるのは当社独自の技術です。開発開始から製品化まで7年ほど時間がかかりましたが、農家に最も近い所にいて、本当に農家にとって役立つものを創り出したいという想いがあるからこそ可能な開発だといえるのではないかと思います。

 

Q:「大変御社の特徴がよくわかるお話ですね。では、そうした御社の特徴や競争優位性を磨き続けるための仕組みや取り組みはいかがでしょうか?」
A:「人の育成に尽きるのではないでしょうか。ここ5年ほどで3つの研修センターを設立し、各種技術やノウハウの伝承、発展を進めています。技術力向上に向けては外部とのオープンイノベーションにも積極的に取り組んでいます」

 

人の育成に尽きるのではないでしょうか。
ここ5年ほどで3つの研修センターを設立しました。
IETC(設計基本技術トレーニングセンター)は基礎技術や設計の研修、ITTC(ISEKIテクニカルトレーニングセンター)は生産現場の技能研修、IGTC(ISEKIグローバルトレーニングセンター)は販売会社におけるサービスやメンテナンスの指導。ここは海外ディーラー向け研修なども行っているので、名称に「G(グローバル)」を付けています。

 

3か所とも各種技術やノウハウの伝承、発展を進めています。
研修の一環として技術研究発表会、メンテナンスエンジニアによる技能コンクールなどを開催し、自らの成果を発表したり、仲間の実績を見たりすることで、全体のレベルアップやモチベーションの向上に繋げています。

(同社資料より)

 

技術力向上に向けては外部とのオープンイノベーションにも積極的に取り組んでいます。
先ほど申し上げた土壌センサ搭載型可変施肥田植機は試験機関との協力関係が大きく寄与した一例です。
それ以外にも、農林水産省の外郭団体である農研機構(国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構)や、自治体、民間企業とも様々な取り組みを行っています。
例えば、大規模農家における先端ICT農業の実証には、実際に現場で機能するかが最大の鍵になってきますので自治体とのタイアップは不可欠です。
スタートアップ系企業との繋がりも増えています。

 

 

Q:「続いて課題についても伺いたいと思います」
A:「最も重要な課題が「需要、ニーズ変化への対応」です。国内では農家の大規模化、米から野菜などへの作付転換、先端ICT技術への対応が不可欠です。海外では日本企業としてのアドバンテージを活かしたアジアにおける米作市場への浸透です。いずれも、最も取り組まなければならないのは「人材」であり、全社挙げて取り組んでいきます」

 

今回の中計では「需要、ニーズ変化への対応」「技術革新の実現」「ESGへの取り組み強化」「財務体質改善、収益拡大」の4つを経営課題としています。

 

最も重要なのが「需要、ニーズ変化への対応」です。
国内では、人口は減少、農家の数も減っていく。こうした中で農家の大規模化、米から野菜などへの作付転換が進む。特に大規模化が進むと農家運営には先端ICT技術がますます不可欠になります。こうした需要の変化に的確に対応していかなければなりません。

 

一方今後の成長戦略を語る上では成長エンジンであるべき海外をどのように伸ばしていくかも需要です。
欧州市場と北米市場については歴史や実績もあることから、景観整備や家庭の園芸需要により、今後も比較的堅調に伸びてくだろうと見ています。

 

本腰を入れて伸ばしていかなければならないのがアジアです。
中国は近年現地企業が成長し、標準機に関しては我々が力を入れるメリットが少なくなっていますが、食料確保需要への対応やICT・環境ニーズ等に対応する高性能・高機能製品の輸出や技術供与が中心になっていくと考えています。

 

一方、アジアの稲作については、大きな成長余地があると思っています。特に、欧米の農機メーカーは当然畑作中心ですから、水田の世界は日本企業に大きなアドバンテージがある。
まだまだアジアでは田植えではなく直播で稲作している地域も沢山あり、機械化も進んでいませんので、「農家を過酷な労働から解放したい」という私たちの創業の想いを、今度はアジアで実現したいと考えています。
アジア展開の中心は販売拠点としてのタイと製造拠点であるインドネシアです。インドネシア工場からの出荷は、現在のところは北米・欧州向け中心ですが、フラッグシップ工場としてタイの現地法人を使ってアジア全域に出荷していきます。
最も期待される成長市場のインドでは、現地企業であるTAFE社とのアライアンスをより積極的に展開していきたいと思います。

 

こうした施策を実際に進めるにあたって最も取り組まなければならないのはやはり「人材」です。
国内での育成も当然ですが、現地での育成がもっと必要になってきますので、先程申し上げた「IGTC」を中心に全社挙げて人材育成を進めます。

 

 

Q:「今回の中期経営計画において社長が最も投資家やステークホルダーに伝えたい点はどんなところでしょうか?」
A:「基本戦略にある、「ビジネスモデルの転換」と「売上高に左右されることなく収益を確実に上げられる筋肉質への体質転換」です」

 

いくつもあるのですが、やはり、先程も申し上げた基本戦略に挙げている「ビジネスモデルの転換」です。
これまでは基本理念で「需要家に喜ばれる製品の提供」を謳っていたのですが、「お客さまに喜ばれる製品・サービスの提供」とし、カスタマーズファーストをより強く意識付けるとともに、サービスをこれまでも行ってきた機械のメンテナンスという意味ではなく、情報やノウハウのプロバイダーとしてベストソリューションを提供していきます。

 

もう一つは基本戦略としている「売上高に左右されることなく収益を確実に上げられる筋肉質への体質転換」です。
ここ数年、新型コロナウイルスを筆頭に国内外で当初想定していなかった大きな環境変化がありました。読みの甘さも否めませんが、そうはいっても予測不可能な変化が生じることは今後もありえます。
そうした環境変化の中でもしっかりと収益を上げていく、前中計で計画未達となった反省に立ち、売上高に左右されることなく利益を上げることを目指します。
営業利益率5%実現に向けては様々な施策が必要ですが、特に力を入れるのが「最適生産体制構築による構造改革」です。
国内と海外の工場・生産拠点の役割を徹底的に見直し、重要保安部品や技能伝承が必要なコア技術については内作を継続する一方で、内作部品の外作化を推進していきます。
また、設計段階からしっかりと工程管理を行うことで、手戻りをなくすこともより徹底して行っていきます。

 

 

Q:「御社は統合報告書「ISEKIレポート」を発行し、ESGやSDGsについても積極的に情報発信されています。御社におけるESGの位置づけについてお聞かせください」
A:「創業理念である「農家を過酷な労働から解放したい」というミッションを持つ当社が事業活動を通じて製品やサービスを提供することがイコールESGやSDGsの実現なのだと考えています」

 

創業理念「農家を過酷な労働から解放したい」、このミッションに取り組むことこそがまさにESGでありSDGsです。
つまり、こうした想いを持ち、社会的存在意義を認識している当社が事業活動を通じて製品やサービスを提供することがイコールESGやSDGsの実現なのだと考えており、年に1回従業員向けに行う「社内IR」も含め、常に社内でそうしたメッセージを強く発信しています。
また、「ISEKIレポート」の制作には各部署の若手社員にも携わってもらい意識の浸透を図っています。
一方で、ESGやSDGsは単に社会的責任を果たすということではなく、持続的に社会課題を解決し、価値を提供していくためにも収益を継続的に上げなければならないという点も強調しています。

 

 

Q:「では最後に株主・投資家へのメッセージをお願いいたします」
A:「変化の激しい事業環境ですが、中期経営計画に掲げた施策を着実に実行して社会課題を解決するとともに、企業価値の向上を実現してまいりますので、株主、投資家の皆様にはぜひ当社を中長期的な視点で応援していただきたいと存じます」

 

株主や投資家の皆様にまず申し上げたいのは、農業機械やサービスの提供というのは、人々の暮らしに不可欠な「食」を支えるエッセンシャルなビジネスであるということです。このエッセンシャルビジネスを持続的に成長させていくことは、社会的にも極めて重要な責務であると認識しています。

 

当社の主力市場である国内は、総人口・農業人口ともに減少が避けられませんが、大規模化、米から野菜への転作、先端ICT農機の提供など、新しい需要も生まれており決して悲観するものではありません。当社ならではの競争優位性を活かしてこうした需要を取り込んで着実に収益を上げていきます。
海外では北米・欧州という既存市場の安定的な成長とともに、日本国内で培った稲作のノウハウを活かして、人口が今後も増加するアジアでの大きな成長を追求します。
アジアでは農業機械による効率化余地が極めて大きい。「農家を過酷な労働から解放したい」との想いで事業を行ってきた当社にとっては、まさにそのエッセンシャルな役割を果たすべき市場です。

 

同時に課題である収益性の向上にも取り組んでまいります。
「営業利益率5%、ROE8%以上」は前期の水準からするとチャレンジングに見えるかもしれませんが、2025年までには様々な取り組みによりクリアできるものと考えています。

 

変化の激しい事業環境ですが、中期経営計画に掲げた施策を着実に実行して社会的な課題を解決するとともに、企業価値の向上を実現してまいりますので、株主、投資家の皆様にはぜひ当社を中長期的な視点で応援していただきたいと存じます。

 

6.今後の注目点

中期経営計画の初年度である今期、短期的な視点からは、2期連続の営業減益からの底入れ・回復がなるか、四半期ごとの進捗をチェックしていきたい。
一方、中長期的な視点では、冨安社長へのインタビューにもあるように「ビジネスモデルの変革」「筋肉質への転換」、この2つの変革がどのようなスピード感で進んでいくのかが注目される。
また、人口減のため一見すると期待しにくいと思われがちな日本の農業市場だが、実は新たな需要が生れているということも、大変興味深い。同社ならではの強みを活かしてそうした需要を取り込んでいくことも期待したい。加えて、成長が期待されるアジア市場においても、「農家を過酷な労働から解放したい」というミッションがどのように実を結び、社会的な価値を提供することになるのか、ウォッチしていきたい。

 

 

<参考:コーポレート・ガバナンスについて>

◎組織形態、取締役、監査役の構成

組織形態

監査役設置会社

取締役

10名、うち社外3名

監査役

5名、うち社外4名

 

◎コーポレート・ガバナンス報告書
最終更新日:2021年3月31日

 

<基本的な考え方>
当社は経営環境の変化に迅速かつ的確に対応し、公正な経営を維持することを主たる目的として経営システムを運営しております。また、持続的な成長と中長期的な企業価値向上を経営の最重要課題と考えており、株主の皆様やお客さまをはじめ、取引先、地域社会、従業員等のステークホルダーとの良好な関係を維持するために、コーポレート・ガバナンスの充実を図っております。ステークホルダーに対し重要な情報を適時適切に開示するための社内体制を整備するとともに、「コーポレート・ガバナンスはグループ全体で充実させることが重要である」との認識のもと、関係会社の管理規程、報告体制等を整備し業務の適正性の確保及び情報の共有化を図っております。

 

<コーポレートガバナンス・コードの各原則のうち、実施しない原則とその理由>

原則

実施しない理由

【原則4-1 取締役会の役割・責務】

【補充原則4-1-3 最高経営責任者等の後継者の計画(プランニング)】

当社は、取締役会の諮問機関として独立社外取締役を主要な構成員とする「指名報酬委員会」を設置しております。取締役候補者の指名に関しては、「指名報酬委員会」の答申を踏まえ、取締役会にて決議する体制としておりますが、現状においては、後継者の計画(プランニング)の策定までは行っておりません。 今後、「指名報酬委員会」において、最高経営責任者等の後継者の計画(プランニング)策定に向けた議論を行ってまいります

【原則4-11 取締役会・監査役会の実効性確保のための前提条件】

取締役会全体としての知識・経験・能力のバランス及び取締役会の規模は適正であると判断しておりますが、ジェンダーや国際性の面を含む多様性の確保については、今後の課題として検討を進めてまいります。

 

<コーポレートガバナンス・コードの各原則に基づく主な開示>

原則

開示内容

【原則1-4政策保有株式】

・政策保有に関する方針 当社は、農業機械の製造・販売等の過程における取引先企業との長期的・安定的な取引関係の維持・強化が、農業機械総合専業メーカーとして「需要家に喜ばれる製品」を安定的にお届けすることに不可欠であり、また、当社の中長期的な企業価値向上に繋がるものと考えております。そのため当社は、事業活動に不可欠な円滑な取引関係の維持・強化等により、中長期的な企業価値向上に資するものである場合に、必要と認める会社の株式を保有します。 株式保有の意義については、保有に伴う便益とリスク等について、資本コストを踏まえ、毎年取締役会において個別に検証しております。検証の結果、当社の中長期的な企業価値向上への貢献が期待できないと判断し、保有の意義が希薄となった株式については、売却検討対象とします。

 

・議決権行使の基準 保有株式に係る議決権行使は、発行会社の経営方針や経営状況等を踏まえ、当社の中長期的な企業価値向上に繋がるかに加え、株主共同の利益に資するかについて必要に応じて発行会社との対話を行う等、総合的に判断することとしております。

【補充原則4-11-3 取締役・取締役会の評価】

当社は、取締役会の機能のさらなる向上を目的として、取締役会の実効性につき、各役員による自己評価および分析を行いました。実効性評価は、第三者機関を起用し、取締役、監査役全員を対象に個別にアンケートおよびインタビューを実施するなど、個々の意見を求めやすい方法で実施しました。

アンケートの回答からは、社外役員の意見の反映や監督機能、「指名報酬委員会」を通じた取締役候補者指名の適切な監督などおおむね肯定的な評価が得られており、取締役会全体の実効性については確保されていると認識いたしております。

一方で、経営計画の進捗状況のフォロー、最高経営責任者(CEO)等の後継者計画の策定・運用など、取締役会の機能の更なる強化や議論の活性化に向けた課題についても共有いたしました。

今後、当社の取締役会では本実効性評価を踏まえ、課題について十分な検討を行ったうえで迅速に対応し、取締役会の機能をさらに高めるべく、継続的にPDCAのサイクルを回して対応してまいります。

【原則5-1 株主との建設的な対話に関する方針】

当社は、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を実現するためには、株主の理解が不可欠であると認識しております。株主に当社の経営方針を分かりやすい形で説明し、建設的な対話を行い、長期的な信頼関係を構築していきたいと考えております。

 

(1)対話全般について統括・目配りを行う経営陣・取締役の指定 株主との対話全般については、経営管理部門(IR・広報室、総合企画部、財務部、総務部)の担当役員が統括し、当該役員、当該経営管理部門が決算説明会をはじめとした様々な取組みを通じて、建設的な対話が実現できるよう積極的な対応に努めています。 また、ホームページ上に専用ページを設け、経営方針、業績、様々な取組みなどを分かり易く掲載しています。

 

(2)対話を補助する社内部門の有機的な連携のための方策 IR担当者は対話を充実させるため、各テーマの担当部署と連携し、開示資料の作成や必要情報の共有などを積極的に進めています。 また、経営陣幹部への情報共有を図るため広報連絡会を月1回実施しています。

 

(3)個別面談以外の対話の充実に関する取組み 個別面談以外の対話の手段としては、アナリスト・機関投資家向けの決算説明会や個人投資家向け説明会を行っているほか、当社事業所見学会などを実施しています。

 

(4)対話において把握された株主の意見の経営陣へのフィードバック 株主との対話内容は、必要に応じ、会議体での報告やレポートの配布などにより、取締役・経営陣および関係部門にフィードバックし、情報の共有を図っています。

 

(5)対話に際してのインサイダー情報の管理・情報開示に関する方策 インサイダー情報の管理に関する規定を策定し、管理しています。 決算発表前の期間は、サイレント期間とし、投資家との対話を制限しています。また、情報開示にあたっては、公平かつ適時、適切な開示を実施します。

 

株式会社インベストメントブリッジ
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