日本ゼオン(4205) 減収減益、中間配当は据え置き
田中 公章 社長 |
日本ゼオン株式会社(4205) |
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企業情報
市場 |
東証1部 |
業種 |
化学 |
代表取締役社長 |
田中 公章 |
所在地 |
東京千代田区丸の内1-6-2 |
決算月 |
3月末日 |
HP |
株式情報
株価 |
発行済株式数(自己株式を含む) |
時価総額 |
ROE(実) |
売買単位 |
|
1,116円 |
237,075,556株 |
264,576百万円 |
7.9% |
100株 |
|
DPS(予) |
配当利回り(予) |
EPS(予) |
PER(予) |
BPS(実) |
PBR(実) |
未定 |
– |
未定 |
– |
1,176.87円 |
0.9倍 |
*株価は8/14終値。発行済株式数は21年3月期第1四半期決算短信より。ROE、BPSは前期実績。今期通期予想は新型コロナウイルス感染症が事業活動及び経営成績に与える影響に関して、現時点では合理的な算定が困難であることから未定としている。
業績推移
決算期 |
売上高 |
営業利益 |
経常利益 |
当期純利益 |
EPS |
DPS |
2017年3月 |
287,624 |
30,767 |
31,805 |
23,152 |
104.31 |
16.00 |
2018年3月 |
332,682 |
38,881 |
40,893 |
13,056 |
58.81 |
17.00 |
2019年3月 |
337,499 |
33,147 |
36,319 |
18,458 |
84.06 |
19.00 |
2020年3月 |
321,966 |
26,104 |
28,744 |
20,201 |
92.44 |
21.00 |
2021年3月(予) |
– |
– |
– |
– |
– |
– |
*単位:百万円、円。当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益。以下、同様。今期通期予想は新型コロナウイルス感染症が事業活動及び経営成績に与える影響に関して、現時点では合理的な算定が困難であることから未定としている。
日本ゼオンの2021年3月期第1四半期決算概要などについてご報告致します。
目次
今回のポイント
1.会社概要
2.2021年3月期第1四半期決算概要
3.2021年3月期業績予想
4.今後の注目点
<参考:コーポレートガバナンスについて>
付属:Fact Sheet
今回のポイント
- 21年3月期第1四半期の売上高は前年同期比129億円減収の695億円。米中貿易摩擦、世界的な新型コロナウイルスの感染拡大等による経済悪化、原料及び市況の軟化に伴いエラストマー素材が100億円の減収。高機能材料は1億円の増収。営業利益は同40億円減益の43億円。エラストマー素材は36億円の減益、高機能材料は2億円の減益。原料調達や生産において新型コロナウイルスの影響は見られない。
- 21年3月期上期の業績予想を発表した。売上高は前年同期比20.4%減の1,300億円、営業利益は同53.4%減の70億円の予想。中間配当は前年同期と同じく11円/株の予定。通期予想に関しては引続き未定としている。
- 上期業績予想を発表した。現時点では第2四半期(7‐9月)の売上、利益はともに第1四半期(4-6月)を下回る見込みで、引き続き厳しい環境が続くと予想している。ただ、高機能材料部門の各品目は、概ね需要は堅調である。売上高ではエラストマー素材をカバーするのは難しいが、利益面でどれだけプラス寄与していけるのかを注目したい。
1.会社概要
自動車部品やタイヤに使用される合成ゴムや、医療用手袋等に使用される合成ラテックスを始めとして、世界的な高シェア製品を多数保有する石油化学メーカー。独創的な技術開発力とそれを生み出す研究開発体制、高い収益性などが強み。
自動車部品、タイヤ、ゴム手袋、紙おむつ、携帯電話、液晶テレビ、香水など身の回りにある多種多様な製品に同社が製造する製品(素材)が使用されている。
グループは、同社および子会社61社、関連会社8社で構成されており、世界16か国に生産、販売拠点を有している。
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(同社資料より)
【1-1社名と経営ビジョン】
「ゼオ」(Geo)はギリシャ語で大地、「エオン」(Eon)は永遠を意味し、その合成語「ゼオン」には「大地から原料を得て永遠に栄える」という意味が込められており、世界に誇り得る独創的技術によって、地球環境と人類の繁栄に貢献することを経営理念として掲げている(設立時は資本及び技術提携先であった米国B.F.グッドリッチ社の塩化ビニル樹脂製品の商標「Geon」を取って社名としていたが、1970年の資本関係解消を機に表記を「Zeon」と改めた)。
【1-2沿革】
同社は、古河電工、横浜ゴム、日本軽金属の古河系3社の共同出資により、米国B.F.グッドリッチ・ケミカル社との提携による塩化ビニル樹脂製造技術の導入を前提として、1950年4月に設立された。
1951年にB.F.グッドリッチ・ケミカル社が35%の株式を取得し、技術及び資本の全面提携が成立し、翌1952年に日本で初めて塩化ビニル樹脂の量産を開始した。
1959年にはB.F.グッドリッチ・ケミカル社から合成ゴム製造技術を導入し、日本で初めて量産を開始。自動車向け需要の増大に対応し、生産設備を拡大していく。
1965年にはC4留分からブタジエン(合成ゴムの主原料)を効率よく製造する同社の独自技術であるGPB(ゼオンプロセスオブブタジエン)法による生産を開始した。
B.F.グッドリッチ・ケミカル社が事業の中核を塩化ビニル樹脂事業にシフトするのに伴い、特殊合成ゴム事業を譲り受け、1970年資本提携も解消へ。これに伴い1971年に英文社名をGeonからZeonに変更した。
同じく1971年にはC5留分から高純度のイソプレンや石油樹脂、合成香料の原料などを抽出する独自技術GPI(ゼオンプロセスオブイソプレン)法を開発し生産を開始。
1980年代に入り、合成ゴムに加えて、フォトレジストなどの情報材料、合成香料、メディカル分野など新規事業への展開を積極化させていく。
1984年、現在では世界シェアトップとなった水素化ニトリルゴムZetpol®を高岡工場で生産開始。
1990年、GPI法によって抽出、合成された高機能材料事業の主要製品であるシクロオレフィンポリマーZEONEX® を水島工場で生産開始。
1993年、電子材料事業で中国に進出した。
1999年にはゼオン・ケミカルズ(米国、現 連結子会社)が、グッドイヤーから特殊ゴム事業を買収し、特殊ゴム分野で世界トップメーカーとなる布石を打つ。
2000年、水島工場での塩化ビニル樹脂生産を打ち切り、創業事業の塩化ビニル樹脂事業から撤退した。
21世紀に入り、LCD用光学フィルムゼオノアフィルム®の上市、グローバル生産・販売体制の強化、シンガポールにおける溶液重合スチレンブタジエンゴム(S-SBR)の商業運転開始、富山県氷見市のLCD用光学フィルム設備を増強、世界初 スーパーグロース・カーボンナノチューブの量産工場稼働、住友化学とS-SBR生産販売のための合弁会社設立など、積極的な事業展開を進めている。
【1-3事業内容】
同社の主要製品は、原油を蒸留分離して得られるナフサを熱して抽出される炭素数の異なる様々な抽出物を原材料としている。ナフサを熱すると、順次、一酸化炭素ガス(C1)、エチレン(C2)、プロピレン(C3)が抽出される。
同社は、プロピレン(C3)を抽出した後のC4留分から独自開発のGPB法によって抽出したブタジエンや、その後のC5留分からGPI法によって抽出したイソプレン・モノマー、ピペレリン、ジシクロペンタジエン、2-ブチン等を原材料に加工を行い、合成ゴム、合成ラテックスを始めとした各種素材を生産している。
(同社資料より)
生産した素材そのものを顧客に販売する素材型ビジネスが中心の「エラストマー素材事業」、素材を同社において一次加工し顧客に販売する部材型ビジネスが中心の「高機能材料事業」、「その他の事業」がある。
*いずれも2020年3月期実績。消去、全社前の構成比。
<エラストマー素材事業>
「エラストマー」とは、「ゴムのように弾性に富む高分子化合物の総称」(三省堂 大辞林より)で、合成ゴムがその代表例である。沿革にあるように同社は1959年に日本で初めて合成ゴムの量産を開始しており、同事業は会社の基盤を支える事業である。内訳としては大きく、合成ゴム事業、合成ラテックス事業、化成品事業(石油樹脂、熱可朔性エラストマー)に分類される。
➀合成ゴム事業
<製品例:タイヤ>
世界トップクラスの品質を誇るタイヤ用合成ゴムを、世界の主要タイヤメーカーに納入している。製造している合成ゴムの種類には、耐摩耗性・耐老化性・機械的強度特性に優れるスチレンブタジエンゴム(SBR)、弾性・摩耗性・低温特性のバランスに優れるブタジエンゴム(BR)、天然ゴムとほぼ同様の特性をもち品質安定性に優れるイソプレンゴム(IR)等がある。
今後はSBRの特性を更に改良した低燃費タイヤ用のS-SBRの需要が急速に拡大すると見込んでおり、これに対応した供給能力増のため、シンガポール工場の第1系列が2013年9月、第2系列も2016年4月に稼働を開始した。シンガポール工場の供給能力は7万トンとなっている。
<製品例:自動車用部品>
(同社資料より)
自動車エンジンにおいては、ラジエーターホース、フューエルホース、タイミングベルト、オイルシールなどの各部品において耐油性、耐熱老化性に優れた特殊合成ゴムが用いられている。
世界No.1の特殊合成ゴムメーカーである同社はその品質の高さを評価されており、自動車用特殊合成ゴムの中で高いシェアを有している。中でも、タイミングベルト用の水素化ニトリルゴムZetpol®は耐熱性、耐油性、機械的強度特性に優れており、世界で高いシェアを占めている。
また従来品の性能を大きく向上させたZetpol®の新製品を開発した。これは従来製品比で+10℃も耐熱性を改善させたもので、従来のシール・ガスケット部品の長寿命化に対応できるだけでなく、次世代バイオ燃料を用いたエンジン向けにも需要が拡大すると見込んでいる。さらに、押出加工性が良好であることからホース用途にも展開が広がってきた。顧客の評価も上々で、高価なゴムの代替材を中心として、国内、アジア、欧米で採用が進んでいる。
➁合成ラテックス事業
合成ラテックスとは、合成ゴムを水中に分散させた液状ゴムのことで、ゴム手袋をはじめ、紙加工、繊維処理、接着剤、塗料、化粧パフ等に使用される。化粧用パフ用アクリロニトリルブタジエン(NBR)ラテックスは世界でも高いシェアを有している。
➂化成品事業
C5留分から製品化を行う同社独自のGPI法により粘着テープ・ホットメルト接着剤用素材、トラフィックペイント用バインダー等、幅広い製品化を行っている。
<高機能材料事業>
独創的技術である高分子設計や加工技術によって、高付加価値を有した材料・部材を扱っている。
光学樹脂関連及び光学フィルムなど高機能樹脂事業と、電池材料、化学品、電子材料、トナーなど高機能ケミカル事業、メディカルデバイス事業からなる。
➀高機能樹脂事業
◎光学樹脂関連及び光学フィルム
GPI法によってC5留分から抽出、合成されたシクロオレフィンポリマーは、独自技術で開発した熱可塑性プラスチックで、製品としてZEONEX® とZEONOR®がある。
ZEONEX®は高透明性、低吸水性、低吸着性、耐薬品性を活かして、カメラレンズやプロジェクターレンズなどの光学部品、シリンジやバイアルなどの医療用容器に使用されている。
ZEONOR®は高透明性や転写性、耐熱性等を活かし、透明汎用エンプラとして、導光板や自動車部品、半導体容器などの幅広い分野で使用されている。
シクロオレフィンポリマーから、世界初の溶融押出法で開発された光学フィルムがゼオノアフィルム®で、光学特性、低吸水・低透湿、高耐熱性、低アウトガス、寸法安定性に優れ、液晶テレビやスマートフォン、タブレット端末のディスプレイに使用されているほか、有機ELディスプレイなど幅広い用途での利用が期待されている。
(同社資料より)
また、同社では世界で初めて「斜め延伸位相差フィルム」を開発し、生産している。
有機ELの光反射防止フィルムとしての採用も進んでおり、今後も中小型用フラットパネルディスプレイ向けの需要拡大が見込まれる。同社の光学フィルムは、富山県高岡市および氷見市、福井県敦賀市の3拠点で生産している。
他にも、携帯電話、スマートフォン、液晶テレビ用途に代表される、電子デバイス向け塗布型有機絶縁材料ZEOCOAT®がある。ZEOCOAT®は、透明性が高く、吸水性が非常に低いほか、膜からガス成分を発生しにくいためディスプレイの画質と信頼性の向上を同時に達成することができる。
今後、液晶に比べ薄く成型できる有機ELディスプレイ向けに拡販を積極的に進めるとともに、新しい半導体を用いた薄膜トランジスタやフレキシブルディスプレイ用の絶縁材料での採用を目指している。
◎電池材料
リチウムイオン電池用材料として負極及び正極、機能層(耐熱セパレータ―)用バインダー、シール剤を供給している。
現在、リチウムイオン電池はスマートフォン、ノートパソコンなどのモバイル機器の電源として広く使用されており、その高容量化は強く求められている。
さらに、軽量・小型でありながら、大きなエネルギーを蓄えられることから、ハイブリッドカー、プラグインハイブリッドカー、電気自動車向け、スマートグリッドなどの産業電源向けの採用も始まっているが、一方で、高温下で使用した場合、寿命が低下しやすいといった課題があった。
同社は、リチウムイオン電池バインダーの高機能化を進め、正極用バインダーとして寿命の低下抑制に大きく貢献する水系機能性バインダーの開発に成功し、また、リチウムイオン電池の蓄電容量を従来比5~15%上げられる負極用バインダーの製品化にも成功した。
正極・負極・機能層(耐熱セパレータ―)用バインダー及びシール剤はリチウムイオン電池の「安全性」、「寿命」、「電池容量アップ」に寄与し、電気自動車の普及に貢献するものと考えている。
リチウムイオン電池の将来性に注目し、早くから取り組んできた同社では、エナジー用部材事業の2020年のありたい姿として、「リチウムイオン電池バインダー市場でのトップシェアを維持」するとともに、急速充電など自動車用途でのニーズに応えた新しい材料機能の普及拡大や次世代の新しい電池の実現に向けた機能性材料の提案ができることを目指している。
(同社資料より)
◎化学品
C5留分より得られる原料を活用して食品・香粧品用の合成香料や、特徴ある溶剤及び植物調整剤などの特殊化学品を扱っている。
グリーン系の合成香料では世界一のシェアを有している他、医農薬中間体の原料やフロン代替用途などの溶剤・洗浄剤・ウレタン発泡剤及び機能性エーテル溶剤など、幅広い産業分野に特徴ある製品を供給している。
②メディカルデバイス事業
メディカルデバイス市場は、景気の影響が少なく、また日本における高齢化の進行と新興国の市場拡大で成長が見込まれる一方、医療機器の製造・販売会社に対する法的要件が厳格であるほか、薬事承認申請作業が必要で、医療従事者との関係作りが不可欠であること等から参入障壁が高く、魅力的な市場であると同社では考えている。
同社は、1974年に人工腎臓の開発を開始したのを皮切りにメディカルデバイス事業を積極的に推進し、1989年に子会社ゼオンメディカル株式会社を設立し、同社グループ内で開発・製造・販売・薬事のすべての分野における対応が可能な体制を構築している。
消化器系製品では、胆道結石除去用の差別化製品である「オフセットバルーンカテーテル」、国産初の胆管カバードステント「ゼオステントカバード」、また循環器系製品では、急性心筋梗塞時等に心臓の拍動を補助するデバイスとして、世界最細径の「ゼメックス IABPバルーンプラス」など、豊富な開発実績を有している。
(同社資料より)
現在注力しているのが、胆道結石による痛みからの解放につなげる結石除去デバイスである。
同社の開発製品であるゼメックスクラッシャーカテーテル、ゼメックスバスケットカテーテルNT、エクストラクションバルーンカテーテルなど、巨大結石から胆泥・胆砂まであらゆる胆道結石を除去できるデバイスをラインアップしており、結石除去デバイス全体で50%のシェア獲得を目指す。また、2016年3月には、ガイドワイヤータイプとしては世界初の光センサー型FFRデバイスを上市した。光ファイバー型センサーであることから血圧測定のズレが起こりにくい。ガイドワイヤーとしての操作性も高い評価を得ている。
【高機能新規素材開発例 ~カーボンナノチューブ(CNT)~】
積極的な研究開発によって様々な新素材を世の中に送り出してきた同社だが、今後大きな成長が期待されるのが「単層CNT」だ。
①単層CNTとは?
1993年、独立行政法人 産業技術総合研究所(産総研) ナノチューブ応用研究センター長の飯島 澄夫博士によって世界で初めて蜂の巣上の炭素原子が網目のように結び付いた、筒状分子構造の物質が発見され、「カーボンナノチューブ(CNT)」と命名された。その構造により、単層CNTと多層CNTに大きく分類できる。多層CNTは比較的生産が容易であることから国内外において実用化への応用開発が推進されている。
(同社資料より)
一方、単層CNTは、「鋼の20倍の強度」、「銅の10倍の熱伝導性」、「アルミの半分の密度」、「シリコンの10倍の電子移動度」など、「軽量かつ高強度でありながら高い柔軟性を持つ」、「電気や熱伝導性が極めて高い」といった、多層CNTを上回る優れた特性を持つ。
例えば、リチウムイオン電池の導電助剤への展開、高い伸縮性や強度を持つことから、電子ペーパーや超薄型タッチパネル用の透明導電膜のほか、放熱材料への利用なども考えられている。また、広帯域の光を吸収できる特性があるため、電磁波吸収材としての実用化研究も進んでおり、エネルギー分野、エレクトロニクス分野、構造材料分野、高機能材料分野等、幅広い場面での応用が見込まれている。
(ゼオンナノテクノロジー(株) HPより)
しかし、従来の単層CNTは、不純物が多く、且つ生産性が低いために、製造コストが高く1g当たり数万~数十万円もしているのが大きな課題であった。
②同社の取組み&位置づけ
このような背景の中、低炭素社会の実現というグローバルな社会的要請に応え、日本で発見された数多くの優れた特性を持つ単層CNTを応用した新製品を世界に先駆けて事業化、工業化するための技術の確立に取り組んでいる。
同社と産総研が、「スーパーグロース法」という2004年に産総研 畠賢治博士らによって開発された合成技術をベースにして、産総研のつくばセンター敷地内に2010年12月に開設した実証プラントで量産化に向けた研究開発および供給(2011年4月から、産総研より量産品のサンプル供給を開始)を担当し、複合材料の用途開発を上記の研究組合が進めている。
産総研 ナノチューブ応用研究センターが量産化のためのパートナーに同社を選定したのは、同社の荒川公平氏(前取締役常務執行役員)がCNT研究開発者として豊富な実績と成果を有していた事が大きな理由だということであり、単層CNT実用化プロジェクトにおける同社の重要性は大変大きなものである。
③今後の展開
スーパーグロース法を基にした量産化技術を確立した同社は、2015年11月、山口県周南市の徳山工場内に量産プラントを竣工させ、世界初の量産を開始した。単層CNTの量産化技術を確立しているのは世界でも同社のみであり、国内外約100社から問い合わせが来ており、順次サンプル出荷を行っており、同社自らも他社に対し用途提案も行っている。
一方、単層CNTは、ナノ材の一種でありそのサイズが極めて小さい事、形状が繊維状であることから化学的な特性以外に、サイズや形状によって生体への侵入などによる影響があるのではないかという懸念も指摘されている。
現在、産総研を中心に評価手法の標準化、OECDのエンドポイント測定等の取組みが進められており、国際標準化、法規制化が順次行われると考えられている。
<その他の事業>
反応射出成形法(RIM成形法)で使用されるジシクロペンタジエンを原料としたRIM配合液を取り扱っている。
【1-4 ROE分析】
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14/3期 |
15/3期 |
16/3期 |
17/3期 |
18/3期 |
19/3期 |
20/3期 |
ROE(%) |
11.7 |
9.8 |
8.6 |
10.3 |
5.3 |
7.2 |
7.9 |
売上高当期純利益率(%) |
6.63 |
6.20 |
6.12 |
8.05 |
3.92 |
5.47 |
6.27 |
総資産回転率(回) |
0.82 |
0.80 |
0.75 |
0.72 |
0.78 |
0.79 |
0.78 |
レバレッジ(倍) |
2.15 |
1.98 |
1.86 |
1.77 |
1.71 |
1.66 |
1.62 |
売上高当期純利益率、レバレッジともに低下傾向にあることからROEは日本企業が一般的に実現すべきと言われている8%を下回っている。高機能材料セグメントの成長を中心とした収益性の向上が期待される。
【1-5特長・強み】
1.世界トップクラスの独創的な技術開発力
C4留分からブタジエンを製造するGPB法は戦後の日本化学史上トップクラスの技術開発であり、アメリカ、韓国を始め世界19か国49プラントに技術供与している。
また、C5留分から高純度のイソプレンや石油樹脂、合成香料の原料などを製造するGPI法も同社オリジナルで、水島工場が世界で唯一の抽出プラントであり、他社には技術供与していないオンリーワンの技術である。
この2つの技術に代表される独創的な技術開発力が同社の大きな強みであり、世界的に高く評価されており、国内外で数々の賞を受賞している。技術関係では、GPB法、GPI法はもちろんのこと、1960年から現在までに48の賞を、環境・安全関係では1982年から現在までに26の賞を受賞している。
2.世界的な高シェア
Zetpol®、ZEONEX®、ZEONOR®に代表される同社の独創的技術から生み出された様々な製品は、世界的に高いシェアを獲得している。これ以外にも、化粧品や食品フレーバーに使用されるリーフアルコール、化粧用パフ用NBRラテックスなども「世界No.1」製品となっている。
3.独創的な技術を生み出し続ける研究開発体制
「特定の得意分野で独創的技術を開発し、世界一事業を創出して社会に貢献する。」との基本理念に基づき、研究開発に取り組んでいる。
主要研究拠点は神奈川県川崎市にある「総合開発センター」だが、製造現場に近いところで研究開発を行うことが効率的であるとの考えから、高岡工場に精密光学研究所およびメディカル研究所を、米沢工場に化学品研究拠点を、徳山工場にトナー研究所を、水島工場に化成品研究室を設立した。また海外では、アメリカ・ドイツ・シンガポール・中国に技術サポート拠点を有している。
研究員は現状に満足することなく、適度な危機感を保ちつつ、研究にあたっているということだ。また会社も加点主義に基づく評価を行い、スピードと独創性を重視している。R&D費について従来は対売上高比を基準としていたが、安定的な研究開発を継続していくため、今後は年間160億円程度を目途にしていく考えだ。
2.2021年3月期第1四半期決算概要
(1)連結経営成績
|
20/3期1Q |
構成比 |
21/3期1Q |
構成比 |
前年同期比 |
売上高 |
82,418 |
100.0% |
69,492 |
100.0% |
-15.7% |
売上総利益 |
23,919 |
29.0% |
19,200 |
27.6% |
-19.7% |
販管費 |
15,594 |
18.9% |
14,890 |
21.4% |
-4.5% |
営業利益 |
8,325 |
10.1% |
4,310 |
6.2% |
-48.2% |
経常利益 |
8,664 |
10.5% |
5,069 |
7.3% |
-41.5% |
四半期純利益 |
6,065 |
7.4% |
3,576 |
5.1% |
-41.0% |
*単位:百万円。
減収減益
売上高は前年同期比129億円減収の695億円。米中貿易摩擦、世界的な新型コロナウイルスの感染拡大等による経済悪化、原料及び市況の軟化に伴いエラストマー素材が100億円の減収。高機能材料は1億円の増収。
営業利益は同40億円減益の43億円。エラストマー素材は36億円の減益、高機能材料は2億円の減益。
原料調達や生産において新型コロナウイルスの影響は見られない。
(2)セグメント別動向
|
20/3期1Q |
21/3期1Q |
前年同期比 |
売上高 |
|
|
|
エラストマー素材事業 |
47,085 |
37,104 |
-21.2% |
高機能材料事業 |
22,259 |
22,345 |
+0.4% |
その他 |
13,579 |
10,559 |
-22.2% |
調整 |
-504 |
-516 |
– |
合計 |
82,418 |
69,492 |
-15.7% |
営業利益 |
|
|
|
エラストマー素材事業 |
3,504 |
-117 |
– |
高機能材料事業 |
5,058 |
4,814 |
-4.8% |
その他 |
390 |
222 |
-43.1% |
調整 |
-626 |
-609 |
– |
合計 |
8,325 |
4,310 |
-48.2% |
*単位:百万円。
【エラストマー素材】
減収・減益。
売上高は前年同期比100億円減収の371億円。世界的な新型コロナウイルスの感染拡大等による経済悪化により、自動車産業、一般工業品用途等の需要が低調で合成ゴム出荷量が今期に入り急激に減少。ラテックスも化粧品材料、一般工業品用途等の需要が減少した。化成品は、販売数量は維持したが市況が軟化し価格が下落した。
営業利益は同36億円減少し1億円の損失。原料である国産ナフサ価格下落に連動した価格低下、アジアの市況悪化などが影響した。
合成ゴムのうち、主にタイヤ用途の汎用ゴム、主に自動車産業および一般工業品用途の特殊ゴムともに数量は前年同期比で2-3割減少した。
【高機能材料】
増収・減益。
売上高は前年同期比1億円増収の223億円。高機能ケミカルは化学品(主に香料用途)、電子材料の需要は堅調に推移した一方で、トナー、電池材料は新型コロナウイルスの影響等で需要が減少した。高機能樹脂は、光学樹脂、光学フィルムの需要は堅調に推移したが、計画停電の影響等で出荷量を調整したため、売上高は前年同期並みとなった。
営業利益は同2億円減の48億円。原料の価格下落、製造固定費の減少はあったが、価格低下、光学フィルムの開発試作関連費増加などで減益。
(品目別動向)
*化学品
前年同期は主力工場の定期検査により生産量見合いの出荷だったため、出荷量は前年同期比5割増と大幅に増加。対前期比では11%の減少。
香料用途向け、特殊溶剤他向けともに新型コロナウイルス禍の下でも、堅調に推移した。
*電池材料
出荷量は前年同期比10%の減少。前期比4%の増加。
EV向けは新型コロナウイルスの影響により前年同期比23%減。うち中国向けは、前年同期に税優遇措置による駆け込み需要があったため同42%の減少。
EV向け以外は、同23%の数量増。前期比でも41%の増加。テレワークを背景としたモバイル端末向けの需要増、再生エネルギー導入計画推進によるESS(蓄電システム)向けの需要が増加した。
*光学フィルム
出荷量は前年同期比、前期比とも5%の減少。
中小型向けはスマートフォン向けが低調だったが、テレワークを背景としたパソコン、モバイル端末向けの需要が下支えし、前年同期比、前期比ともに堅調。
大型向けは生産工場所在地における3月の計画停電により、生産量見合いに出荷量を調整したため前年同期比、前期比ともに5%程度減少したが需要そのものは前年同期並で推移している。
*光学樹脂
出荷量は前年同期比15%の増加。前期比7%の減少。
光学用途向けが前年同期比16%減、前期比25%減。2021年7月完工に向けた能力増強工事と同年に予定されている定期検査に伴う計画停止に向けて、出荷量を調整している。
医療その他向けは、前年同期比26%の増加。前期比1%の減少。需要は堅調である。
【その他】
減収・減益。
新型コロナウイルスの影響で商社部門の販売、RIM事業ともに低調だった。
(3)財政状態
◎主要バランスシート
|
20/3月末 |
20/6月末 |
増減 |
|
20/3月末 |
20/6月末 |
増減 |
流動資産 |
214,447 |
198,827 |
-15,620 |
流動負債 |
112,410 |
97,449 |
-14,961 |
現預金 |
32,029 |
25,873 |
-6,156 |
買入債務 |
65,691 |
52,959 |
-12,732 |
売上債権 |
71,332 |
64,373 |
-6,959 |
短期借入金 |
10,960 |
10,960 |
0 |
棚卸資産 |
73,203 |
74,133 |
+930 |
固定負債 |
32,363 |
31,074 |
-1,289 |
固定資産 |
190,684 |
194,900 |
+4,216 |
長期有利子負債 |
10,000 |
10,000 |
0 |
有形固定資産 |
114,791 |
115,292 |
+501 |
負債合計 |
144,773 |
128,522 |
-16,251 |
無形固定資産 |
3,669 |
3,514 |
-155 |
純資産 |
260,358 |
265,204 |
+4,846 |
投資その他の資産 |
72,224 |
76,093 |
+3,869 |
自己資本 |
257,217 |
262,256 |
+5,039 |
資産合計 |
405,131 |
393,727 |
-11,404 |
負債・純資産合計 |
405,131 |
393,727 |
-11,404 |
*単位:百万円。売上債権には電子記録債権を、買入債務には電子記録債務を含む。
現預金、売上債権減などで流動資産は前期末に比べ156億円減少。光学フィルム生産設備増設、投資有価証券増などで固定資産合計は同42億円増加し、資産合計は同114億円減少した。
負債合計は買入債務減等で同162億円減少。利益剰余金の増加などで純資産は同48億円の増加。
この結果自己資本比率は66.6%と前期末より3.1ポイント上昇した。D/Eレシオは0.08で前期末から変わらず。
3.2021年3月期業績予想
(1)業績予想
上期予想を発表した。
|
20/3期2Q |
構成比 |
21/3期2Q (予) |
構成比 |
前年同期比 |
進捗率 |
売上高 |
163,358 |
100.0% |
130,000 |
100.0% |
-20.4% |
53.5% |
営業利益 |
15,020 |
9.2% |
7,000 |
5.4% |
-53.4% |
61.6% |
経常利益 |
16,045 |
9.8% |
8,000 |
6.2% |
-50.1% |
63.4% |
四半期純利益 |
11,550 |
7.1% |
5,500 |
4.2% |
-52.4% |
65.0% |
*単位:百万円。
売上高は前年同期比20.4%減の1,300億円、営業利益は同53.4%減の70億円の予想。
中間配当は前年同期と同じく11円/株の予定。
通期予想に関しては引続き未定としている。
(2)今後の対応
新型コロナウイルスの感染拡大や米中関係の緊迫化等、世界経済をめぐる不安要因は拭えず、「緊急対策本部」が主体となって不測の事態への対応を継続する。
国内外全ての事業所、製造拠点において感染予防を徹底し、引き続きサプライチェーンの維持及び従業員やその家族等の健康・安全の確保に努める。
4.今後の注目点
上期業績予想を発表した。現時点では第2四半期(7‐9月)の売上、利益はともに第1四半期(4-6月)を下回る見込みで、引き続き厳しい環境が続くと予想している。
ただ、高機能材料部門の各品目は、概ね需要は堅調である。売上高ではエラストマー素材をカバーするのは難しいが、利益面でどれだけプラス寄与していけるのかを注目したい。
<参考:コーポレートガバナンスについて>
◎組織形態及び取締役、監査役の構成
組織形態 |
監査役設置会社 |
取締役 |
7名、うち社外3名 |
監査役 |
5名、うち社外3名 |
◎コーポレートガバナンス報告書
最終更新日:2020年7月3日
<基本的な考え方>
当社は、株主をはじめとする多様なステークホルダーの利益を尊重し、利害関係を調整しつつ収益を上げ、企業価値を継続的に高めることを目指します。その実現のために、コーポレートガバナンスを通じて効率的かつ健全な企業経営を可能にするシステムを構築する努力を継続します。
また、内部統制システムを整備することにより、各機関・社内組織の機能と役割分担を明確にして迅速な意思決定と執行を行います。その経過および結果については適切な監視と情報公開を行い、経営の透明性の向上に努めます。
<実施しない主な原則とその理由>
(すべての原則について、2018年6月改訂前のコードに基づき記載しております)
当社はコーポレートガバナンス・コードの各原則を実施しております。
<コーポレートガバナンス・コードの各原則に基づいて開示している主な原則>
原則 |
開示内容 |
【原則1-4 いわゆる政策保有株式】 |
・他社の株式を政策保有するにあたっては、その保有が取引先、地域社会その他のステークホルダーとの関係強化をもたらし、ひいては中長期的視点で当社の企業価値向上に資するものかどうか等を十分に検討します。 ・このような検討を経て取得した株式については、毎年個別銘柄ごとに保有目的の適切性や保有に伴う便益およびリスクが資本コストに見合っているか等を精査し、保有の適否を検証します。直近では2018年10月31日開催の取締役会において検証を実施し、保有の意義を失ったと認められる銘柄につきましては、縮減の可能性の検討を進めてまいります。 ・政策保有株式の議決権については、投資先企業の中長期的な企業価値向上の観点からその行使の判断を行います。 |
【原則5-1 株主との建設的な対話に関する方針】 |
・当社における株主との対話は広報室が主管し、CSR担当役員が統括します。 ・広報室は、経営企画部、経営管理部、総務部、法務部等と適宜情報交換を行い、株主に対する正確かつ偏りのない情報提供を行います。 ・当社は、四半期毎の投資家向け説明会の開催、当社WEBサイトにて開示する決算説明資料の充実、個人投資家向け会社説明会への参加など、 個別面談以外の対話の手段の充実にも継続的に取り組みます。 ・広報室は、株主との対話にて寄せられた意見について適宜整理・分析を行い、代表取締役に報告します。 ・当社は、インサイダー取引・適時開示等管理規程に基づき、未公表の重要事実の管理を徹底し、情報漏洩のないよう株主との対話を行います。 |