シンバイオ製薬株式会社(4582 Growth)
新たな事業展開:BCVの開発の具体化が進む
フォローアップ・レポート
フェアリサーチ株式会社
鈴木 壯
ジェネリックの出現でも、トレアキシン®の浸透余地あり
トレアキシン®は、日本では、シンバイオ製薬が最初に悪性リンパ腫を対象に開発、また剤型変更の開発も行い、承認を得てきた薬剤であるが、2022年2月に後発品(ジェネリック)の参入が始まった。2022年2月、4社がトレアキシン®(RTD製剤)のジェネリックの製造販売承認を取得した。シンバイオは、4社に対して特許権の侵害の懸念を通告したが、東和薬品が販売を開始した(他社は販売延期)。なお、ジェネリックの適応症は、当初indolent-B-NHLおよびMCLのみであったが、6月にr/rDLBCL(B-R療法)へ適応追加の承認を獲得している(依然としてCLLとr/rDLBCL対象のP-BR療法は適応対象外)。このような状況下、シンバイオではRI投与への切り替えを急いできた。シンバイオによると、10月半ば時点で、ジェネリックの納品を確認した施設数は20施設ほどで、施設側のジェネリック採用に対する慎重な姿勢がうかがえる。この結果、7-9月期の売り上げは、シンバイオが8月に想定した水準で推移した。ところが、2022年11月RI投与のジェネリック(東和薬品・ファイザー社)も承認された。シンバイオでは、RI投与についても、特許侵害の可能性があると考えており、12月16日、東和薬品に対し特許権侵害の訴訟を提起、12月26日ファイザー社にも同様の提訴を行った。また、血液腫瘍内科の現場では、トレアキシン®と若干成分が異なるジェネリック品に対し比較的慎重な態度が依然根強いこと、さらにr/rDLBCLを対象とした分野でのB-R療法およびP-BR療法の浸透率は50%未満なので、まだトレアキシン®の浸透余地はあると考えられる。
二重特異性T細胞誘導抗体の出現でもトレアキシン®の地位は当面揺るがず
主力製品のトレアキシン®が主戦場とする悪性リンパ腫、特にr/rDLBCLの分野では抗体療法や免疫療法の開発が盛んになっている。Polivy®のようなADC(抗体薬物複合体)も出現し、奏効率の高いCAR-T療法も複数誕生し、そしてBiTEs(二重特異性T細胞誘導抗体)の開発が期待されている。Polivy®では、トレアキシン®との併用で市場浸透が進んでいる。CAR-T療法は現在3rd-Lineに限定されており、また、コストや施設の面から普及の障壁は大きい。BiTEsの開発も進み、いくつか海外で承認例も浮上してきたが、今のところ、よりLate-Lineでの承認である。BiTEsがどのような適応症で承認されていくか、明確な方向性は不明であるが、使い慣れたB-R療法の奏効率を大きく上回る療法が出現しない限り、トレアキシン®の地位は当面揺るがないものと考えられる。
ブリンシドフォビル(BCV)開発の進捗
BCVに関して、シンバイオは、最初に血液関連の領域として、①造血幹細胞移植後のウイルス感染症を対象にした開発に着手したが、さらに②臓器移植時のウイルス感染症へ開発対象を拡大させている。①は現在、国際共同臨床試験Ph2の途上にあり2023年前半には完了の予定である。②も国際共同臨床試験Ph2を開始したところで、POC確立後、提携活動本格化が考えられる。さらに、シンバイオは、既存の抗ウイルス剤が承認されていない「空白の治療領域」を狙ってBCVの開発を考えているが、具体的な開発を計画しているのが、③悪性脳腫瘍である神経膠芽腫(GBM)と④多発性硬化症(MS)である。シンバイオは、米国の複数の大学と様々な共同研究等に着手していることに加え、米国国立衛生研究所に属する国立神経疾患・脳卒中研究所とEBウイルスに対するBCVの抗ウイルス作用を評価するための共同研究試料提供契約を締結するなど精力的に開発を推進している。共同開発の成果がある程度出始めた時点で、大手製薬会社が注目してくる可能性が浮上しよう。
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