シンバイオ製薬株式会社(4582 JASDAQ)
グローバル・ライセンサーに変身

2019/11/07

フォローアップ・レポート
フェアリサーチ株式会社
鈴木 壯

複数の有望な新薬を持つスペシャリティ・ファーマへ
シンバイオは、自社で創薬研究を行うのではなく、世界中の創薬企業とのネットワークと目利き力を活かして有望な新薬を導入し開発してきた。開発のターゲットは、医療ニーズが高いにも拘わらず、大手があまり参入して来ない希少疾患(がん、血液を中心とする希少疾患)に絞るニッチ戦略で、高シェア・高収益が狙える。また、導入する新薬候補は原則として既に有効性・安全性が確立されたもののため、開発リスクは低く抑制されている。第一号品はトレアキシンで、導入後5年で承認・上市され、2018年には標準療法の一つに採用された。現在はさらなる適応拡大を目指した開発とライフサイクル・マネジメントの一環として剤型変更の開発を推進している。さらに、2020年を目途に自販体制も整備中であり、血液分野に特化したスペシャリティ・ファーマの確立を目指している。第二の導入・開発品であるリゴセルチブも、血液病の一種である骨髄異形成症候群を対象にした第Ⅲ相臨床試験が順調に進行している模様である。そして、2019年10月、第三の品目として、ブリンシドフォビルの導入と独占的グローバルライセンス権利(開発製造販売)の取得を発表した。日本だけでなく、中国を含むアジアを手始めに欧米も含むグローバル展開できるライセンサーへ変身を達成した。

ブリンシドフォビルの独占的グローバルライセンス取得
ブリンシドフォビルは、米国キメリックス社が開発してきた抗ウイルス薬で、アンメット・メディカルニーズの高い造血幹細胞移植後や臓器移植後のウイルス感染症が対象である。造血幹細胞移植や臓器移植では、拒絶反応を抑制するために免疫抑制剤を用いるため、感染症にかかり易くなっている。造血幹細胞移植では約2割の患者がウイルス性膀胱炎を発症すると言われている。また、同じく造血幹細胞移植後に発症するHHV-6脳炎は、一旦発症すると致死性が高く、生存時も重篤な後遺症が残るため、予防措置が重要である。ブリンシドフォビルは、従来使用されてきた他の抗ウイルス薬よりも毒性が低く、効果が高い。当面は、国内で、造血幹細胞移植後のウイルス性膀胱炎を対象とした開発を先行させ、次いで造血幹細胞移植後のHHV-6脳炎を対象に開発、その後アジアへ拡販することも視野に入ろう。また、臓器移植の盛んな欧米での展開は現時点では、パートナーと組んで展開する可能性が高いと考えられる

ブリンシドフォビルのポテンシャルは極めて大きい
今回の導入に当たり、シンバイオがキメリックスに対して支払うマイルストーンは総額180百万ドル(うち導入契約時5百万ドル)であり、上市後のロイヤリティ率は2桁と発表されている。一方、日本での造血幹細胞移植後のウイルス感染症(ウイルス性膀胱炎+HHV-6脳炎)の対象数は年間2600件程度、市場規模は70~80億円程度と推察される。欧米では年間1万4千件の規模が見込まれる。アジアを含む発展途上地域では、まだ人口当たりの造血幹細胞移植の件数は日米欧の20分の1程度に過ぎず、今後拡大が予想される。また、次に適応が期待される腎移植後のウイルス感染症の症例数は、日本では年間500件程度と推計されるが、臓器移植の盛んな海外での規模は大きく、欧米では年間1万5千件程度が見込まれる。大胆な仮想条件を置いた上での試算ではあるが、日米欧の造血幹細胞移植対象のみでも、そのパイプライン価値は240-440億円程度と試算され、対象とウイルス感染症の拡大や臓器移植への展開を考えると500億円も視野に入る。主要開発三品合計では900億円超が見える。
 

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