吉川レポート(2018年7月)世界景気の「ダイバージェンス」の行方
吉川レポート(2018年7月)世界景気の「ダイバージェンス」の行方
【ポイント1】世界景気の「ダイバージェンス」
バラつく世界の景況感
■世界景気は2018年1-3月期に減速したものの、その後は下げ止まりから持ち直し傾向を示しています。全体としてみるとインフレ安定の下、景気は拡大傾向が続いていると言えます。但し、昨年半ば以降のような世界がほぼ同時に改善した状況とは異なり、地域ごとの景況に強弱のバラつき(景気の「ダイバージェンス」)が見られます。
■オランダ統計局が集計している世界貿易数量・鉱工業生産の動向や主要国・地域の購買担当者景況指数などを見ると、米国は若干の減速は見られるものの、実質輸入、生産共にモメンタムが明確なプラス圏にあり、堅調さが目立ちます。中国は大局観としては安定している一方、欧州は貿易・生産共にモメンタムがなおマイナス圏にとどまっています。新興国(EM)経済では、新興アジアが拡大傾向を維持しているほか、東欧などはプラス圏で推移しています。資本流出が金融引き締め要因となっている中南米の景況感は相対的に弱い状況が続いています。
【ポイント2】「ダイバージェンス」の背景
財政スタンスの違い
■米欧間を中心にこうした景気の「ダイバージェンス」をもたらしている要因として、第一に考えられるのは財政政策のスタンスの違いです。国際通貨基金(IMF)試算による景気循環調整済財政赤字を2018、2019年について見ると、税制改革と財政支出の上限引き上げが行われている米国では前年よりもそれぞれ1%程度拡大する見通しです。一方、ユーロ圏、中国はごく小幅の拡大にとどまり、日本は若干縮小する(財政緊縮)見通しになっています。
■第二に、2017年後半に急増したコンピュータや自動車の生産が今年に入って在庫調整のために減少しています。産業構造(経済に占めるこれらの産業の比率など)の違いから、米国や中国と比較して、日本や欧州の方がマクロ的にみて相対的に大きめの影響を受けている模様です。
■第三に、トランプ政権の通商政策の影響です。輸入車に対する25%関税などは、貿易交渉戦術の中の「脅し」である可能性が高いと思われます。しかし、万一実際に導入された場合、その影響は非対照的(米国にはプラス、米国への自動車輸出国にはマイナス)であるため、企業を中心に景況感に差が出る要因になっていると見られます。
■加えて、2018年初にかけての円高・ユーロ高が、企業収益へ一定の影響を及ぼしている可能性があります。EM諸国については資本流出圧力(それに伴う金融引き締め効果)の違いが景況感の差につながっていることはほぼ確実だと思われます。中国経済・金融が安定的に推移してきたことが、アジアのEM諸国について景気サポート要因になってきたと考えられます。
【今後の展開】他地域のキャッチアップを期待
■景気のズレがどのような形で、いつ解消に向かうのか(あるいは解消しないのか)は2018年後半の投資環境を判断する上で、中心的なテーマの一つと考えられます。ズレの解消は米ドル独歩高を一服させ、EM諸国を巡る資本フローを安定させることになります。また、他地域が米国にキャッチアップする形になれば、金融市場がリスク・オンになりやすくなります。グローバルな生産のモメンタムと連動する傾向のある日本の株式が見直される可能性も高いと期待されます。
■先行きを展望すると、米国と他地域の財政政策の違いはしばらく続きますが、財政刺激による米国の内需増加は貿易を通じて他地域にもある程度波及すると思われます。電子機械・部品や自動車に関する在庫調整が一巡すれば、米国と日・欧の景気格差は縮まってくると予想されます。為替は、米連邦準備制度理事会(FRB)、欧州中央銀行(ECB)、日銀の政策が適度にズレてきたことで既に調整されつつあります。最大の不透明要因はトランプ政権の保護主義的な貿易政策ですが、中間選挙を意識したものであることを考えると、夏場から秋口には落としどころを探る展開になると見られます。
■以上から、最近の中国の経済データ鈍化が中国政府が意図した安定化の範囲であれば、1~2四半期のうちに景気のズレは解消(コンバージェンス)に向かうと見ておきたいです。まずは手掛かりとして、各国の貿易統計や企業サーベイにおける輸出見通しの変化に加え、ユーロの対ドル為替レートが底打ちするか、を注目しています。
(吉川チーフマクロストラテジスト)
(2018年 7月 4日)
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