黒田グループ(287A)日本と海外12カ国で事業を展開しており、海外売上収益比率は約45%

2024/12/20

HDD部品等の電子部品や、液晶生産材等の電気材料の製造と販売を手掛ける
日本と海外12カ国で事業を展開しており、海外売上収益比率は約45%

業種:卸売業
アナリスト:大間知淳

◆ 電子部品や電気材料等の製造と販売を手掛ける
黒田グループ(以下、同社)は、HDD部品等の電子部品や、液晶生産材等の電気材料を製造、販売する製造事業と、主に自動車やエレクトロニクス関連の顧客に電子部品や電気材料等を販売する商社事業を展開する子会社を傘下に持つ純粋持株会社である。国内のほか、中国や東南アジア等、海外12カ国でサービスを展開しており、24/3期の海外売上収益比率は45.2%に達している。

同社は、17年10月に設立されたKMホールディングスを前身としている。KMホールディングスは、東証一部に上場していた黒田電気を非公開化するために、MBKパートナーズグループが運営するファンドであるMBK Partners JC IV, L.P.(エムビーケーパートナーズ・ジェーシーフォー・エルピー)が100%保有する投資ビークルとして設立された。

黒田電気は、45年10月にベークライト板等の電気絶縁材料の卸売を目的に設立された。創業以来、電気材料と電子部品を取扱う専門商社として、国内外にグループ会社を設立してグローバル・ネットワークを構築すると共に、製造・加工事業も行うことで、「ものづくりのできる商社」として、現在の同社事業の原形を形成してきた。黒田電気は、96年の大証二部への上場を経て、00年に東証一部に上場した後も、液晶テレビやスマートフォンの急速な普及を背景に売上規模は拡大傾向で推移していた。

15年頃から、黒田電気を取り巻く事業環境や取引先の事業方針が大きく変化し、商社としての与信、在庫、物流の基本機能の提供だけでは顧客に価値を認められにくくなり、売上規模拡大を追求するビジネスモデルでは限界を迎えつつあった。そのため、経営の基本方針を、売上規模の拡大から営業利益率の改善による営業利益の拡大に切り替えると共に、同方針に賛同したMBK パートナーズグループの協力のもと、中長期的な視点で企業価値の向上に最も資する体制を検討した。その結果、株主構成及び資本構成を再構築して、目的意識を共有した少数の関係者が迅速に意思決定を行う体制を構築することが重要と考え、KM ホールディングスを設立し、当該会社が公開買付を行い、黒田電気は18年3月に非公開化に至った。

非公開化前は、商社事業を担う黒田電気をグループの頂点としていたものの、製造事業が当時のグループの全社営業利益の約7割を占めていた。非公開化により、KM ホールディングスを頂点とした持株会社体制に移行した。20年4月にKM ホールディングスを黒田グループに商号変更すると共に、事業セグメントを製造事業、商社事業に大別して子会社を並列に配置し、ガバナンス体制を強化した。また、23/3期より、会計基準を日本基準から国際会計基準(IFRS)に移行した。

24/3期におけるセグメント別売上収益(売上高に相当)構成比は、製造事業23.5%、商社事業76.5%であった(図表1)。

同社グループは、同社と連結子会社29社(うち、製造事業会社13社、商社事業会社15社、管理事業会社1社)によって構成されている。各社の所在地、出資比率、所属セグメント及び主な事業等は図表2の通りである。

製造事業子会社は、ニッチな事業分野で、日本、タイ、中国、ベトナムの顧客に対して独自の製品を製造、販売している。日本と海外12カ国に拠点を持つ商社事業子会社は、車載関連の顧客に対して、電子部品、電気材料等をグローバルに供給しているほか、車載関連以外の顧客に対しては、各国の顧客毎にカスタマイズした供給体制を構築し、電気材料、一般電子部品、半導体、機器・装置等を納入している。

黒田電気については、売上高の連結売上収益に占める割合が10%を超えている。黒田電気の24/3期における業績は、売上高68,737百万円、経常利益2,068百万円、当期純利益1,411百万円であった。

1)製造事業
製造事業においては、HDD部品、液晶生産材、電設資材、産業モーター用アルミダイカスト製品、自動車向け大型樹脂成形金型、精密組立・各種自動化設備の製造及び販売、電子回路設計・基板設計の受託開発及び販売を行っている。

HDD部品については、Z. クロダ(タイランド)等が、フィルターやシール・ラベル等をグローバルHDDメーカーに供給している。HDD市場の中でも高い成長が見込まれるニアライン注1向けを主力としている。液晶生産材については、コムラテックが、高い市場シェアを持つ液晶用配向膜フレキソ印刷版等を中国、台湾等のグローバル液晶メーカーに供給している。

電設資材については、日動電工が、電力用配電機材や住宅用電設資材等を国内ハウスメーカーや国内電力会社、電設資材商社に供給している。その他の製品については、各社がグローバルエレクトロニクスメーカーやグローバル自動車関連メーカー、グローバル産業機器メーカーを主要顧客としている。

製造事業セグメントの業績推移は図表3の通りである。

減価償却費は有形固定資産、使用権資産(リース資産)及び長期前払費用を、償却費はソフトウェア、顧客関連資産、技術資産等の無形固定資産を対象としている。また、国際会計基準を適用する同社では、減損損失を特別損失ではなく、売上原価や販売費及び一般管理費(以下、販管費)、営業費用の一部を構成する「その他の費用」に分割して計上している。そのため、証券リサーチセンターでは、セグメント利益に減価償却費及び償却費と減損損失を加算してEBITDAを算出した。

24/3期の製造事業は、前期比27.8%減収、52.8%減益であったが、減損損失の急増が大きな減益要因となっており、EBITDAは同7.3%増と、増益であった。収益性を見ると、セグメント利益率は同2.4%ポイント悪化の4.6%に対して、EBITDAマージンは同7.3%改善の22.2%となっており、商社事業に比べ高い水準を確保している。なお、同社は、全社ベースでは調整後EBITDA(営業利益に減価償却費及び償却費を加算した上で、減損損失、株式や固定資産の売却による損益等の一過性の特殊要因を調整したもの)を開示しているが、セグメント別の調整後EBITDAは不明である。

なお、同社は管理会計上の製造事業の業績推移を参考値として開示している(図表4)。連結調整が行われていないため、図表3のセグメント情報とは数値が異なっている。管理会計上の数値によれば、製造事業については、20/3期から23/3期において、売上高は410億~480億円、営業利益は32億~48億円で推移していた。24/3期の業績は落ち込んだものの、25/3期中間期の営業利益は急回復している。

製造事業は、商材別には、HDD部品、液晶生産材、電設資材、その他(継続事業及び非継続事業)に分類される。各製品の売上高(管理会計ベース)の推移は以下の通りである(図表5)。

20/3期から24/3期の売上高では、液晶生産材と電設資材は比較的安定している一方、HDD部品とその他(継続事業)は変動が大きい傾向がある。

2)商社事業
商社事業においては、主にグローバル自動車関連メーカーやグローバルエレクトロニクスメーカーに対して、電子部品や電気材料、半導体等を販売している。

商社事業セグメントの業績推移は図表6の通りである。

管理会計上のセグメント別業績推移によると、商社事業については、20/3期から23/3期において、売上高は940億~1,140億円、営業利益は11億~32億円で推移していた(図表7)。売上高は伸び悩んでいる一方、営業利益率の改善により、営業利益は増加基調となっている。

商社事業のエンドマーケット別売上高構成比(管理会計ベース)の推移は以下の通りである(図表8)。

20/3期から25/3期上期において、車載の売上高構成比が継続的に上昇している。

◆ 一般電子部品と電気材料が売上収益の大部分を占めている
製造事業と商社事業で扱う商材別の売上収益の推移は図表9の通りである。電気材料には液晶生産材や電設資材、車載関連部品の樹脂成形金型等が、一般電子部品にはHDD部品、産業機器・車載関連のアルミダイカスト製品等が含まれている。その他は機器・装置に加え、電子回路・基板の設計の受託開発等によって構成される。

24/3期は全商材の売上収益が落ち込んだが、製造事業のHDD部品の落込み等により、一般電子部品の減少率が大きかったほか、機器・装置等のその他も大幅に減少している。24/3期の売上収益構成比は、一般電子部品50.6%、電気材料41.6%、半導体2.9%、その他4.9%となっており、一般電子部品と電気材料が売上収益の大部分を占めている。

◆ 24年3月期の海外売上収益比率は45%に達している
黒田電気は、70年代から国外に子会社を設立する等、積極的に海外展開を行っており、同社は現時点でアジアを中心に海外12カ国に進出している。24/3期の地域別売上収益構成比は、日本54.8%、中国(香港を含む)22.7%、アセアン(タイ、インドネシア、フィリピン、ベトナム、シンガポール)15.8%、その他(アメリカ、メキシコ、チェコ、インド、台湾、韓国)6.7%となっており、海外売上収益比率は45.2%に達している(図表10)。

◆ 財務規律を守るため、各種指標の基準値や目標を設定している
同社グループは、営業利益及び営業利益率を重要な指標としている。また、財務規律を守るため、健全性、安全性、効率性に関する指標について、基準値や目標を設定している(図表11)。

なお、同社は上場後の配当政策として以下の3点を掲げている。

1) 安定的な配当を実現するため、親会社所有者帰属持分(除くその他包括利益)をベースとするDOE(株主資本配当率)を採用し、目標水準を7%に設定する
2) 数年間は累進配当注2を想定する
3) 手元現預金は月商1カ月程度の水準とし、余剰資金は「成長投資」「財務健全性」も勘案の上、追加の株主還元を機動的に検討、実施する

◆ 減損等の影響を除いた調整後EBITDAマージンは安定している
同社は、黒田電気の非公開化に伴い、多額ののれんを計上しているが、国際会計基準を適用した23/3期以降はのれんを定期償却していない。一方、日本基準では通常、特別損益に計上される減損損失や、子会社株式・固定資産の売却による損益等が、国際会計基準では営業費用(売上原価、販管費、その他の収益及びその他の費用)に計上されている。

こうしたことから、同社は、両基準の差異を少なくした「調整後営業利益」と「調整後EBITDA」の数値を開示している。調整後営業利益については、日本基準では営業利益にのれん償却額や販管費に計上した構造改革費用等を加算している。国際会計基準では、営業利益に減損損失、子会社株式・固定資産の売却による損益等の一過性の特殊要因を加算、または減算して調整している。

調整後EBITDAについては、日本基準では調整後営業利益に減価償却費を加算している。国際会計基準では調整後営業利益に減価償却費及び償却費(日本基準では減価償却費に含まれない使用権資産の減価償却費を含む)を加算している。

調整後営業利益と調整後EBITDAを含めた、20/3期以降の業績推移は図表12の通りである。日本基準を見ると、20/3期から23/3期までの営業利益、調整後営業利及び調整後EBITDAは比較的安定していた。一方、国際会計基準では、24/3期の営業利益は前期比56.6%減と大幅に落ち込んだものの、減損損失(有形固定資産やのれん等)や子会社株式売却損等による影響が大きく、調整後営業利益(前期比17.9%減)や調整後EBITDA(同19.2%減)の落込みは相対的に小さかった。20/3期以降で見ると、調整後EBITDAマージンは6.0~8.0%と概ね安定している。

24/3期における売上総利益率は13.8%と低い水準であった。主要原価項目の売上収益に対する比率をみると、材料及び商品仕入高が75.2%、従業員給付費用(労務費に相当)が3.5%、棚卸資産の増減が2.0%、減損損失が1.9%、減価償却費及び償却費が1.2%、外注費が1.0%と、変動費である材料及び商品仕入高等の割合が高くなっている。

24/3期における販管費は14,930百万円であり、販管費率も、売上総利益率と同様に11.8%と低水準であった。内訳としては、従業員給付費用が7,764百万円、荷造運送費が1,920百万円、減価償却費及び償却費が1,232百万円等であり、荷造運送費を除くと固定費が多いと推測される。

営業利益を算出する際、売上収益に対する控除科目として、売上原価と販管費以外にもその他の費用があり、加算項目としてその他の収益がある。その他の収益については、固定資産売却益や子会社売却益等によって構成され、24/3期は1,188百万円(売上収益比0.9%)であった。その他の費用については、減損損失、子会社株式売却損、固定資産売却損等によって構成され、24/3期は1,704百万円(同1.3%)であった。結果、売上総利益率が低いため、24/3期の営業利益率は1.6%にとどまった。また、同社の限界利益率は約20%と推測される。

同社の24/3期末における親会社所有者帰属持分比率(自己資本比率)は34.7%であった。有利子負債(リース債務を含む)は322億円と、現金及び現金同等物(151億円)を上回っている。

◆ デンソーへの販売依存度が比較的高い
同社は、エレクトロニクス業界や自動車関連業界等に属する国内外の多数の企業に様々な種類の電子部品や電気材料等を供給しているが、主要顧客等の情報開示は限定的である。

開示基準に該当している主要顧客としてはデンソー(6902東証プライム)が挙げられる。売上収益に占めるデンソー向けの比率は、半導体等の部材供給がひっ迫したことによる自動車メーカーの生産調整の影響を受けた23/3期は13.5%であったが、部材供給が回復に向かったため、24/3期18.0%、25/3期中間期18.6%と、24/3期以降は比率が上昇している(図表13)。

>>続きはこちら(1,3MB)

一般社団法人 証券リサーチセンター
ホリスティック企業レポート   一般社団法人 証券リサーチセンター
資本市場のエンジンである新興市場の企業情報の拡充を目的に、アナリスト・カバーが少なく、適正に評価されていない上場企業に対して、中立的な視点での調査・分析を通じ、作成されたレポートです。

このページのトップへ