中村超硬(6166) 回復に向けた芽の成長に期待

2024/04/04

 

 

 

井上 誠 社長

株式会社中村超硬(6166)

 

 

企業情報

市場

東証グロース市場

業種

機械(製造業)

代表取締役社長

井上 誠

所在地

大阪府堺市西区鶴田町27-27

決算月

3月末日

HP

http://www.nakamura-gp.co.jp

 

株式情報

株価

発行済株式数(期末)

時価総額

ROE(実)

売買単位

355円

11,020,900株

3,912百万円

-16.3%

100株

DPS(予)

配当利回り(予)

EPS(予)

PER(予)

BPS(実)

PBR(倍)

0.00円

45.37円

7.8倍

63.65円

5.6倍

*株価は3/5終値。発行済株式数、DPS、EPSは24年3月期第3四半期決算短信より。ROE、BPSは前期実績。

 

業績推移

決算期

売上高

営業利益

経常利益

当期純利益

EPS

DPS

2020年3月(実)

2,797

-578

-716

-600

-73.16

0.00

2021年3月(実)

3,806

167

181

7

0.75

0.00

2022年3月(実)

4,038

311

338

-257

-23.97

0.00

2023年3月(実)

3,322

33

65

-124

-11.29

0.00

2024年3月(予)

2,400

-530

-560

500

45.37

0.00

*単位:百万円、円。今期予想は会社側公表。当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益。以下同様。

 

 

株式会社中村超硬の2024年3月期第3四半期決算概要等をお伝えします。

目次

今回のポイント
1.会社概要
2. 2024年3月期第3四半期決算概要
3. 2024年3月期業績予想
4.今後の注目点
<参考:コーポレートガバナンスについて>

 

今回のポイント

  • 24年3月期第3四半期の売上高は前年同期比29.7%減の18億37百万円。営業利益は3億40百万円の損失(前年同期は40百万円の利益)。長期化する中国経済低迷の影響を受け、特殊精密機器事業において主力製品である実装機用ノズルの受注が大きく落ち込んだほか、化学繊維用紡糸ノズル事業においても中国向け不織布関連ノズルの受注が低調に推移した。 
  • 通期業績予想を下方修正した。24年3月期の売上高は前期比27.8%減の24億円、営業利益は5億30百万円の損失を計上予想(前期は33百万円の営業利益)。D-Next事業におけるダイヤモンドワイヤ製造装置「PHX-01」の販売案件において、顧客との交渉が長引いており、今期中での契約対価の収益計上ができないこと、中国経済停滞が想定より長期化している影響を受け、特殊精密機器事業並びに化学繊維用紡糸ノズル事業において、受注・販売が計画より大きく下振れていることなどが修正の主な要因。 
  • 厳しい事業環境が続いているが、化学繊維用紡糸ノズル事業において、炭素繊維分野におけるさらなるシェア拡大に向け中国新規顧客からの受注獲得に成功し、EV向け用途での成長が期待できるなど、成果も見られるようだ。同社では、業績を回復させて企業価値を高めることが唯一の株主の皆様への恩返しだと考えており、こうした回復に向けた芽の成長を期待してほしいとのことだ。今期中のクロージングは困難となったようだが、「PHX-01販売における大型契約」を含めたリリースを期待したい。

1.会社概要

特殊精密部品や工具の開発・製造・販売を行う特殊精密機器事業、化学繊維用紡糸ノズル及び周辺部品、不織布製造装置、不織布関連ノズル等の設計・製造・販売を行う化学繊維用紡糸ノズル事業、シリコンウエハ(※)の製造工程で使用されるダイヤモンドワイヤ製造装置の開発・販売、半導体向けダイヤモンドワイヤの開発・販売を行うD-Next事業(旧 電子材料スライス周辺事業)、ナノサイズゼオライトを用いた製品の開発・販売を行うマテリアルサイエンス事業を展開。

 

ウエハ(※)
電子材料の塊(インゴット)から目的に応じて薄くスライスされた板状の機能部品。シリコン、サファイア、SiC(炭化ケイ素)、GaN(窒化ガリウム)など、用途に応じて様々な材質がある。ICチップや太陽電池に多く用いられるのがシリコンウエハ。

 

【1-1 沿革】

1954年10月大阪府堺市においてミシン用の小ネジを作る会社として創業した「中村鉄工所」が前身。
1970年12月に超硬合金を用いた切削工具、耐摩工具である超硬工具を主に取り扱う「株式会社中村超硬」を設立した。1988年には超硬工具からダイヤモンドへ主材料を転換し、1993年にはダイヤモンドノズル(※)の開発・製造・販売を開始。IT産業の製造革新の下支えとなり業容は大きく拡大した。ITバブル崩壊後の2004年にはエネルギー産業をターゲットとしてダイヤモンドワイヤの研究開発をスタートさせ、2010年には販売を開始。ダイヤモンドワイヤの製造販売だけでなく、スライス事業も手掛けてリーマンショックの苦境を乗り越え、2015年6月、東証マザーズ市場に上場した。2022年4月、市場再編に伴い東証グロース市場に移行。
中国市場において最先端技術を武器にダイヤモンドワイヤの極細線化を進め市場をリードしてきたが、ダイヤモンドワイヤ市場における急速な価格下落の影響を受け業績が悪化。2019年11月、太陽光発電向けダイヤモンドワイヤ生産事業から撤退した。
今後は、ダイヤモンドワイヤ製造技術の高さを活かして、ダイヤモンドワイヤ製造装置及び半導体向けダイヤモンドワイヤ開発・販売に注力する。

 

ダイヤモンドノズル(※)
先端に焼結ダイヤモンドを使用したノズル。電子部品をプリント基板に装着したりする際に用いられる。ダイヤモンドを使用する事がノズルの長寿命化や電子部品の保持能力、画像認識への有効性の向上、実装率向上につながっている。

 

【1-2経営理念】

全員営業、全員製造、全員参加の経営をもってものづくりのエキスパート集団となり夢ある未来をともに育てる。
お客様、協力会社との共栄のために

従業員とその家族の幸せのために

社会と地球環境への貢献のために

 

【1-3 事業内容】

1.セグメント
同社の事業は特殊精密機器事業、化学繊維用紡糸ノズル事業、D-Next事業、マテリアルサイエンス事業の4セグメントで構成されている。

 

 

(1)特殊精密機器事業
(概要)
「耐摩耗部品(超硬合金やダイヤモンド等、高硬度材料を用いた実装機用ノズル、耐摩耗治工具等)」および、「実装機用ノズル(電子部品吸着ノズル)」の開発・製造・販売を行っている。

 

耐摩耗部品は硬脆材料の超精密加工技術を基盤に、焼結ダイヤモンド(PCD)や超硬合金、セラミックスなど高硬度材料を用いた耐摩耗性の高い長寿命部品で、ベアリング製造工程などに用いられる。
実装機用ノズルとは、パソコンやスマートフォンなどのデジタル家電に使われているプリント基板に電子部品を装着する実装機の吸着ノズルのこと。摩耗しやすい先端部分に焼結ダイヤモンドやセラミックスを用いて耐久性や実装率を向上させている。

 

(市場環境)
耐摩耗部品が使用される工作機械市場は、足元は新型コロナウイルス感染症拡大の影響により前年比7-8割程度まで縮小したが、今後スマートフォンや自動車需要、設備投資需要と共に回復が見込まれている。
実装機関連市場は、5G普及やリモートワークの拡大等ライフスタイルの変化が需要を押し上げ、今後の成長が見込まれる。

 

(強み・特徴)
実装機の吸着ノズルの先端に焼結ダイヤモンド(PCD)を用いることで耐久性のみならず実装率を向上させている。特に同業他社と比較すると、極小サイズでも高い実装率を実現しており、強力な競争優位性となっている。
精密加工技術及び多種多様な加工設備を有し生産能力が高いこと、焼結ダイヤモンド(PCD)の精密加工技術を保有し、多品種小ロット生産に対応可能であること、同社のサプライチェーンにより一貫した対応が可能であること、地場企業のみならず全国の大手企業からの受注に対応していることなども同事業の特徴である。

 

(2)化学繊維用紡糸ノズル事業
主に、化学繊維用紡糸ノズル及び周辺部品、不織布製造装置、不織布関連ノズル等の設計・製造・販売を行っている。
同事業を担う子会社日本ノズル株式会社は、1928年に創業して以来、化学繊維用(レイヨン製造用)ノズルを国産化し、化学繊維の紡糸ノズル専業メーカーとして事業展開してきた。紡糸ノズルは、不織布、炭素繊維などの製造において繊維の品質を決定づける基幹部品。その製造にあたっては微細加工(孔(あな)あけ加工、パンチング加工)及び工具・冶具の製造に関して繊細な技術が必要となるが、同社では、長年にわたり同事業に特化してきたことにより多くの技術的蓄積を有し、市場のニーズに対応している。

 

(市場環境)
不織布は、足元は新型コロナウイルス感染症拡大の影響による医療用途での需要、中長期的には建設、自動車用途での需要拡大により成長が予想される。
炭素繊維は、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により航空機需要が大幅に減少した一方で、医療向けや風力発電向け等
新たな需要拡大もあり、今後の成長が見込まれる。

 

(強み・特徴)
「メルトブローン不織布製造に関する高い技術力」「高機能繊維用ノズルに関する高い対応力」「工具内製による高精密加工技術」など、化学繊維用紡糸ノズル専業メーカーとしての技術力が高く評価され、業界トップクラスのシェアを有している。
特に、全てのノズルが製造可能であることから、たばこフィルター等の特定分野では寡占的シェアを確保している。

 

(3) D-Next事業
生産技術の優位性を活かして半導体向けダイヤモンドワイヤおよび、ダイヤモンドワイヤ製造装置の開発・製造・販売を行っている。

 

◎ダイヤモンドワイヤとは?
ダイヤモンドワイヤは、太陽光パネルや半導体の基板となるウエハの製造工程のうち、スライス加工工程において使用される。
ウエハ一枚分の大きさに合わせインゴットを薄くスライスする際に用いる工具が「ダイヤモンドワイヤ」。細いピアノ線にダイヤモンドの粒を強く固定した髪の毛より細い糸状の切断工具である。
スライス加工機で、短い間隔で並べられたダイヤモンドワイヤが高速回転するガイドローラーによって走行し、インゴットをスライスしていく。

 

(同社資料より)

 

◎シリコンウエハのスライス方法
シリコンウエハのスライス方法には、主として「遊離砥粒方式」とダイヤモンドワイヤを用いた「固定砥粒方式」の2種類がある。

 

方式

遊離砥粒方式

固定砥粒方式

仕組み 砥粒のついていないワイヤ(ピアノ線)にSiC(炭化ケイ素)砥粒を含む加工液(油)を供給しながらスライスする。 ダイヤモンド砥粒がワイヤ(ピアノ線)に強固に固定されており、ワイヤの走行によりダイヤモンド砥粒が直接的にシリコンを削る。
特長など 加工液に含まれるSiC砥粒がワイヤの走行とともに回転しながらシリコンを削りスライス加工する。このため、砥粒がワイヤ自体も削ることになり、ワイヤも消耗する。

 

*切れ味が鋭く、遊離砥粒方式と比べて加工速度が向上する。

*ワイヤの使用量が少なくなり、産業廃棄物が減少し環境に優しい。

*加工液は水を使用するため、コストと環境負荷の低減にもつながる。

*ダイヤモンド砥粒がワイヤ自体を削ることがないため、従来の遊離砥粒方式よりワイヤそのものを細くすることができ、カーフロス(※)を低減し切り出せるウエハの枚数を増やすことが可能。

 

カーフロス(※)
切断溝幅(切り代)のこと。カーフロスは材料のロスとなるため、製造コスト低減のためできるだけ小さくする必要がある。

 

「加工速度の向上」「低いランニングコスト」「カーフロスの低減」「ワイヤ使用量の削減による環境負荷軽減」といった点から、ダイヤモンドワイヤを用いた「固定砥粒方式」への転換が進み、需要も増大している。
1つのインゴットから製造できるシリコンウエハの枚数を増大させることは、生産性の向上、原価低減の観点からウエハメーカーにとっては重要なポイントであるため、細線化に対するウエハメーカーの需要は高い。

 

(同社HPより)

 

◎ダイヤモンドワイヤ製造装置「PHX-01」
半導体用途のスライス工程においても固定砥粒方式(ダイヤモンドワイヤ) への転換が進みつつあるものの、SiC、窒化ケイ素は難削性が高く、大径ダイヤが必要だが、従来技術ではダイヤが凝集してしまい、均一に大径ダイヤを固定することができないという点が課題であった。
これに対し、同社では砥粒の凝集を解消し、大径ダイヤ砥粒を安定的かつ強固・均一に固定する独自の砥粒分散技術を新たに開発した。
この同社独自のオンリーワン技術を搭載したのが、ダイヤモンドワイヤ製造装置「PHX-01」である。

 

2021年3月より商談を開始した同製品は、超コンパクト構造(他社製装置では大きさが30メートル程度のものもあるのに対し、同製品は10メートル)であることに加え、独自の砥粒分散技術によりダイヤ砥粒やメッキ液の使用量を極小化でき、コスト面で大きな優位性をもたらす。
また、同装置はダイヤモンドワイヤを4列同時に生産可能で、生産速度は60メートル/分。業界最小線径である30マイクロメートル(μm)に対応可能である。
加えて、高精度CCDカメラ等を使用して4列すべてのワイヤを検査し、メッキ槽内のダイヤ濃度やダイヤ砥粒付着状態を常時監視しており、ダイヤ砥粒数を自動制御し最適化を図る(適切な砥粒数を投入)ほか、無人長距離生産を実現している。

 

こうした「加工速度の向上」「コスト低減効果」を大きな優位性として、太陽光発電シリコンウエハ、半導体用シリコンウエハ、パワー半導体シリコンウエハ向けに、これまでの中国市場に限らず、インド、米国、欧州、日本、韓国、東アジアなどグローバルな事業展開を目指している。

 

 

 

(同社資料より)

 

 

 

 

(4)マテリアルサイエンス事業
シリカ(二酸化ケイ素)とアルミナ(酸化アルミニウム)を主成分とし、無数の穴を持つ多孔質構造が特長で、1gでテニスコート1面分以上という大きな表面積を持つ物質であるナノサイズゼオライトおよびそれを利用した製品の開発・販売に取り組んでいる。

 

(ゼオライト、ナノサイズゼオライトとは?)
ゼオライトは、その特長から、「吸着」、「イオン交換」、「触媒」といった機能を持っており、一般的にはミクロンサイズの粒子が流通しているが、粒子径をナノサイズ化することにより、飛躍的にこれらの基本性能が向上し、新たな用途への展開が期待できる。
ただし、これまでのナノ粒子製造手法では製造コストが高く、具体的な市場評価が進んでいなかった。
そうした中、同社では、東京大学が保有する「粉砕・再結晶化」技術を活用して、ゼオライトのナノ粒子化のための革新的プロセスの開発に着手した結果、低コストで粒子数が通常のゼオライトと重量が同じ場合、百万倍になる「ナノサイズゼオライト」の製造に成功した。(この「粉砕・再結晶化プロセス」は特許取得済み。)

 

「ナノサイズゼオライト」は吸着速度やイオン交換速度が大幅に向上するほか、沈降速度が低下するなど機能性が上昇。これに伴い用途も大きく拡大する。

 

(用途例)
①高機能透明フィルム
フィルムにナノサイズゼオライトを添加すると、透明性を保ったまま内部の水分やガスを吸着し品質をキープすることができる。高機能透明フィルムとして薬包材や電子基板の封止剤に用いられる。
大手メーカーにおいて開発ステージから事業化ステージへ移行し、エンドユーザーへのサンプル供給がスタートしている。

 

②抗菌・抗ウイルス機能付き透明コーティング剤
少ない添加量においてコーティング表面で効果的に抗菌・抗ウイルス機能を発現したことに加え、コーティング面の平滑とコーティング層の透明・薄型化を実現したため、知的財産としての技術確立を目指している。
複数のコーティング剤と金属イオンの組み合わせで実証試験中である。サンプル出荷量も増加傾向にある。

 

③接着剤・塗料の吸湿用添加剤
ナノサイズゼオライトを接着剤・塗料に均一に拡散させて混錬する技術を獲得した。また、水分の影響により内部発生するガスも吸着できる条件を開発した。
この技術開発により、水の侵入を防ぐとともに内部で発生した水やガスを吸着することで、使用期限の延長(長寿命化)や高品質化(高強度・高品位)が可能となる。
高機能透明フィルム同様、大手化学メーカー等において開発ステージから事業化ステージへ移行し、エンドユーザーへのサンプル供給がスタートした。

 

➃メーカー・商社と連携したBtoC商品への採用拡大
発熱反応、ガス吸着、徐放性(ナノサイズゼオライトに吸着させた有効成分を徐々に放出すること)といった特性を活かし、パック・クレンジング・マッサージジェル、石鹸・シャンプー、入浴剤・芳香スプレーなどBtoC商品への採用拡大をメーカーや商社と連携して進めていく。

 

(今後の方針)
これまでの開発過程で、「樹脂材料に混ぜる際の凝集発生」「生産プロセス中におけるナノサイズゼオライトの吸着能力低下」
といった課題が浮かび上がっていたが、表面処理の最適化を実現することで樹脂材料への添加性を大幅に改善することができた。これにより、透明性・吸湿性・脱臭性が大幅に向上。透明吸湿フィルム・透明吸湿コーティング・透明脱臭フィルムにおけるエンドユーザーの評価は大きく高まり、事業化へ向け前進したと同社では考えている。
今後も、積極的なPR活動、市場の早期創出、低コスト中量生産体制の確立などに努める。

 

2.研究開発
「先端技術分野におけるモノづくりの課題解決を目指す」ことを開発ポリシーとし、「産官学連携による技術開発・新規事業の創出」「ものづくりに対するチャレンジ精神」「泥臭い現場技術の重視」を特長としている。

 

【1-4 成長戦略】

特殊精密機器事業と化学繊維用紡糸ノズル事業による「既存事業の安定的な拡大」をベースに、D-Next事業とマテリアルサイエンス事業において「新規事業開発の事業化」を進め、事業規模および収益の拡大を目指す。

 

既存事業の安定的な拡大 特殊精密機器事業 *サプライチェーン変革に伴う同社の総合的な対応力による優位性を活かした販売強化

*コロナ後の世界的な経済の回復基調にある市場環境を背景にした販売強化

化学繊維用紡糸ノズル事業 *炭素繊維市場の拡大に伴う紡糸ノズルの販売拡大

*不織布製造装置の販売強化、機能性不織布の市場開拓

新規事業開発の事業化 D-Next事業 *半導体向けダイヤモンドワイヤの販売

*新たなダイヤモンドワイヤ製造装置の販売

 

保有技術を生かした事業展開により新たな収益モデルを構築する。

マテリアルサイエンス事業 *開発ステージから事業ステージに移行している顧客における本格的な販売を目指す

*パイロットプラントでの量産検証

 

量産化・事業化をスタートし、新たな収益の柱として期待

 

(同社資料より、「電子材料スライス周辺事業」は「D-Next事業」)

 

2.2024年3月期第3四半期決算概要

(1)連結業績概要

 

23/3期3Q

構成比

24/3期3Q

構成比

前年同期比

売上高

2,613

100.0%

1,837

100.0%

-29.7%

売上総利益

792

30.3%

355

19.4%

-55.1%

販管費

751

28.8%

696

37.9%

-7.4%

営業利益

40

1.6%

-340

経常利益

57

2.2%

-362

四半期純利益

-86

-442

単位:百万円。

 

減収、損失計上
売上高は前年同期比29.7%減の18億37百万円。営業利益は3億40百万円の損失(前年同期は40百万円の利益)。
長期化する中国経済低迷の影響を受け、特殊精密機器事業において主力製品である実装機用ノズルの受注が大きく落ち込んだほか、化学繊維用紡糸ノズル事業においても中国向け不織布関連ノズルの受注が低調に推移した。

 

(2)セグメント別動向

 

23/3期3Q

24/3期3Q

前年同期比

売上高

     

特殊精密機器事業

594

568

-25

化学繊維用紡糸ノズル事業

1,793

1,183

-609

D-Next事業

150

80

-69

マテリアルサイエンス事業

75

4

-71

合計

2,613

1,837

-776

営業利益

     

特殊精密機器事業

7

8

1

化学繊維用紡糸ノズル事業

310

-40

-351

D-Next事業

-112

-197

-84

マテリアルサイエンス事業

-97

-119

-21

調整

-65

9

75

合計

40

-340

-381

 

*単位:百万円。売上は外部顧客への売上高。

*株式会社インベストメントブリッジが開示資料を基に作成。

 

 

 

<特殊精密機器事業>
減収・増益
耐摩耗工具関連分野における自動車部品メーカーへの販売拡大や、大手ベアリングメーカーとの新規取引の開始等の成果はあったものの、中国経済停滞の影響を受け、主力製品である実装機用ノズルの売上が大きく落ち込んだ。厳しい事業環境が継続している。

 

自動車部品メーカーへのアプローチは2年ほど前から取り組みを始めていたが、ここのところで中京圏の有力商社との関係強化が進み販売拡大に結びついた。
大手ベアリングメーカーとの取引も、様々なチャネルを通じた営業の結果、取引を開始することとなった。

 

<化学繊維用紡糸ノズル事業>
減収・損失計上(前年同期は3億10百万円の利益計上)
風力発電用ブレード向け及び航空機向け炭素繊維用ノズルは、旺盛な需要により好調に推移したが、炭素繊維以外の化学繊維用紡糸ノズルについては、中国経済停滞の影響によるノズル需要の減少や、日本国内市場におけるノズル需要の低迷により低調に推移した。不織布製造装置の収益を計上した前年同期と比較すると大幅な減収減益となった。

 

<D-Next事業>
減収・損失幅拡大
半導体・難削材向けダイヤモンドワイヤを正式採用する企業が着実に増えており、販売拡大の期待値が高い大手顧客計5社に対し量産販売を行っている。また、ダイヤモンドワイヤ製造装置「PHX-01」の販売については、インド市場向けを中心に複数企業との商談を継続している。
中国向けダイヤモンドワイヤ製造装置販売の契約対価の一部を計上した前年同期と比較すると減収減益となった。

 

<マテリアルサイエンス事業>
減収・損失幅拡大
ナノサイズゼオライトは、引き続き量産顧客獲得を目指したサンプルの提供と、展示会出展をはじめとする認知度向上に取り組んでいる。
パイロットプラント立ち上げに係る山全社からの受託収入を計上した前年同期を大幅に下回った。

 

(3)財務状態

◎主要BS

 

23年3月末

23年12月末

増減

 

23年3月末

23年12月末

増減

流動資産

3,117

2,955

-162

流動負債

3,129

4,330

+1,201

現預金

1,999

1,521

-477

仕入債務

247

300

+52

売上債権

473

398

-74

短期借入金

2,192

3,494

+1,301

たな卸資産

539

739

+199

固定負債

844

1,466

+622

固定資産

1,571

3,114

+1,543

長期借入金

303

925

+622

有形固定資産

1,520

3,069

+1,548

負債合計

3,973

5,797

+1,823

無形固定資産

17

14

-3

純資産

714

272

-442

投資その他の資産

32

30

-2

負債純資産計

4,688

6,069

+1,381

資産合計

4,688

6,069

+1,381

借入金合計

2,495

4,419

+1,923

*単位:百万円。有利子負債にはリース債務を含む。

 

*株式会社インベストメントブリッジが開示資料を基に作成。

 

子会社日本ノズルにおける新工場の建設と設備投資により建物・機械装置等が増加し、資産合計は前期末比13億円増加し60億円。借入金の増加等で負債合計は前期末比18億円増加の57億円。利益剰余金の減少で純資産は同4億円減少し2億円。自己資本比率は前期末より10.7%低下し4.3%となった。
なお、「サプライチェーン対策のための国内投資促進事業費補助金(約11.8億円」 が入金次第、借入金を返済する計画である。

 

(4)トピックス

◎人的資本に関する考え方
2023年3月期の有価証券報告書において、今期から始まった「サステナビリティに関する考え方及び取組」の開示において同社は以下のような記載を行っている。

 

*戦略
当社グループにおける、人材の多様性の確保を含む人材の育成に関する方針及び社内環境整備に関する方針は次のとおりであります。

 

・人材育成方針
当社グループは、従業員の成長が組織力と競争力の源泉であると認識し、従業員一人ひとりの自己実現とチャレンジできる成長の機会を提供することで、持続的な企業価値の向上を目指します。従業員が高い志をもち、自律的に学び、新たな技術にチャレンジし続けられるよう、人事制度や人材育成などの改善に継続的に取り組んでおります。
具体的な取り組みとしては、定期的な上司と部下との面談を通し、一人ひとりの期待される役割を明確にし、一人ひとりの教育訓練計画を策定いたしております。特に技術面においては、当社経営理念にあるとおり、「ものづくりのエキスパート集団」であるべく、高い技術力を有する人材を確保または育成するため、国家技能検定の受検を推進しております。

 

・社内環境整備
当社グループは、従業員の健康増進が個人と組織のパフォーマンスの向上につながるものであると捉え、健康経営を推進しております。具体的な取り組みとしては、以下のとおりです。
①安全衛生委員会の開催と労働安全衛生教育の実施
②定期健康診断・ストレスチェックの実施
③特定保健指導の実施④希望者に対する産業医面談の実施

 

*指標及び目標
当社グループでは、上記「戦略」に置いて記載した、人材の多様性の確保を含む人材の育成及び社内環境整備に関する方針について、次の指標を用いております。当該指標に関する目標及び実績は次のとおりであります。

指標

目標

実績(当連結会計年度末)

国家技能検定2級以上合格者指数※

2026年3月までに10増加

53

※2級合格者を1、1級合格者を2、特級合格者を3とした場合の指数

 

同社ではこの方針に基づき、技能検定合格者に対し技能手当の支給を制度化している。
厳しい事業環境が続いているが、企業として最低限果たすべき責務は「絶対的な雇用の確保」であると認識しており、賞与の支給を含め、社員が前向きに仕事に取り組むことができる環境づくりに努めている。
技能手当以外にも、モチベーション向上に向けた制度導入を検討しているとのことだ。

 

3.2024年3月期業績予想

(1)連結業績予想

 

23/3期

構成比

24/3期(予)

構成比

前期比

修正額

進捗率

売上高

3,322

100.0%

2,400

100.0%

-27.8%

-1,200

76.5%

営業利益

33

1.0%

-530

-630

経常利益

65

2.0%

-560

-610

当期純利益

-124

500

20.8%

-600

単位:百万円。当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益。

 

業績予想を下方修正、減収減益へ
業績予想を下方修正した。売上高は前期比27.8%減の24億円、営業利益は5億30百万円の損失を計上予想(前期は33百万円の営業利益)。

 

売上高に関しては、D-Next事業におけるダイヤモンドワイヤ製造装置「PHX-01」の販売案件において、顧客との交渉が長引いており、今期中での契約対価の収益計上ができないと判断した。また、中国経済停滞が想定より長期化している影響を受け、特殊精密機器事業並びに化学繊維用紡糸ノズル事業において、受注・販売が計画より大きく下振れていることが修正の要因。
損益面については、売上高の減少に加え、原材料価格やエネルギーコストの高騰等が影響する。子会社日本ノズル株式会社における「サプライチェーン対策のための国内投資促進事業費補助金」11億81百万円を特別利益に計上する予定である。
なお、江蘇三超社との国際仲裁は、現在シンガポール国際仲裁センターの判断を待っている段階で、今回の業績予想修正には仲裁判断は織り込んでいない。

 

(2)各事業の取組み

*売上高見込み

 

23/3期

24/3期(予)

前期比

修正額

進捗率

特殊精密機器事業

818

730

-88

-170

77.9%

化学繊維用紡糸ノズル事業

2,257

1,540

-717

-560

76.9%

D-Next事業

169

125

-44

-465

64.4%

マテリアルサイエンス事業

76

5

-71

-5

82.6%

合計

3,322

2,400

-922

-1,200

76.5%

*単位:百万円

 

<特殊精密機器事業>
減収予想
耐摩耗工具関連分野における自動車部品メーカーへの販売拡大において一定の成果が得られたものの、下期から回復基調に転ずると予測していた中国経済の停滞が長期化している影響を受け、中国向けの実装機の輸出が大きく減少し、主力製品である実装機用ノズルの販売が回復していない。非常に厳しい事業環境が続いている。
工作機械・半導体業界は業況回復の兆しはみられるものの、業績回復は来期の見込みである。
中国経済についても、回復には相当の時間を要すると見ている。

 

そうした中、新開発のセラミック吸着ノズルおよび半導体メーカー向け吸着コレットの早期販売開始に注力している。
セラミックノズルはコスト削減の観点から実装機メーカーのニーズが高く、超硬合金加工との違いもあり、やや時間がかかったものの完成させることができた。来期からの増産を見込んでいる。

 

<化学繊維用紡糸ノズル事業>
減収予想
特殊精密機器事業と同様に、下期からの回復を見込んでいた中国経済の停滞の長期化の影響を受け、不織布関連ノズルの販売が計画を下回っている。マスク需要が想定より早く終息したため、マスク向けノズルの販売が低調に推移していることに加え、新工場稼働とともに販売開始を計画していたフィルム用ダイにおいて、加工技術の獲得に時間を要したことにより立ち上げが遅れ、販売が計画を下回っている。

 

(取り組み)
引き続き事業環境は厳しいが、「需要が旺盛な炭素繊維分野におけるさらなるシェア拡大」「中国以外の海外顧客への営業展開強化」「フィルム用ダイ・不織布用大型ノズルの受注活動継続」に取り組む。
炭素繊維分野におけるさらなるシェア拡大においては、中国新規顧客からの受注獲得に成功した。EV向け用途での成長を期待している。
海外顧客に関しては、インド・アメリカ・トルコ・インドネシア・タイ・台湾・韓国への営業活動を展開中である。
フィルム用ダイ・不織布用大型ノズルの受注活動については、加工技術確立と並行し、国内顧客開拓に取り組んでいる。

 

<D-Next事業>
増収予想
半導体・難削材向けダイヤモンドワイヤの販売は国内における大手顧客開拓が計画以上に進展するなど、好調に推移している。さらなる大手顧客獲得と顧客内シェア引き上げによる販売数量拡大が進行中である。
海外企業との連携により脱中国化が進む欧米ウエハメーカーへの販路開拓にも取り組む。

 

一方で、ダイヤモンドワイヤ製造装置「PHX-01」の販売においては、インド向け案件における交渉に時間を要しており、現時点で契約締結に至っていないことから、今期中での契約対価の収益計上は困難と判断した。
ただ、インドは世界一の人口を有していることに加え、脱炭素に向け太陽電池の需要が増加している。
加えて、インド政府はサプライチェーンの脱中国化に向け、太陽電池の国内生産力強化を推進している。このため、インド国内に太陽電池用シリコンウエハのスライス工程が設置され、巨大なダイヤモンドワイヤ需要が新たに誕生しつつある。
現在顧客化の最優先対象であるインド大手財閥系企業は、最も熱心に太陽電池の一貫生産体制構築に取り組んでいる。
こうした状況から、引き続きインド大手財閥系企業との契約締結を目指す。

 

<マテリアルサイエンス事業>
減収予想
ナノサイズゼオライトについては、開発ステージは終了し、優れた世界オンリーワン素材としてのハードルはクリアした。
サンプル提供している企業やエンドユーザーにおいて正式採用に向けた評価は進んでいるものの、正式採用には至っていないが、展示会出展やサンプル出荷を継続するほか、評価実績が積み上がった分野・用途での横展開を推進する。
特殊なゼオライト種のナノ粒子化ニーズにも柔軟に対応する。
本格的な量産販売開始は来期(2025年3月期)およびそれ以降と見ている。

 

*窒素循環型社会の実現に向けた取り組み
2023年春より、吸湿剤、イオン交換材、触媒としてのゼオライトの特徴を活かし、「もみ殻」を用いた窒素循環型社会構築に向けた実験を開始している。
同社は材料開発と実地検証を担当し、「大阪公立大学:材料開発・肥料効果の検証」「東京大学:材料開発・基礎検証」「堺市:もみ殻の燻炭化、畜産廃水検証、肥料化」との産官学連携により、「地域循環型・窒素循環の産業サイクルの形を作り出す」ことを目指している。
2025年4月開催予定の大阪万博での出展を検討している。

 

(同社資料より)

4.今後の注目点

厳しい事業環境が続いているが、化学繊維用紡糸ノズル事業において、炭素繊維分野におけるさらなるシェア拡大に向け中国新規顧客からの受注獲得に成功し、EV向け用途での成長が期待できるなど、成果も見られるようだ。
同社では、業績を回復させて企業価値を高めることが唯一の株主の皆様への恩返しだと考えており、こうした回復に向けた芽の成長を期待してほしいとのことだ。
今期中のクロージングは困難となったようだが、「PHX-01販売における大型契約」を含めたリリースを期待したい。

<参考:コーポレートガバナンスについて>

◎組織形態、取締役、監査役の構成

組織形態

監査役設置会社

取締役

10名、うち社外2名

監査役

3名、うち社外3名

 

◎コーポレートガバナンス報告書
最終更新日:2023年6月28日

 

<基本的な考え方>
当社は、「お客様」「取引先」「株主」「社員」「社会」という全てのステークホルダーから「価値ある企業」として支持され続けるために、企業価値・株主価値の最大化に努めるとともに、経営の透明性・公正性の確保、社会的な責任を果たしていくことが重要であると認識し、コーポレート・ガバナンスの強化に努めております。

 

<実施しない主な原則とその理由>
「当社は、グロース上場企業としてコーポレートガバナンス・コードの基本原則をすべて実施しております」と記載している。

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