東洋インキSCホールディングス(4634) 順調に伸びる見通し 海外市場を中心に回復

2023/09/21

 

 

 

髙島 悟 社長

東洋インキSCホールディングス株式会社(4634)

 

 

企業情報

市場

東証プライム市場

業種

化学(製造業)

代表取締役社長

髙島 悟

所在地

東京都中央区京橋2-2-1 京橋エドグラン

決算月

12月末日

HP

https://schd.toyoinkgroup.com/ja/index.html

 

株式情報

株価

発行済株式数

時価総額

ROE(実)

売買単位

2,385円

58,286,544株

139,013百万円

4.3%

100株

DPS(予)

配当利回り(予)

EPS(予)

PER(予)

BPS(実)

PBR(倍)

90.00円

3.8%

113.19円

21.1倍

4,133.90円

0.6倍

*株価は9/14終値。発行済株式数は23年12月期上期決算短信より、ROE、BPSは22年12月期実績、DPS、EPSは23年12月期予想。

 

業績推移

決算期

売上高

営業利益

経常利益

当期純利益

EPS

DPS

2019年12月

279,892

13,174

13,847

8,509

145.72

90.00

2020年12月

257,675

12,909

12,543

6,019

103.06

90.00

2021年12月

287,989

13,005

15,442

9,492

169.36

90.00

2022年12月

315,927

6,865

7,906

9,308

171.49

90.00

2023年12月(予)

330,000

11,000

9,500

6,000

113.19

90.00

*単位:百万円、円。予想は会社予想。当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益。以下同様。

 

 

 

東洋インキSCホールディングス株式会社の2023年12月期上期決算概要などをご紹介致します。

 

目次

今回のポイント
1.会社概要
2.2023年12月期上期決算概要
3.2023年12月期業績予想
4. 中期経営計画「SIC-II」(2021年‐2023年)の進捗
5. 今後の注目点
<参考1:中期経営計画「SIC-Ⅱ」(2021年‐2023年)>
<参考2:コーポレート・ガバナンスについて>

 

今回のポイント

  • 23/12期上期の売上高は前年同期比0.7%減の1,536億円。為替の影響や価格改定効果はあったものの、エレクトロニクス市況と中国景気が低調であったことにより減収。ポリマー・塗加工においてパネルやスマートフォン向けが昨年来の在庫調整が続き苦戦した。営業利益は同3.0%増47億円。価格改定効果(+42億円)やコストダウン効果(+7億円)が牽引、市況悪化による数量減少(-31億円)や原材料価格の上昇(-16億円)などを吸収して増益となった。価格改定を更に進め、原材料高騰の影響の吸収に取り組んでいる。四半期毎の営業利益は、原材料高騰の影響が大きかった22/12期3Qを底に、価格改定を進めることにより明らかな回復基調にある。当期純利益は同54.3%減の38億円。前年同期にサカタインクス株式会社との資本提携解消に伴い同社株式を売却し、投資有価証券売却益54億円を計上した反動によるもの。 
  • 通期予想に修正はなく、売上高は前期比4.5%増の3,300億円、営業利益は同60.2%増の110億円の予想。下期からは海外市場を中心に数量も回復してきており、売上・利益ともに順調に伸びていく見通し。製品では、高付加価値製品が下期にかけて在庫調整も終わり回復基調にある。環境調和型製品においては、インドでの拡販も進めている状況。環境関連テーマのポリマー材料では、LiB用の外装用のラミネート接着剤がこれまでの日本、韓国に続いて中国においても引合いが多い。これまで進めてきたグローバルベースでの生産能力の拡大が、下期に寄与する見込み。 
  • 進行中の中期経営計画「SIC-Ⅱ」は今期が最終年度となる、売上高は同中計の期初計画を全セグメントで上回る見込み。LiB用分散体では、26年度の売上目標・投資額を上方修正した。また、24年1月から社名をartience株式会社に変更するとともに次期中期経営計画を24年2月に発表予定である。 
  • 価格転嫁の進展とともに原材料やエネルギー価格が落ち着きを見せたことで22/12期3Qを底とした利益の回復が顕著に現れている。今般、LiB用分散体において売上目標を上方修正したが、今後の拡販に向けての自信と受け止めることができる。足元の業績の回復、及びLiB用分散体が牽引する成長性を考慮するとPBRが1倍を大きく割り込む株価水準は割安と考える。来年2月に発表予定の中期計画では、PBR改善に向けた施策が打たれる見通し。 

1.会社概要

国内印刷インキ首位。インキ製造の原材料である顔料や樹脂加工技術を活かし、液晶用カラーフィルタ(CF)材料、電磁波シールドフィルムなど多角的に製品を展開。国内外57社の連結子会社、6社の持分法適用関連会社(2023年6月末)でグループを構成。世界24か国の拠点を基盤に様々な国や地域で事業を展開。
社員一人一人が革新的に発想し、科学的に実行、加えてそれぞれの活動を連鎖させることで生活者・生命・地球環境の持続可能性向上に貢献していくことをコンセプトとした長期構想「Scientific Innovation Chain 2027 (SIC27)」の下、2027年に向け持続的成長を可能にする企業体質への変革を目指している。

 

【1-1 沿革】

1896年(明治29年)、創業者 小林鎌太郎が東京日本橋で個人経営の「小林インキ店」を開業したのが始まり。1907年(明治40年)に東洋インキ製造株式会社に改組。明治期に入り、読売新聞(1874年創刊)、朝日新聞(1879年創刊)を始めとした多数の新聞や雑誌が創刊されたほか、富国強兵の下、教育水準向上のための教科書の制作を始めとした政府関係の印刷物も増加し印刷用インキの需要は急拡大していった。
当初は輸入品が中心であったが、良質な国産インキへの転換が国策として推し進められる中、高い技術力を持った同社は、民間印刷会社に加え、大蔵省印刷局を始めとした政府機関への納入も拡大し、輸出も増加した。また、原材料の顔料・樹脂から印刷用インキまでの一貫製造にもいち早く取り組んだこと、創業時から、印刷会社最大手の1社となった凸版印刷株式会社との関係が深かったことなども成長の背景として挙げられる。関東大震災、太平洋戦争といった困難な時期を切り抜け、戦後高度経済成長期に再び急成長を遂げ、1961年(昭和36年)東証2部上場を経て、1967年(昭和42年)、東証1部に上場した。
印刷インキにとどまらず、顔料、樹脂など原材料の生産・加工で培った多様な技術を活かし、液晶用CFなど他分野に事業領域を拡大している。グループ力の拡大とさらなる成長のため2011年(平成23年)持株会社制度に移行し、社名を東洋インキSCホールディングス株式会社とした。2022年4月、市場再編に伴い東証プライム市場に移行。

 

【1-2 経営理念など】

企業グループとしてのブランドの原点を示すとともに、グループの社員各人が常に心に留め、企業人として相応しく行動するための規範として、経営哲学・経営理念・行動指針の三部からなる「東洋インキグループ経営理念体系」を、1993年4月に制定した。2014年4月には、行動指針に新たに「株主の満足度向上」を追加。すべてのステークホルダーの満足度向上を目指していく。

 

<東洋インキ経営理念>

経営哲学 人間尊重の経営
   
経営理念 私たち東洋インキグループは、世界に広がる生活文化創造企業を目指します。

◇ 世界の人びとの豊かさと文化に貢献します。

◇ 新しい時代の生活の価値を創造します。

◇ 先端の技術と品質を提供します。

   
行動指針 ◇ 顧客の信頼と満足を高める知恵を提供しよう。

◇ 多様な個の夢の実現を尊重しよう。

◇ 地球や社会と共生し、よき市民として活動しよう。

◇ 株主権を尊重し、株主価値の向上に努め市場の評価を高めよう。

 

【1-3 市場環境】

◎概要
(市場動向)
日本の印刷産業の生産金額はデジタル化の進展、活字離れ等の要因を背景に、新聞、雑誌など出版印刷を中心に減少傾向にある。2020年は新型コロナウイルスの影響などもあり大きく落ち込んだ。
一方で、ポスター、カタログ、チラシ、POPなど商業印刷は底堅く、食品・医薬品などの包装紙、プラスチック容器に使われる包装印刷は2004年から2022年までの17年間のCAGR(年平均成長率)が+2.6%と堅調に拡大している。

海外、特に新興国では、紙を対象物とした印刷(オフセット印刷)、食品パッケージなど主にフィルムを対象物とした印刷(グラビア印刷・フレキソ印刷)、共に今後の成長が予想されており、同社もその需要取り込みに注力している。
印刷機のイノベーションが進む中、クオリティーの向上に伴いローカルインキでは対応しきれない部分も多く、優れた日本製インキ需要は今後も高まることが予想されるということだ。

 

また世界的な環境意識の高まりの中、バイオマスインキなど、環境調和型製品に対するニーズも拡大しており、インキ各社は独自技術を活かした新製品開発に取り組んでいる。

 

◎同業他社
インキ事業を展開する主な上場企業は同社を含め6社。
(4631)DICは世界規模でトップ企業であるのに対し、(4634)東洋インキSCホールディングスは国内インキ首位で、各品目別でもほとんどが1位か2位となっている。グローバルベースでは5位にランキングされている。

 

   

売上高

増収率

営業利益

増益率

営業利益率

時価総額

PER

PBR

ROE

4116

大日精化工業

128,000

+4.9%

5,200

+97.3%

4.1%

44,057

9.4

0.4

44,057

4631

DIC

1,060,000

+0.6%

25,000

-37.0%

2.4%

238,415

59.2

0.6

238,415

4633

サカタインクス

226,000

+4.9%

10,000

+142.4%

4.4%

73,457

8.5

0.7

73,457

4634

東洋インキSCHD

330,000

+4.5%

11,000

+60.2%

3.3%

139,013

21.0

0.5

139,013

4635

東京インキ

47,400

+9.2%

1,000

2.1%

7,681

8.4

0.3

7,681

4636

T&K TOKA

49,180

+12.6%

1,400

+229.7%

2.8%

33,137

24.0

0.7

33,137

*売上高、営業利益は各社の今期予想。ROE、PBRは前期実績。単位:百万円、倍。時価総額、PER、PBRは2023年9月14日終値ベース。

 

【1-4 事業内容】

「印刷インキ」について
同社の主要製品のひとつである印刷インキについて、「原材料」、「種類と用途」などを以下にまとめてみた。

 

<印刷インキの構成要素>

顔料(有機顔料、無機顔料など)

水、油に不溶の着色に用いる粉末。

ワニス(合成樹脂、油脂類、溶剤など)

油脂類、天然樹脂、合成樹脂等を溶剤に溶かしたもので、顔料を分散し、印刷素材に転移、固着させる。

添加剤(滑剤、硬化剤など)

乾燥性や流動性等いわゆる印刷適性や印刷効果を調整する。

この3つの原材料を混ぜ合わせて各種インキを製造する際に高度な分散技術が必要となる。
また、同社は創業以来これら原材料の製造を手掛ける過程で、様々な用途開発を進めて事業領域を拡大してきた。

 

 

 

<主な印刷インキの種類と用途>

種類

特徴・用途

平版インキ

対象物を紙とする代表的な印刷インキ。雑誌、ポスター、チラシなど。

グラビアインキ

微細な濃淡が表現できるので、写真画像の印刷等に適している。現在では主に食品包装材などフィルムへの印刷に使用される。

スクリーンインキ

他の印刷方式では印刷が困難な被印刷物を中心に、自動車の計器類、基板回路形成などのエレクトロニクス分野などでも使用される。

フレキソインキ

ダンボールやフィルム、布などの表面印刷に利用される。

UV硬化型インキ

乾燥工程で、熱風ドライヤーを使用せずに瞬間乾燥することから、CO2を直接発生させないUV硬化印刷に用いられる。VOC(Volatile Organic Compounds:揮発性有機化合物)を発生しない環境調和型インキである。

 

◎事業セグメント
「色材・機能材関連事業」、「ポリマー・塗加工関連事業」、「印刷・情報関連事業」、「パッケージ関連事業」の4セグメントで構成されている。
このうち、「印刷・情報関連事業」は主に紙への印刷に使用する平版用インキ(オフセットインキ等)、「パッケージ関連事業」は食品包装などフィルムへの印刷に使用するグラビアインキやフレキソインキなど、「色材・機能材関連事業」は印刷インキの原料でもある顔料をコア素材とし展開した製品、「ポリマー・塗加工関連事業」はこれもインキの主原料である樹脂とその設計技術から展開した事業である。

☆色材・機能材関連事業

 

22/12期

売上高

79,380

営業利益

1,846

利益率

2.3%

*単位:百万円

 

主な事業

主な製品

主な用途

CF用材料(メディア材料)

表示材(レジストインキ)、ペースト、高機能顔料

ディスプレイ、センサー

プラスチック着色剤

マスターバッチ、コンパウンド

容器、自動車、家電OA、建材

顔料

顔料、顔料分散体

印刷インキ、自動車塗料

インクジェット

インクジェットインキ

看板広告、ラベル、段ボール

機能性分散体

リチウムイオン電池材料、機能性分散体

xEV(*)用リチウムイオン電池

(*)xEV・・・EVに加え、ハイブリッド車やプラグインハイブリッドを含めた電動自動車の総称

 

 

 

(同社資料より)

 

印刷インキの主たる原材料である有機顔料を母体として、色材技術、有機化学合成技術、高度な分散技術との融合によって様々な分野で使用される材料を提供している。中でもインキや塗料の製造で蓄積された技術の結集によるナノレベルの分散加工技術から、さらに機能を高めた液晶カラーフィルタ材料を生み出した。
分散加工技術は、有機顔料だけではなくCNT(カーボンナノチューブ)などの無機素材にも展開され、二次電池材料など新たなエネルギー分野への事業拡大にも繋がっている。

 

◎LiB用CNT分散体事業、急成長へ
長年蓄積してきた分散技術をLiB(リチウムイオン電池)用材料へ展開。車載用LiBで長年の実績があり、2015年からハイブリッド車(HEV)向けLiBに採用。電池向けブランド「LIOACCUM®」が誕生した。19年には次世代導電材料CNT(カーボン ナノチューブ)を独自技術で分散した「LIOACCUM®」が電気自動車(EV)向けに採用。今後はEV市場の拡大に伴い、急成長が見込まれる。

 

LiB生産工程とCNT分散体「LIOACCUM®」
■LIOACCUM®は、CNT分散性と電極内での分配性に優れており活物質表面に均一かつ高効率な導電ネットワークを形成。
■LiBの高容量化、高出力化、長寿命化に貢献。

(同社資料より)

 

☆ポリマー・塗加工関連事業

 

22/12期

売上高

76,240

営業利益

2,504

利益率

3.3%

*単位:百万円

主な事業

主な製品

主な用途

パッケージ・工業材料

粘着剤、ラミネート接着剤、ホットメルト、

製缶塗料、樹脂

ラベル、フィルム包材、太陽電池、

PETボトルラベル、飲料缶、建材

エレクトロニクス

機能性フィルム、接着剤、両面テープ、

ハードコート

スマートフォン、ディスプレイ、タブレット

メディカル・ヘルスケア

メディカル製品、粘着剤、天然材料

貼付型医薬品、スポーツテープ、食品、飼料

(同社資料より)

 

中核素材の機能性樹脂にさまざまな機能を付与した製品を開発している。長年にわたって培われた独自技術を用いて新たな機能を創造し、エレクトロニクス、エネルギー、ヘルスケア関連などの分野において、新たな需要の開拓、市場の創造を目指している。

 

☆パッケージ関連事業

 

22/12期

売上高

83,464

営業利益

963

利益率

1.2%

*単位:百万円

 

主な事業

主な製品

主な用途

リキッドインキ

グラビアインキ

フィルム包材(食品パッケージ、日用品詰め替え)、建材

フレキソインキ

サニタリー、段ボール、紙袋

 

 

 

(同社資料より)

 

グラビア印刷、フレキソ印刷などの、パッケージ向け印刷用インキおよび機器・製版を取り扱っている。
食品包装などの分野では消費者の安心・安全のためにインキの水性化など環境に配慮した製品開発にも注力している。

 

☆印刷・情報関連事業

 

22/12期

売上高

75,180

営業利益

654

利益率

0.9%

*単位:百万円

 

主な事業

主な製品

主な用途

オフセットインキ(一般インキ)

オフセットインキ、新聞インキ

書籍、新聞、チラシ

 

機能性インキ

UV(紫外線硬化型)インキ

紙器、ラベル、書籍

金属インキ

飲料缶、食缶

スクリーンインキ

エレクトロニクス、ステッカー

 

 

 

 

創業以来の基盤セグメント。紙への印刷に使用する印刷インキが中心製品。
印刷インキの提供だけに留まらず、機械・機器の販売、印刷工程の効率化サポート、カラーマネジメントやカラーユニバーサルデザインに関する支援やツールの提供なども行っている。

 

◎海外展開
大きな成長を期待し難い国内市場では高付加価値製品による収益性向上を進める一方、今後成長が期待できる海外市場の開拓に製造、販売両面で積極的に取り組んでいる。
海外生産体制は前中期経営計画中にほぼ完成し、原料調達、生産共に現地で行っている。
2022年12月末現在で44の海外連結対象子会社を有し、幅広い国や地域で事業を展開している。
(地域別売上高、22年12月期)

 

売上高

前期比

営業利益

前期比

日本

1,770

+2.0%

29

-60.3%

アジア・オセアニア

1,269

+11.7%

37

-22.9%

ヨーロッパ

269

+27.5%

5

-61.5%

北米・中南米

227

+40.1%

-1

調整

-376

-1

連結計

3,159

+9.7%

69

-46.9%

*単位:億円

【1-5 ROE分析】

 

17/12期

18/12期

19/12期

20/12期

21/12期

22/12期

ROE (%)

4.8

5.4

3.9

2.8

4.4

4.3

売上高当期純利益率(%)

4.32

4.08

3.04

2.34

3.30

2.95

総資産回転率(回)

0.65

0.77

0.75

0.68

0.73

0.77

レバレッジ(倍)

1.72

1.72

1.72

1.76

1.84

1.87

 

PBR1倍以上に向け、一般的に日本企業が目標とすべきと言われている8%へ達するためには引き続き一段の収益性および効率性の改善が望まれる。

【1-6 特徴と強み】

①高い技術力
前述の様に、同社は印刷インキの原材料であるコア素材の顔料や樹脂を自社で生産し続けてきた。こうした技術力が高品質な印刷インキ生産のベースとなっているのはもちろんのこと、液晶用カラーフィルタ材料や接着剤・粘着剤など、事業領域や製品の拡大に繋がっている。

 

(同社HPより)

 

②優れた課題解決能力
同社が印刷インキ国内首位の地位を築いている大きな背景の一つが印刷会社に対する高い課題解決能力だ。
印刷インキの製造・供給のみでなく、版作り、画像など「印刷」に関連する要素全般に関して古くから研究を続けており、これが顧客に対する技術提案力やサービス力、ひいては顧客満足度の向上に繋がっている。

 

③環境に対する取り組み
同社では、CO2の削減とともに、Non-VOCインキや水性インキ、UVインキなどの環境調和型インキにもいち早く取り組んできた。新興国においても環境規制は一段と強化されており、ニーズは拡大している。また化学物質管理への取り組みや他社に先駆けたスイス条例対応製品のラインナップ化など安全・安心への取り組みも進んでいる。

 

④経営戦略の独自性
M&Aについては、同社がもつ技術力を新しい市場に展開するうえで、シナジー効果が期待できる場合には選択肢のひとつとして考えている。ただ、単にボリュームアップを目的としたM&Aは志向していない。また、輸送マイレージの削減、現地品の利用など、効率性向上と社会的貢献の両面から海外市場における「地産地消」のポリシーを印刷インキ業界ではいち早く打ちたてて実践してきた。

 

2.2023年12月期上期決算概要

(1)業績概要

 

22/12期 上期

構成比

23/12期 上期

構成比

前年同期比

売上高

154,758

100.0%

153,676

100.0%

-0.7%

売上総利益

27,870

18.0%

28,910

18.8%

+3.7%

販管費

23,254

15.0%

24,157

15.7%

+3.9%

営業利益

4,615

3.0%

4,752

3.1%

+3.0%

経常利益

6,728

4.3%

5,365

3.5%

-20.2%

当期純利益

8,410

5.4%

3,842

2.5%

-54.3%

単位: 百万円。「収益認識に関する会計基準」等を22年12月期第1四半期から適用。

 

微減収、営業増益
売上高は前年同期比0.7%減の1,536億円。為替の影響や価格改定効果はあったものの、エレクトロニクス市況と中国景気が低調であったことにより減収。ポリマー・塗加工においてパネルやスマートフォン向けが昨年来の在庫調整が続き苦戦した。
営業利益は同3.0%増47億円。価格改定効果(+42億円)やコストダウン効果(+7億円)が牽引、市況悪化による数量減少(-31億円)や原材料価格の上昇(-16億円)などを吸収して増益となった。
21年および22年の2年間で、価格改定効果は+252億円であったが、原材料高騰-333億円と、コスト増を吸収しきれなかった。23年は価格改定を更に進め、原材料高騰の影響の吸収に取り組んでいる。
四半期毎の業績推移は下表の通り。営業利益については、原材料高騰の影響が大きかった22/12期3Qを底に、価格改定を進めることにより明らかな回復基調にある。
当期純利益は同54.3%減の38億円。為替差益が前年同期21億円から9億円に減少したことや、前年同期にサカタインクス株式会社との資本提携解消に伴い同社株式を売却し、投資有価証券売却益54億円を計上した反動によるもの。

 

(2)セグメント別動向

 

22/12期 上期

構成比

23/12期 上期

構成比

前年同期比

売上高

         

色材・機能材

39,373

25.4%

39,364

25.6%

-0.0%

ポリマー・塗加工

38,144

24.6%

36,349

23.7%

-4.7%

パッケージ

39,988

25.8%

40,361

26.3%

+0.9%

印刷・情報

36,332

23.5%

36,344

23.6%

+0.0%

その他・調整

921

1,258

合計

154,758

100.0%

153,676

100.0%

-0.7%

営業利益

     

色材・機能材

1,501

3.8%

1,465

3.7%

-2.4%

ポリマー・塗加工

1,497

3.9%

1,917

5.3%

+28.1%

パッケージ

470

1.2%

1,418

3.5%

+201.2%

印刷・情報

588

1.6%

-41

その他・調整

559

-7

合計

4,615

3.0%

4,752

3.1%

+3.0%

単位: 百万円。営業利益の構成比は売上高利益率。

 

☆色材・機能材関連事業
機能性分散体は伸長も、着色剤が市況低迷、CF用材料が回復途上で売上高は前年並み。微減益だが、CF用材料は中小型が回復鈍いものの大型は回復基調、インクジェットは世界的な市場回復と着色剤の価格改定が進捗。

 

(液晶ディスプレイカラーフィルター用材料)
中国での拡販や台湾でのシェア向上に加え、液晶パネルメーカーでの生産が後半は回復に向かい、出荷も増加傾向。

 

(プラスチック用着色剤)
国内では消費者の買い控えや住宅着工件数の減少などで容器用や建材フィルム用が低調に推移したものの、海外で太陽電池用が好調だった。

 

(インクジェットインキ)
海外市場での在庫調整の影響はあったが、後半は回復に向かった。

 

(車載用リチウムイオン電池材料)
米国や欧州での供給を本格化させ販売を伸ばしており、米国と中国では今後の需要増に備えた設備増強を進めている。

 

☆ポリマー・塗加工関連事業
パネルやスマートフォン向けは昨年来の在庫調整が続き不調、パッケージ・工業材用は国内外で物価上昇に伴う買い控えの影響、特に中国市況が低調で減収。利益面では、エレクトロニクス市況低迷で高付加価値製品は不調も、国内外の価格改定により回復。

 

(塗工材料)
スマートフォンや液晶パネル市況の調整が続き、電磁波シールドフィルムや耐熱微粘着フィルムが低調に推移した。

 

(接着剤)
粘着剤は、国内ではラベル用やディスプレイ用が低調だったが、米国やインドでは設備増強により販売が拡大した。接着剤は、国内では包装用が堅調に推移したが、海外では消費の冷え込みで食品包装用などが伸び悩んだ。

 

(缶用塗料)
国内では顧客での稼働が伸び悩み低調に推移し、海外でも漁獲量の低迷などで食缶用が低調だった。一方、タイでは現地塗料メーカーを買収し事業拡大に向けて拠点を拡充した。

 

☆パッケージ関連事業
小幅な増収ながら、国内外で価格改定が進展し大幅な増益。

 

(リキッドインキ)
国内では、物価上昇による消費者の買い控えが生活必需品にも及び食品用の包装材需要は伸び悩んだ。しかし、行動制限の解除もあり季節商材や土産物用は堅調に推移した。段ボール用も、消費者の節約志向で飲料や加工食品関連向けが低調だった。海外では、インドでは需要が底堅く、販売も堅調に推移したが、中国では消費の低迷で食品包装用が低調だった。他方、国内外で原料価格高騰に対する販売価格の改定が進展し、利益改善が進んだ。

 

(グラビアのシリンダー製版事業)
包装用は新版需要もあり堅調だったが、エレクトロニクス関連の精密製版は低調に推移した。

 

☆印刷・情報関連事業
増収減益。

 

(国内)
情報系印刷市場の構造的な縮小が継続し、チラシや広告、出版向けが低調だったものの、紙器パッケージ向けは旅行関連の需要による持ち直しもあり堅調だった。なお、エネルギーや原材料のコストが高止まりするなか、同業他社との協業や事業の構造改革によるコストダウンを継続して進める一方、自助努力で吸収不可能な範囲は販売価格の改定も進めている。

 

(海外)
海外では、中国での不動産市況の悪化や輸出低迷による景気の弱含みもあり販売が低調に推移したものの、紙器パッケージ向けに機能性を付与したコーティング剤は拡販が進んだ。

 

(3)財務状態と

キャッシュ・フロー

◎主要BS

 

22年12月末

23年6月末

増減

 

22年12月末

23年6月末

増減

流動資産

229,247

221,930

-7,317

流動負債

113,463

120,813

+7,350

 現預金

55,117

49,213

-5,904

 仕入債務

70,738

60,152

-10,586

 売上債権

100,390

99,945

-445

 短期借入金

24,022

38,976

+14,954

 たな卸資産

67,582

67,971

+389

固定負債

69,836

59,880

-9,956

固定資産

181,930

204,141

+22,211

 長期借入金

59,851

45,520

-14,331

 有形固定資産

122,366

130,081

+7,715

負債合計

183,300

180,693

-2,607

 無形固定資産

2,619

4,730

+2,111

純資産

227,877

245,378

+17,501

 投資その他の資産

56,944

69,330

+12,386

 利益剰余金

151,414

152,873

+1,459

資産合計

411,177

426,072

+14,895

負債純資産合計

411,177

426,072

+14,895

       

有利子負債残高

83,873

84,496

+623

*単位:百万円

 

現預金減少の一方、たな卸資産、有形固定資産、無形固定資産の増加などで資産合計は前期末比148億円増加の4,260億円となった。
仕入債務の減少等で負債合計は同26億円減少の1,806億円。為替換算調整勘定のプラス幅拡大などで純資産は同175億円増加の2,453億円となった。
この結果、自己資本比率は前期末比2.2ポイント上昇し、55.5%となった。

 

◎キャッシュ・フロー

 

22/12期 上期

23/12期 上期

増減

営業CF

-262

5,631

+5,893

投資CF

1,512

-9,367

-10,879

フリーCF

1,250

-3,736

-4,986

財務CF

-6,155

-3,506

+2,649

現金同等物残高

58,802

47,642

-11,160

*単位:百万円

 

有価証券売却益の減少、棚卸資産の減少などで営業CFはプラスに転じた。有形固定資産の取得による支出の増加などで投資CFはマイナスに転じた。自己株式の取得による支出の減少などで財務CFのマイナス幅は縮小。
キャッシュポジションは低下した。

 

(4)トピックス

◎バイオテクノロジー企業VLPセラピューティクスへの出資
VLPセラピューティクスは、マラリア、デング熱、がんなどのワクチンを研究開発する米国バイオテクノロジー企業。
VLP Therapeutics, Inc.及びVLPセラピューティクスのグループ会社であるVLP Therapeutics Japan株式会社へ出資した。

(同社資料より)

 

出資の狙い
✓世界最先端の創薬関連ノウハウの獲得
✓同社製品の創薬市場への販売チャネル獲得
✓共同開発による同社バイオ関連製品のレベルアップ
✓将来を見据えた、バイオ関連製造プロセス技術の獲得

 

VLPセラピューティクスのバイオ市場向け製品事例
■細胞凝集コントロール用ポリマー材料
■近赤外蛍光プローブ色素

 

◎社名を変更
自社の改革に向けて、社名を変更する。2024年1月1日に変更予定。
新社名はartience株式会社 (アーティエンス、artience Co., Ltd.)。
同社の強みであるscienceとartを融合し磨き上げることによって生まれる、人の心を動かす「感性に響く価値」を世界に提供していくことで心豊かな未来の実現に貢献していくという思いを表している。

 

(同社資料より)

 

(基本的な考え方)
●事業ポートフォリオの改革
●資本効率とキャッシュフローの最大化
●企業基盤構築とサステナビリティ経営実践

 

◎次期中期経営計画
24年2月に新中期計画を発表予定
次期中期経営計画
✓収益拡大
✓ROE7%目標、将来的に10%目指す

⇒PBRの改善

 

3.2023年12月期業績予想

(1)業績見通し

 

22/12月期

構成比

23/12月期(予)

構成比

前期比

売上高

315,927

100.0%

330,000

100.0%

+4.5%

営業利益

6,865

2.2%

11,000

3.3%

+60.2%

経常利益

7,906

2.5%

9,500

2.9%

+20.2%

当期純利益

9,308

2.9%

6,000

1.8%

-35.5%

*単位: 百万円。予想は会社側発表。

 

増収、営業増益
通期予想に修正はなく、売上高は前期比4.5%増の3,300億円、営業利益は同60.2%増の110億円の予想。
印刷・情報は減収増益、それ以外のセグメントは増収増益を見込む。下期からは海外市場を中心に数量も回復してきており、売上・利益ともに順調に伸びていく見通し。製品では、高付加価値製品である液晶パネル、エレクトロニクス、スマホ関連材料が下期にかけて在庫調整も終わり回復基調にある。成長分野では、環境調和型製品において、太陽電池用の封止材用マスターバッチが中国を中心に拡販が進んでいるが、インドでの拡販も進めている状況。環境関連テーマのポリマー材料では、LiB用の外装用のラミネート接着剤がこれまでの日本、韓国に続いて中国においても本格採用が7月からスタートしており、引合いも多い。これまで進めてきたこれらグローバルベースでの生産能力の拡大が、下期に寄与する見込み。CF用材料は中国市場が回復基調にあり、下期の本格回復を見込む。急成長しているLiB用材料については、23/12期は先行投資段階、24/12期の黒字化を目指す。

(同社資料より)

 

配当も修正なく、前期と同じく90.00円/株を予定。予想配当性向は79.5%。

 

(2)セグメント別動向

売上高

22/12月期

23/12月期(予)

前期比

色材・機能材

794

870

+9.6%

ポリマー・塗加工

762

780

+2.3%

パッケージ

835

880

+5.4%

印刷・情報

752

750

-0.2%

その他・調整

17

20

合計

3,159

3,300

+4.5%

営業利益

     

色材・機能材

18

36

+95.0%

ポリマー・塗加工

25

45

+79.7%

パッケージ

10

25

+159.6%

印刷・情報

7

12

+83.5%

その他・調整

9

-8

合計

69

110

+60.2%

*単位:億円。

 

(各セグメントの下期施策)
☆色材・機能材関連事業
増収増益。
LiB用分散体は欧米中日市場へ供給を拡充させる。CF用材料は中国市場での生産を検討する。着色剤の環境調和型製品を積極展開。インクジェットはパッケージ用途に注力する。

 

☆ポリマー・塗加工関連事業
増収増益。
粘着剤・接着剤は海外を拡大させるとともに、エネルギーコストなどの上昇に伴う価格改定を引き続き実施する。成長領域(環境、半導体、メディカル)への製品を積極展開し収益構造変革を進める。

 

☆パッケージ関連事業
増収増益。
環境調和型製品を軸とした製品展開を進め、価格改定を推進する。海外市場でのシェア向上と収益改善に取り組む。

 

☆印刷・情報関連事業
減収増益。
国内構造改革の継続によるコストダウンと価格改定の推進のほか、機能性インキを中心とした海外事業の拡大に取り組む。

 

4.中期経営計画「SIC-Ⅱ」(2021年‐2023年)の進捗

(1)2022年12月期までの進捗

大きく変化する事業環境の下、「事業の収益力強化」「重点開発領域の創出と拡大」「持続的成長に向けた経営資源の価値向上」の3つの方針について、2021、2022年の2年間で以下のような取り組みを進めた。

(同社資料より)

 

2023年12月期は「売上高3,300億円、営業利益110億円」を予想しており、同計画の当初計画「売上高3,000億円、営業利益220億円」に対し、売上高は超過も、営業利益は未達の見通しである。

 

(2)今期の取り組み

最終年度となる2023年12月期の各方針における取り組みは以下のとおりである。

 

方針①事業の収益力強化
主力の8製品において、成長が続く海外市場で、環境調和型製品を軸に事業を拡大する。
2023年の海外比率は、2021年49.9%、2022年52.8%からさらに上昇し、54.2%を計画している。

(同社資料より)

 

メディア材料においては、液晶パネル市場の変化へ柔軟に対応する。
液晶パネル市場は22年上期後半から低迷したが、在庫調整も一服し23年下期以降回復すると見ている。
中国シフトは加速し、競争が更に激化するが、顧客採用に向け量産テストを継続する。
コモディティである大型パネル市場では、世界最大の中国市場で売上拡大を図るため、コスト競争力と中国現地営業体制の強化に注力する。
ハイエンド市場では、徹底した差別化・機能製品を展開し、シェアを拡大する。具体的には、薄膜高精細の中小型パネル、CMOSや波長制御のセンサー、分散レス顔料・低温硬化の環境負荷低減製品などを積極的に投入する。

 

方針②重点開発領域の創出と拡大
リチウムイオン電池正極材用導電カーボンナノチューブ(CNT)分散体の需要が中国・北米で拡大しており、順次量産を開始している。

 

中国では世界最大手クラスの車載電池メーカーにおいて、航続距離が長いハイエンドEV用次世代高容量リチウムイオン電池に採用された。中国珠海拠点の設備を増設し、生産能力を強化する。24年量産モデルのリチウムイオン電池より搭載される予定である。
北米では、米国車載電池市場が急拡大しているため、従来のジョージア州工場に加え、北米第2拠点となるライオケム・イー・マテリアルズ(新会社)を新設した。2025年より量産を開始する予定だ。

 

中国・北米に日本・欧州を加えた4極5拠点生産体制と独自技術を持つ唯一のCNT分散体メーカーとして事業を拡大する。
欧州市場では、第2期工事を終えたハンガリーで23年第1四半期に量産を開始するとともに、第3期工事に着工する。日本では静岡県富士市で設備を増強中である。
独自技術を有する同社は、技術革新により性能と安全性を両立させた高性能CNT分散体(正極材用)、負極材用など関連材料も開発を推進する。
2026年には売上高400億円超をめざす。

 

方針③持続的成長に向けた経営資源の価値向上
ESG経営については、各分野それぞれ以下の取り組みを推進する。

(同社資料より)

 

事業基盤の強化においては、新事業創出に向けた専任組織を設置するほか、リスキリング・リカレント教育を導入する。間接部門の人員を成長領域へシフトする。
DX推進による基盤強化においては、営業・技術開発・生産・管理の各分野でDXを推進する。

 

設備投資
成長を推進する設備投資を実行する。
SIC-II3年間累計の設備投資は当初400億円を計画していたが、464億円に引き上げた。
2023年はLiB用分散体向け設備投資88億円を含む、168億円を計画している。

 

主要設備投資

(同社資料より)

 

LiB用分散体(LIOACCUM®)、売上目標・投資額を上方修正
LiB用分散体の順調な拡大に向けた採用活動が進んでいる。顧客からも高い評価を得ており、当初350億円超を売上目標としていたが。400億円超に上方修正。また、生産能力を強化するにあたり、設備投資も上方修正した。
■26年度売上目標を400億円超、設備投資を250億円超へ各50億円ずつ修正
■新規に3社採用(北米)が内定、欧米日での生産が順調に進む

(同社資料より)

 

次期中期経営計画
尚、前述の通り、次期中期経営計画を24年2月に発表予定。

 

 

5.今後の注目点

中期経営計画「SIC-Ⅱ」の最終年度となる23年12月期、売上高は同中計の期初計画を全セグメントで上回る一方、原材料およびエネルギー価格高騰が響き、営業利益は当初計画の半分の水準にとどまる見込み。ただし、価格転嫁の進展とともに原材料やエネルギー価格が落ち着きを見せたことで22年12月期3Qを底とした利益の回復が顕著に現れている。
今般、LiB用分散体において売上目標を上方修正した。EV市場は急拡大しているが、技術的な競争力を含めて今後の拡販に向けての自信と受け止めたい。実際に商談も進展している模様。もっとも、先行投資によりLiB用分散体の本格的な利益貢献には時間を要する可能性もありそうだ。
足元の業績の回復、及びLiB用分散体が牽引する成長性を考慮するとPBRが1倍を大きく割り込む株価水準は割安と考える。来年2月に発表予定の中期計画では、PBR改善に向けた施策が打たれる見通し。高島社長も「シリアスな問題」と捉えており、踏み込んだ対策が見込まれる。

 

 

2023年

(当初計画)

2023年

(今期予想)

差額

売上高

3,000

3,300

+300

色材・機能材

815

870

+55

ポリマー・塗加工

755

780

+25

パッケージ

800

880

+80

印刷・情報

645

750

+105

営業利益

220

110

-110

色材・機能材

69

36

-33

ポリマー・塗加工

85

45

-40

パッケージ

56

25

-31

印刷・情報

13

12

-1

*単位:億円

<参考1:中期経営計画「SIC-Ⅱ」(2021年‐2023年)>

持続的な成長を実現する2027年に向けた10年の長期構想「Scientific Innovation Chain 2027 (SIC27)」の下、3年ごと3段階の中期経営計画に落とし込み、課題と役割を明確にし、目指す未来に向けて着実に行動していこうと考えている同社は、第1段階である「中期経営計画SIC-Ⅰ(2018-2020年度)」に続き、第2段階である「中期経営計画SIC-Ⅱ(2021-2023年)」を2021年1月にスタートさせた。

 

<前中期経営計画SIC-I (2018~2020年)の総括>
原料の高騰、市場構造の変化、コロナ禍など外部環境の大きな変化もあり、業績目標には未達であったが、重点領域であるポリマー・塗加工、パッケージ事業へ収益シフトを進めることができたほか、新事業に資源を投入した。
また重点施策である環境対応製品の展開を進めることができ、海外エリアへの展開も推進するなど、一定の成果を収めることもできたと考えている。

 

一方、印刷・情報関連事業を中心とした構造改革の更なるスピードアップ、新製品・新事業の柱の創出、コロナ禍による市場構造の急激な変化への対応が課題であるという点が明確になった。

 

<外部環境についての認識>
新型コロナウイルスについては、2021年度は徐々に回復基調に入るが、コロナ前水準への経済回復は2022年度以降となる。国内よりも海外市場は早期に回復すると見ている。
引き続き不透明で厳しい事業環境・市場環境が続くが、この逆風を変革のチャンスとする考えだ。
今後の成長市場のテーマを「グリーン」「デジタル」「健康」と設定した。

 

<目指す姿>
目指す姿は「新たな時代に貢献する生活文化創造企業」。
上記のように今後の成長市場のテーマを「グリーン」「デジタル」「健康」とし、「サステナビリティ」「コミュニケーション」「ライフ」を重点開発領域とする。
「事業の収益力強化」「重点開発領域の創出拡大」「持続的成長に向けた経営資源の価値向上」という3つの方針により、ありたい姿を目指していく。

 

(同社資料より)

 

<数値目標>
2023年12月期 売上高3,000億円、営業利益220億円、営業利益率7%以上、ROE7%以上を目標としている。

 

<基本方針①:各セグメントにおける収益強化策>
◎セグメント別収益強化策

色材・機能材 ◆成長市場において収益の柱を確立

*EV:リチウムイオン電池関連材料の展開

 

*デジタル:FPD用レジストインキの中国シェア拡大、イメージセンサ用レジスト、インクジェットインキ

 

*プラスチック着色剤:拠点整理、高付加価値製品の拡大

ポリマー・塗加工 ◆接着剤事業の海外展開と新ポリマーによる成長市場への事業拡張

*パッケージ・工業材:生産能力増強と環境調和型製品群の拡充による海外展開

 

*5G・IoT:5G市場でのポジション確立と半導体市場への参入

 

*メディカル・ヘルスケア:関連製品群の拡大と育成

パッケージ ◆環境対応をリードし、特にアジア市場で成長拡大

*パッケージリサイクル事業化推進

 

*中国、インド、トルコ、東南アジア等の海外成長市場に集中投資

印刷・情報 ◆市場環境に適合した収益事業へ進化

*紙器等の包装用途および工業分野向け機能性インキを拡大

 

*カラー・コミュニケーション事業化推進

*2021年度よりインクジェットインキは印刷・情報事業から色材・機能材事業に変更している。

 

各セグメントの売上高・営業利益目標は以下の通り。

 

 

 

<基本方針② 重点開発領域の創出と拡大>
◎3つの重点開発領域
3つの重点開発領域での注力ポイントなどは以下の通りである。

サステナブル・サイエンス ◆持続可能な社会実現

 

(中心となる開発対象)

*バイオマス、リサイクルなど環境調和パッケージ

*EVや新エネルギー向けリチウムイオン電池材料

 

コミュニケーション・サイエンス ◆キー素材で5G・IoT社会に貢献

 

(中心となる開発対象)

*IoTやセンサ向け光学制御材料

*5G、半導体向け低誘電材料、機能性フィルムなど

 

ライフ・サイエンス ◆人々の生活を豊かに・健やかに

 

(中心となる開発対象)

*貼付型医薬品

*デジタル印刷用インクジェットインキ

 

 

◎開発体制の変革
重点開発領域の研究開発体制も強化する。

 

各セグメント主管会社に研究所を新設する。2 – 5年のスパンでの中期開発テーマを手掛ける「中期的な開発戦略の専任部門」であり、新製品や新事業の創出を加速する。

 

色材・機能材 先端材料研究所
ポリマー塗加工 ポリマー材料研究所
パッケージ 機能材開発研究所
印刷・情報

 

より長期的な開発テーマは、ホールディングスR&D研究所、生産技術研究所が担当し、各研究所と連携をとって研究開発を進める。

 

◎投資計画
成長市場への集中投資を行う。
SIC-IIでは総額400億円を計画しており、内訳は、色材・機能材 29%、ポリマー・塗加工 31%、パッケージ 25%、印刷・情報 11%。また次の3年(SIC-Ⅲ)も見据えた6年間の主要投資は、「色材・機能材 約200億円」「ポリマー・塗加工 約300億円」「パッケージ 約400億円」を計画している。
色材・機能材では、日本・中国・米国・欧州におけるEV関連材料、ポリマー・塗加工では、医薬品(守山工場)、新ポリマー合成(川越製造所)、粘接着剤(米国・中国・インド)、パッケージでは、トルコ・インド・中国・インドネシアでの工場建設・増強を計画している。

 

<基本方針③ 持続的成長に向けた経営資源の価値向上>
企業体質の変革に向け、以下のような取り組みを進める。

 

◎働き方・人事制度改革
成果連動型の評価制度を強化する。
女性活躍宣言により、国内女性管理職比率を現在の4%から8%に引き上げる。
新卒に限らず、通年採用を拡大する。
グループ人員の適正規模を見極め、適正な配置を進める。
リモートオフィスが定着してきたのを機にイノベーション創出に繋がるオフィス改革に取り組む。

 

◎DXの推進
持続的成長のための重要な経営課題であると認識しており、各部門でDXを推進する。

部門

取り組み

営業 *デジタル・マーケティング

*新ビジネスモデル構築

生産 *スマートファクトリー

*IoTでプロセス変革

技術開発 *マテリアルズ・インフォマティクス

*開発スピード高速化

管理 *RPA推進

*DX推進に向けた教育

 

◎ガバナンス体制の変革
中でも、取締役・監査役の独立性の向上、透明性の確保、業績連動報酬制度の導入、リスクマネジメント強化、政策保有株の削減に取り組む。

 

◎環境経営の推進
環境課題に強い意識を有する同社は、今後さらに環境調和型製品の開発・拡大に注力し、持続可能な社会づくりに貢献する。

社会課題

製品・サービス

省エネ *高感度UV硬化

*EB(電子線)硬化

VOC対策 *水性化

*無溶剤化

CO2削減 *バイオマス
フードロス削減 *鮮度保持

*レトルト対応

廃プラ・リサイクル *生分解

*リサイクルシステム

 

また気候変動問題においても、政府が掲げる「2050年 カーボンニュートラル」に向け、CO2削減に積極的に取り組むほか、省エネ活動も継続する。2020年には川越製造所が省エネルギーセンター会長賞を受賞している。

 

◎キャッシュ・フロー方針
財務健全性と投資・株主還元のバランスを重視する。
財務健全性においては自己資本比率の適正水準維持、手元流動性の確保を念頭に置く。
設備・技術投資、人材投資、M&Aを積極的に実行する。
また、安定配当を継続する。21年2月には自社株買い50億円を実行したが、今後も状況を踏まえ検討していく。

 

<参考2:コーポレート・ガバナンスについて>

◎組織形態、取締役、監査役の構成

組織形態 監査等委員会設置会社
取締役 11名、うち社外6名(5名が独立役員)

(2023年8月23日現在)

 

◎コーポレート・ガバナンス報告書
最終更新日:2023年4月3日

 

<基本的な考え方>
当社グループは、持株会社体制のもと、グループ戦略機能を強化し、スピード経営を推進し、グループ全体最適と各事業最適をバランスさせることを通じてグループ全体としての価値向上を目指しております。
当社グループにおける経営の枠組みは、グループ企業経営における基本的な考え方を体系化した経営哲学及び経営理念並びに行動指針からなる「東洋インキグループ理念体系」と、社会的責任への取組み姿勢を明確にしたCSR憲章及びCSR行動指針からなる「CSR価値体系」で構成されております。
当社グループは、「東洋インキグループ理念体系」と「CSR価値体系」を実践することにより、サイエンスに基づくモノづくりを通して、生活者・生命・地球環境の持続可能性向上に貢献し、経営理念に掲げる「世界にひろがる生活文化創造企業」を目指してまいります。
そのためにはステークホルダーと同じ視点で自身の企業活動を評価し、経済、社会、人、環境においてバランスの取れた経営を遂行することこそが、企業としての有形、無形の価値を形成し、社会的責任を果たすための最重要課題として位置付けております。

 

この実現のために、
・事業執行機能を各事業会社に委譲するとともに、コーポレート・ガバナンスを強化するため、グループ各社に適用される稟
議規程及び関係会社管理規程の適切な運用
・内部統制システムの整備
・株主総会、取締役会、監査等委員会、会計監査人など法律上の機能制度の強化による指導・モニタリング機能の向上
・迅速かつ正確、広範な情報開示による経営の透明性の向上
・コンプライアンス体制の強化・充実
・地球規模の環境保全の推進
などを進め、株主や取引先、地域社会、社員などの各ステークホルダーと良好な関係を構築し、コーポレート・ガバナンスを充実させております。

 

<コーポレートガバナンス・コードの各原則に基づく開示(抜粋)>

 

原則

開示内容

(原則1-4)

政策保有株式

当社は、業務提携、取引関係の維持・強化、原材料の安定調達などの経営戦略の一環として、必要と判断する企業の株式を政策的に保有して おります。これらの政策保有上場株式については、毎年、取締役会において、資本コストと比較した保有に伴う便益や取引状況などを個別銘柄毎に検証し、保有が適切ではないと判断した銘柄は、当該企業の状況や市場動向を勘案したうえで縮減を進めております。なお、2022年度においては9銘柄の全量売却と3銘柄の一部売却を実施いたしました。  政策保有上場株式の議決権行使については、各議案が発行会社の中長期的な企業価値の向上に資するものであるか否か、当社を含む株主 共同の利益に資するものであるか否か、また当社グループの経営や事業に与える影響等を定性的かつ総合的に勘案したうえで、議案毎に適切に行使いたします。なお、発行会社において企業価値の著しい毀損、重大なコンプライアンス違反の発生等、特別な事情がある場合や、株主としての当社の企業価値を損なうことが懸念される場合は、発行会社との対話等により十分に情報収集したうえで、慎重に賛否を判断いたします。
(補充原則2-4①)

中核人材の登用等における多様性の確保

当社グループは日本国内での女性管理職比率を2023年度に8%とする目標を設定しております。次期リーダー層の女性社員を対象としたキャリア研修を実施するなど、女性社員が仕事や役割にチャレンジする自信と勇気をもって一歩踏み出せるよう、働きかけてまいります。また、日本国内における外国人および中途採用者の管理職比率については、国籍や職歴による差別のない採用・育成方針であることに鑑み数値目標を掲げる必要はないと考えております。後述の方針に基づき多様性の確保に努めております。なお2023年1月時点における国内の各管理職比率は女性が約4.5%、外国人は1%未満、中途採用者は約32%となっております。多様性の確保に向けた人材育成方針と社内環境整備方針については、以下のとおりです。

 

<グローバルな視野・能力を持つ人材の育成>

国内外問わず、海外ビジネスに関連する多様な実務経験を通した能力開発を行う方針のもと、人材育成を進めています。また将来を見据え、若手・中堅層を中心に海外現地法人での実習による人材育成を進めております。

 

<組織の活性化に向けたダイバーシティ推進>

①社員同士の違いを認め、活かすための情報提供と教育の提供、②ダイバーシティ推進のため、2023年より専任組織であるD&I(ダイバーシ   ティ&インクルージョン)推進室を発足させ、多様な人材が活躍できる環境整備、制度設計、育成施策の検討を進めております。

(補充原則3-1③)

サステナビリティについての取組み

当社グループは、長期構想SIC27において、東洋インキグループの持続的な成長が社会の持続可能性の向上に寄与する姿をコンセプト「サステナブルグロース」として掲げております。加えて、グループのサステナビリティ活動の実践的な長期目標として、サステナビリティビジョン「TSV2050/2030」を策定し、2050年におけるカーボンニュートラル達成を中心としたさまざまなサステナビリティ活動を推進するための基本的なビジョンと、2030年における中間目標を設定しております。サステナビリティ推進体制やTCFD提言に基づいた気候関連財務情報開示などは、当社ウェブサイトや「統合レポート2022」に掲載しております。

人的資本については、人材を最も重要な経営資本として積極的に投資しており、各種研修や自己啓発活動を推進する「東洋インキ専門学校」の設置、人材ローテーション制度の導入、ダイバーシティ推進のための女性の活躍推進やメーカーとして労働安全衛生の徹底を推進しております。新たな知的財産の創出についても、社会ニーズを的確に捉えた新製品の開発や新ビジネスの創出を促進するためにR&D体制を整備し、オープンイノベーションの推進や戦略的な特許の取得などにも努めております。これらの情報につきましても統合レポートやサステナビリティデータブックなどを通じて積極的に開示を実施しております。

(原則5-1、補充原則5-1②)

株主との建設的な対話に関する方針

当社では株主・投資家を重要なステークホルダーと考えており、行動指針の一つとして「株主様満足度の向上」(SHS:ShareHolder Satisfaction) を掲げ、株主権の尊重と株主価値の向上に取り組んでおります。その中でも株主や投資家との建設的な対話は重要なファクターと位置付けております。IR担当の取締役を指定し、関係各部門の有機的連携により情報共有を確実に行い、一般株主にはグループ総務部、投資家にはグループ経営部が窓口となって対話の促進を図っており、対話を通じて把握した意見のうち重要性が高いと判断したものについては担当取締役に適宜報告しております。

インサイダー情報の管理については、インサイダー取引防止管理規程、情報保護管理規程などを定めているほか、ビジネス行動基準に具体的 な行動指針として定め、ガイドブックを全グループ社員に配布するとともに、定期的な教育を行うことで周知徹底を図っております。

 

株式会社インベストメントブリッジ
ブリッジレポート   株式会社インベストメントブリッジ
個人投資家に注目企業の事業内容、ビジネスモデル、特徴や強み、今後の成長戦略、足元の業績動向などをわかりやすくお伝えするレポートです。
Copyright(C) 2011 Investment Bridge Co.,Ltd. All Rights Reserved.
本レポートは情報提供を目的としたものであり、投資勧誘を意図するものではありません。 また、本レポートに記載されている情報及び見解は当社が公表されたデータに基づいて作成したものです。本レポートに掲載された情報は、当社が信頼できると判断した情報源から入手したものですが、その正確性・完全性を全面的に保証するものではありません。 当該情報や見解の正確性、完全性もしくは妥当性についても保証するものではなく、また責任を負うものではありません。 本レポートに関する一切の権利は(株)インベストメントブリッジにあり、本レポートの内容等につきましては今後予告無く変更される場合があります。 投資にあたっての決定は、ご自身の判断でなされますようお願い申しあげます。

このページのトップへ