M&A総合研究所<9552> 高い効率性を保ちながらM&Aアドバイザーの増員を継続できるかどうかに注目

2022/07/12

AIやDXのテクノロジー活用で急拡大のM&A仲介会社
高い効率性を保ちながらM&Aアドバイザーの増員を継続できるかどうかに注目

業種: サービス業
アナリスト: 藤野 敬太

◆ AI等のテクノロジー活用を特徴とするM&A仲介サービスを提供
M&A総合研究所(以下、同社)は、AIを中心としたテクノロジーの活用を特徴とするM&A仲介サービスを提供している。設立が18年10月と社歴は浅く、業界では後発となるが、21/9期に売上高が急拡大するとともに、M&Aアドバイザーの人数では業界上位に位置している。会社設立から22年3月までの3年6カ月間のM&A累計成約数は65件にのぼる。

同社の事業は、M&A仲介事業とその他に分類される(図表1)。その他は、WEBマーケティング支援事業で、クライアントのウェブサイトへの流入数増加等を支援するサービスだが、M&A仲介事業への注力により、存在感は大きく低下している。

◆ M&A仲介サービスの流れと、AI・DX活用の優位性
同社のM&A仲介サービスは、譲渡希望企業(以下、売り手候補)または買手候補企業(以下、買い手候補)との間でアドバイザー契約を締結した上で、マッチング相手の探索や、マッチング後のディール進行過程における利害関係者との調整サポートを行い、成約に導くサービスである。

M&A仲介サービスの案件は、以下の3つのフェーズをたどって進められる。

(1) 売り手候補の探索からアドバイザー契約締結までのソーシングフェーズ
(2) 案件化から買い手候補と売り手候補のトップ面談を行うところまでのマッチングフェーズ
(3) 買い手候補の買収意向表明から成約までのエグゼキューションフェーズ

3つのフェーズを経て成約するまでに、業界平均としては1年程度かかると言われている。大手仲介会社の場合は、買い手候補の情報が多いため、マッチングフェーズの時間が短くて済む傾向が強い。その分成約に至るまでの期間は多少短くなるが、それでも1年弱となることが多いという。一方、同社の場合は、21/9期に成約した25件の平均成約期間が6.2カ月であり、群を抜いて短い。

成約に至る期間を大きく短縮できたのは、(1)各フェーズで発生する非効率な作業をDXの推進で効率化してきたこと、(2)マッチングにおけるAIの活用で、買い手候補のリスト作成から営業活動までの時間短縮とマッチング精度の向上を実現できたことの2点が要因である。なお、同社のDX及びAIのシステムはすべて自社開発であり、他社には容易に真似できない水準のものとなっている。

◆ 売り手企業には完全成功報酬の料金体系
通常、M&A仲介において、以下のタイミングで収益を得られる場合が多い。

(1) ソーシングフェーズ終盤のアドバイザー契約締結時
(2) マッチングフェーズでの一時点
(3) エグゼキューションフェーズが終了して成約となった時(クロージング時)

同社は、(3)のタイミングでの成約時に、買い手、売り手の双方から成功報酬を受け取っている。この成功報酬が同社の収益の大半を占めている。成功報酬以外では、(2)のタイミングで、意向証明書の提出、基本合意の締結、買収監査の実施のいずれかが完了した時に、買い手候補から中間報酬を受け取っている。ただし、このタイミングでは売り手候補からの収益は発生しない。また、(1)のタイミングでのいわゆる着手金を同社は無料としている。

この結果、買い手候補からは中間報酬と成功報酬を、売り手候補から成功報酬だけを受け取る。売り手候補にとっては完全成功報酬制の料金体系となる。

◆ M&Aアドバイザーの増員への注力
同社はM&Aアドバイザーの増員を、最も重要な成長ドライバーと位置づけている。上述のDXの推進やAIの活用、売り手候補の完全成功報酬制はどちらも、後述する通り、M&Aアドバイザーの増員につながる要因として機能している。

DXの推進やAIの活用は、M&Aアドバイザーが本来やらなくても良い業務を最小限に抑え、M&Aアドバイザーがやるべき業務に集中できる環境づくりに貢献している。その結果、成約期間は業界平均を大きく下回る短さとなり、M&Aアドバイザーが経験できる成約件数の増加につながる。M&Aアドバイザーの成長機会が豊富なことは、採用活動時の訴求ポイントとなっている。

売り手候補の売却依頼のハードルを下げる要因となっている完全成功報酬制もまた、売り手候補の確保を通じた成約案件の増加につながり、M&Aアドバイザーの経験量の増加に寄与している。

さらに、インセンティブ制度も工夫されており、基本給とインセンティブ合計を人件費とした売上高人件費率は同業他社と同水準だが、インセンティブの割合が高い設計となっている。マッチング業務をM&Aアドバイザーとは異なる専門部門が行うため、インセンティブにつながる業務に集中できる稼ぎやすい報酬体系も訴求ポイントとなっている。

M&Aアドバイザーの人数は、20/9期末10名、21/9期31名、22/9期第2四半期末51名と増加が続いている(図表2)。

◆ 成約件数と1件当たり平均成約手数料
成約件数は19/9期5件、20/9期9件、21/9期25件となり、21/9期に急増した。また、成約手数料を成約件数で割った1件当たり平均成約手数料は、19/9期33百万円、20/9期32百万円、21/9期48百万円となり、こちらも21/9期に急上昇した(図表3)。なお、22/9期第2四半期累計期間は、成約件数は26件と、既に21/9期の成約件数を上回り、1件当たり平均成約手数料も65百万円となり大幅な上昇が続いている。

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