紫のダイヤを追え ~アフター・コロナのダイヤモンド市場~
ピレネー山脈をまたいだ2つの国による1年に及ぶ追跡だった。
スペインとフランスの警察当局が希少な「紫」のダイヤモンドを盗んだ宝石泥棒と詐欺師の一団を逮捕した(参考)。
捜査は昨年(2020年)1月に始まった。スペイン・バルセロナで約1800万ドルの価値があると推定されるダイヤモンドが強奪されたのだ。そして(同年)8月にはフランスのカンヌで約540万ドル相当のダイヤモンドの盗難事件が起こる。
そして遂に今年(2021年)2月18日(マドリード時間)スペイン北東部カタルーニャ地方の警察がパリに近いフランスのボンディで犯罪組織の容疑者8名を逮捕したと発表した。
盗まれた「紫」のダイヤモンドは莫大な金額になるという。
(図表:スペインとフランスの間を走るピレネー山脈)
仏教用語で「金剛」が「最も硬い金属」を意味することから「金剛石」とも名付けられているダイヤモンドは2007年に日本でも発見されている。愛媛県の露頭岩石中に天然ダイヤモンドが含まれていたのである。
ダイヤモンドは火山岩に伴って産出されるものだ。通常は地質学的に古く、非活動的な冷えた(熱活動がおさまった)大陸地域(南アフリカやオーストラリア)で産する。他方で日本列島は活動的で温かく、地質学的に新しい地質からなっている。そのためこの発見は天然ダイヤモンドの産出に関する一般認識を覆す発見だった(参考)。
我が国では株式会社ナガホリ(TYO: 8139)が宝飾品の製造卸大手としてダイヤモンドを主力にしている。
しかしダイヤモンド・マーケットは他の貴金属とは異なり、「造られたマーケット」 という色彩が強いことを押さえておく必要がある。南アフリカを発祥とし現在は英ロンドンに本社を置くデビアス社が元来圧倒的な支配力をもって発展させてきた歴史がある(参考)。
これに1948年に念願の国家となった「イスラエル」がその運営の資金作りとして全力でダイヤモンド産業の育成に取り掛かる。文字どおり基幹産業として育ったイスラエルのダイヤモンド産業はその輸出額を512万ドル(1949年)から1962年には5632万ドル、1980年には14億906万ドルにまで伸ばしていった。
他方でロシアは人工ダイヤモンドを巡る最先端の技術を握っている。
(出典:Wikipedia)
ところが世界的なパンデミックに見舞われた昨年(2020年)前半ダイヤモンド業界は完全に足踏み状態に陥った。アントワープ、ベルギー、ムンバイの世界的なダイヤモンドの拠点は切断・研磨工場が閉鎖され、取引所が閉鎖された。
しかしその後、米国と中国における重要なホリデー・セール時期(感謝祭と旧正月)には好調に推移し、さらに業界の中間業者の在庫が不足していたことから強い需要が生まれた。
するとデビアス社は今年(2021年)最初のセールにおいてここ数年で最大の値上げ(5パーセント)を行なったのである(参考)。
実は崩壊していたダイヤモンド業界が急速な回復を見せていた裏にはデビアス社とロシアのアルロサ(Alrosa)社が供給を抑制し、値下げを進めた経緯があると“流布”されている(参考)。
かつてデビアス社は約80パーセントも握っていたマーケット・シェアを自ら抑えることでむしろダイヤモンド・マーケットの活性化を図ってきたこともある。しかし今回値上げを実施したことは大きな影響を及ぼしそうだ。
「アフター・コロナ」のダイヤモンド・セクターはどこへ進んでゆくのか。引き続き注視して参りたい。
グローバル・インテリジェンス・ユニット Senior Analyst
二宮美樹 記す
前回のコラム: ブルーベリーはパンデミックに対抗する切り札になるのか?
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