『中国製造2025』と米中貿易摩擦

2018/07/10

『中国製造2025』と米中貿易摩擦

トランプ米政権は6日、中国による知的財産侵害への制裁として340億ドル(約3.8兆円)相当の中国製品に追加関税を発動しました。中国もこれに同規模の対抗措置を取りました。一時緩和の動きがみられた米中貿易摩擦が激化した背景には、貿易不均衡の問題だけでなく、中国が国家戦略として進める『中国製造2025』の存在があります。中国政府が注力する『中国製造2025』とはどのようなものでしょうか。

【ポイント】『中国製造2025』は2015年に策定された産業政策

10分野の重点産業を指定し、製造業の底上げを図る

■中国政府は2015年5月に、製造業の高度化をめざす今後10年の行動計画『中国製造2025』を発表しました。『中国製造2025』とは、次世代情報技術(IT)やロボットなど10分野を重点産業に指定し、金融や財政・税制の仕組みを利用して集中的に支援することで、国を挙げて製造業の底上げを図る産業政策です。

■中国の製造業強化は建国100年に当たる2049年まで3段階で進められる計画です。まず2025年までに世界の製造強国の仲間入りを目指します。『中国製造2025』は、長期戦略の第1段階に位置付けられます。第2段階では、2035年までに米国やドイツ、日本など世界の製造強国水準への引き上げ、第3段階では2049年に世界のトップクラスの製造強国になることを目標にしています。

【ポイント2】供給過剰や労働人口減少が背景

量から質への経済モデル転換

■『中国製造2025』設定の背景には、供給過剰が指摘されている低付加価値の重厚長大産業から高付加価値のIT産業等への産業構造の転換の必要性や、中国では労働力人口が減少するため、高付加価値産業の育成による生産性向上で経済成長を維持する必要性があります。中国政府は、経済モデルを“量の成長”から“質の成長”へと軸足を移しています。

 

180710MK

 

【今後の展開】ハイテクの覇権争いは続くが、米中貿易摩擦は落としどころ模索へ

■『中国製造2025』の下で、中国のハイテク企業は目覚ましい発展をとげています。これに対し、トランプ米政権は、中国のハイテク企業の台頭の理由は不公正競争にあるとし、ハイテク企業に巨額補助金を投じる『中国製造2025』の撤回を要求しました。貿易赤字問題と共にハイテク分野の覇権争いを意識していると考えられます。しかし、中国はこれに応じず、6日の米中の関税引き上げにつながりました。過剰な補助金投入は中国経済にとって歪みを生じるリスクがあるため妥当性には疑問符が付きますが、中国経済の高度化は世界経済にとってもメリットが大きいと考えられ、『中国製造2025』の推進には意義があると思われます。

■トランプ米政権は、今年11月の米中間選挙や2020年の次期大統領選挙を見据えて、景気を悪化させてはかえってマイナスになることを理解していると考えられます。したがって、ハイテク分野を巡る覇権争いは今後も続くものの、米中貿易摩擦は、景気を悪化させない範囲で落としどころを探ることが期待されます。

(2018年 7月10日)

印刷用PDFはこちら↓

『中国製造2025』と米中貿易摩擦

関連マーケットレポート

2018年 7月 6日 注目される中国株式市場のポイント

2018年 6月29日 中国で進む『自動運転技術』の開発

三井住友DSアセットマネジメント株式会社
三井住友DS マーケット・レポート   三井住友DSアセットマネジメント株式会社
世界の経済やマーケットの動向や、マーケットで注目される旬なキーワードを運用のプロがわかりやすく、丁寧に説明します。
■当資料は、情報提供を目的として、三井住友DSアセットマネジメントが作成したものです。特定の投資信託、生命保険、株式、債券等の売買を推奨・勧誘するものではありません。
■当資料に基づいて取られた投資行動の結果については、当社は責任を負いません。
■当資料の内容は作成基準日現在のものであり、将来予告なく変更されることがあります。
■当資料に市場環境等についてのデータ・分析等が含まれる場合、それらは過去の実績及び将来の予想であり、今後の市場環境等を保証するものではありません。
■当資料は当社が信頼性が高いと判断した情報等に基づき作成しておりますが、その正確性・完全性を保証するものではありません。
■当資料にインデックス・統計資料等が記載される場合、それらの知的所有権その他の一切の権利は、その発行者および許諾者に帰属します。
■当資料に掲載されている写真がある場合、写真はイメージであり、本文とは関係ない場合があります。

三井住友DSアセットマネジメント株式会社
金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第399号
加入協会:一般社団法人投資信託協会、一般社団法人日本投資顧問業協会、一般社団法人第二種金融商品取引業協会

このページのトップへ