吉川レポート(2018年4月)トランポノミクスはいよいよ第2ステージへ

吉川レポート(2018年4月)トランポノミクスはいよいよ第2ステージへ

 

【ポイント1】経済成長促進策が先行したトランプ政権

■2018年3月以降、トランプ政権の幹部更迭や、保護貿易的措置が政策の先行き不透明感を強め、金融市場も不安定な動きとなっています。もともと、選挙期間中の主張などから、トランプ政権の経済政策(トランポノミクス)は、ケインズ的景気刺激策(減税・インフラ支出など)・規制緩和など成長促進的な側面と、移民の制限や通商面での保護主義など反グローバリゼーション的要素(アメリカ・ファースト)の組合せであるとみられてきました。就任後約1年間を振り返ると、結果的に成長促進分野で先行して実績を上げたことが明らかです。

■法人税減税を軸とする税制改革(10年間のネット減税額は1兆4,630億ドル、昨年12月22日成立)に続き、3月23日には2018、2019年度の2年間の歳出を合計約3,000億ドル引き上げることを反映した2018年度の歳出法も成立させました。二つを合わせると、2018、2019年の成長率をそれぞれ0.4%程度押し上げる効果があると試算されています。

■規制緩和についても、前政権時に大統領令に基づいて導入された各種の規制の撤廃に動いています。個別事案のマクロ的影響は評価しにくいですが、企業活動の自由度を向上させると言えます。特に全米独立企業連盟(NFIB)の景況感指数の上昇に示されるように、中小企業経営者の心理(アニマルスピリット)の改善につながっていると見られます。

 

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【ポイント2】トランポノミクスはいよいよ第2ステージへ

<重点政策を「アメリカ・ファースト」にシフト>

■ここにきてコーン氏(前国家経済会議(NEC)委員長)やティラーソン氏(前国務長官)などが政権を去った背景には複数の要因があると思われます。しかし、経済政策という角度から見ると、減税などの実施によって、経済に多少のストレスをかけても景気が大崩れしない見通しが立ったことから、トランプ大統領としては重点政策を「アメリカ・ファースト」の公約実行にシフトさせてきた可能性が高いと思います。一つのプロジェクトが完了し、新しいプロジェクトへの取り組みを始めるにあたって、チームを組み替えるのはビジネスマンであるトランプ大統領にとっては自然な動きなのかもしれません。トランポノミクスはいよいよ第2ステージに向かい始めました。

<保護主義政策の狙いとは>

■トランプ政権の保護主義政策は、基本的には、今年11月の中間選挙での支持拡大、更に2020年の大統領選挙においてトランプ氏が再選される可能性を高めることを狙ったものです。但し、中国の経済力の急速な伸長に対する警戒論や批判はトランプ政権に限らず、ワシントンの議会関係者の間で、党派を問わず共有されていることに留意しておく必要があります。

 

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【今後の展開】「管理された貿易摩擦」になる可能性が大きい

 

<中国に対して制裁措置を発動>

■鉄鋼・アルミニウム関税の引き上げ(3月23日発動)は多くの国が当面適用除外となり、選挙対策と北米自由貿易協定(NAFTA)やその他の貿易交渉を有利に進めるための戦術であることは明らかです。

■より重要なのは、3月22日に発表された1974年通商法301条による中国の知的財産権侵害への制裁措置(WTO提訴、500~600億ドル分の中国からの輸入品に対する25%の関税賦課、中国による対米投資への制限)の発動です。中国側も米国からの輸入品30億ドル分に関税をかけることを表明しています。但し、トランプ政権としてもせっかく好循環に入っている景気を壊してしまっては何にもなりません。基本的には威嚇しつつも、実際の措置は段階的に動きながら(staged actions)中国の経済力の伸長をけん制しようとする(あるいは米国により利益をもたらす条件を中国から引き出そうとする)と見られます。

■実際、今回の関税賦課にしても、細目はすぐに発表していません。500~600億ドルという対象品目の規模も小さくはありませんが、米国の輸入全体からすれば2%程度、そこに25%の関税をかけるとしても、米国全体の平均関税率への影響は0.5%程度です。中国側も現段階では米国との対決は望ましくないと考えているのは李克強首相の発言などからみても明らかです。

<「管理された貿易摩擦」になる可能性が大きい>

■お互いの出方を探るステージでは不透明要因が多いため、金融市場も事態が深刻化するリスクに神経質にならざるを得ないと見られます。しかし、最終的には、(1)黒字減らし策と、(2)知的財産やIT関連サービスを巡る貿易ルールをターゲットにした「管理された貿易摩擦」になってくると思われます。

<注目される政治日程・イベント>

■トランプ政権が重点を置き始めた貿易・外交面での動きに注視する状況が続くと思われます。米通商代表部(USTR)は4月3日関税対象の候補となる中国からの輸入品(約1,300品目、500億ドル相当)のリストを公表しました。当初の発表文書では30日以内に意見聴取・公聴会などの手続きを行うことになっていましたが、ライトハイザー通商代表は3月28日に手続きの期間として60日を設けると表明しました。6月初旬にかけて第一弾の対中関税に関する大枠が設定されるスケジュールの下で米中の交渉が行われることになります。品目リスト、中国の反応、米中間の交渉の経緯などによって、経済・金融市場へのインパクトが変わることになるでしょう。鉄鋼・アルミニウムの関税についても、カナダやメキシコなどに対する適用除外は5月1日までであり、NAFTA交渉などの結果によっては、改めて注目されるかもしれません。

■米朝首脳会談に向けた動き(3月8日のトランプ大統領による首脳会談開催要請の受諾、3月25日~28日の金正恩朝鮮労働党委員長の訪中)は、各国の制裁に効果があったことを示唆している点で前向きな展開でした。4月には南北首脳会談の開催予定も緊張緩和に一定の効果が期待できそうです。しかし、安全保障担当の次期補佐官に強硬派のボルトン元国連大使が指名される中、5月の米朝首脳会談開催に向けた交渉の成否は関係改善・悪化両サイドのリスクと言えそうです。

■また、対イラン経済制裁の解除措置延長についての議会報告期限(120日ごと、今回は5月中旬)や、米大使館のエルサレム移転に伴うトランプ大統領のイスラエル訪問(5月中の予定)など米中東政策の変化を受けた中東の政治情勢・原油価格にも留意が必要です。

 

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(2018年 4月 4日)

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