利上げ局面での債券投資

2021/12/03

利上げ局面での債券投資


1.2022年は2004年以降3度目の利上げ局面入り
2.利上げ局面でもプラスのパフォーマンス
3.異なる値動きをする債券を組み合わせることで分散効果を狙う

 
■米国では量的緩和の縮小(テーパリング)が開始されました。さらに2022年の7-9月には2018年12月以来の利上げが実施されると予想されます。2022年は総じて長期金利が上昇する局面となりそうです。今回は米国の2004年以降の利上げやテーパリング、バランスシートの縮小が進んだ局面を分析し、今後の債券投資について整理したいと思います。

1.2022年は2004年以降3度目の利上げ局面入り

■パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長は11月30日の上院での議会証言で、来年6月と想定されていたテーパリングの終了時期を数カ月前倒しにすることを検討すると表明しました。12月14~15日の米連邦公開市場委員会(FOMC)でテーパリングの加速が議論される見通しです。弊社ではテーパリングは来年3月頃に終了すると見ていますが、保有国債等の満期償還分を再投資し、バランスシートを縮小しないよう配慮すると見られます。

■2022年の7-9月には約3年半ぶりの利上げが実施される見通しで、2004年以降3度目の利上げ局面に入ると予想されます。2022年は米国を中心にテーパリングや利上げが進み、長期金利は総じて上昇する局面となりそうです。弊社では、2022年の米国長期金利の上限を2.1%と予想しています。

 

 

2.利上げ局面でもプラスのパフォーマンス

■ここでは米国の金融引き締め局面である2004年以降の利上げ(2004年、2015年)、テーパリング(2014年)、バランスシート縮小(2018年)の各局面と、足元の金利上昇局面のパフォーマンス(トータル・リターン)を整理しました。

■2004年以降の2回の利上げ局面で、長期金利は1.5~2%程度上昇しました。また、バランスシートの縮小を進めた2018年も長期金利は約1%上昇しました。一方、テーパリングが実施された2014年は長期金利は低下していました。

■次に主要な債券のパフォーマンスを整理しました。米国国債(7-10年)は2004年の利上げ局面で+6.4%、2015年の利上げ局面でも+3.9%のリターンとなりました。決め手は利息(インカム)からの収益がしっかりと積み上がっていた点です。2015年の利上げ局面で見ると、債券価格は▲0.1%ですが、インカムが+4.0%でした。2018年のバランスシート縮小局面もインカムが支えとなり、トータル・リターンはプラスとなりました。

■こうした過去の金融引き締め局面では、2018年のバランスシート縮小局面を除き国債を上回るパフォーマンスを生み出した債券は、米国ハイ・イールド(HY)社債、米国投資適格社債など、クレジットリスクのある債券です。米国以外でも、新興国国債や新興国社債、欧州のHY社債などクレジットリスクのある債券が高いパフォーマンスとなりました。いずれも世界景気の好調が続く中、クレジットリスクに対する懸念が低下したことから、相対的に高いクーポンが債券価格の下落をカバーした格好です。

■ただ、HY社債や新興国債券といったクレジットリスクの高い債券は2018年のバランスシート縮小局面ではマイナスのパフォーマンスに転じていた点には注意が必要です。債券価格の下落を埋めるバッファーとしての高いクーポンがないと、リターンはマイナスとなってしまうこともあり、注意が必要です。

■また、足元の金利上昇局面では、期待インフレ率の上昇や原油先物価格の上昇などを背景に、米国物価連動国債(TIPS)、米国HY社債が価格の上昇を伴いつつ堅調に推移しています。

3.異なる値動きをする債券を組み合わせることで分散効果を狙う

■今回整理したように、債券投資は利上げ局面でも概ねプラスのリターンを生み出していました。これは、政策金利の上昇に比べて長期金利の上昇が比較的限られていたため、金利上昇による価格の下落が低く抑えられ、インカム収入がそれを補うことで全体の収益を支えることができたためです。また、リスクの高い債券の中には、利上げ局面でプラスのリターンとなる傾向を生み出す債券があることが読み取れました。経済成長が期待でき、比較的物価の上昇が抑えられる環境の下であれば、債券が債務不履行(デフォルト)になるリスクも一般的に低水準になると考えられ、投資妙味が高まるためと考えられます。

■しかし、こうした傾向は、利率の高い債券が多く残存し、市場で売買される局面での傾向です。現在は、過去と比べて長期金利やクーポンの水準は非常に低い局面であり、インカム収入に多くを期待することは難しいと思われます。したがって、過去と同様に国債を中心としたポートフォリオでトータル・リターンでプラスを維持することは難しく、一定の範囲内である程度のリスクをとる必要がある状況です。

■こうした中、今回過去の政策変更の局面整理で確認したように、すべての種類の債券が同じ動きをするとは限りません。国債とは異なる動きをする債券に分散して投資するのも選択肢の一つと言えます。足元では、TIPSやHY社債が堅調となるなど、国債とは異なる動きを見せています。過去10年間の米国国債のトータル・リターンに対する相関を調べると、アジア・パシフィック(除く日本)の債券は米国国債との相関が低く、また、新興国の国債や社債、米欧のHY社債等は、米国国債とは異なる動きになると言え、米国国債との間でリスクの分散効果が期待できます。例えば、米国国債に米国HY社債を組み合わせることで、リスクを抑えつつ、期待されるリターンを引き上げる可能性が生まれます。

■今後、米国の政策金利の引き上げが進む中で、先進国、新興国ともに、政策金利の引き上げと長期金利の上昇が予想されます。こうした利上げ局面で、市場の変動が大きくなると想定される環境においては、債券ポートフォリオの中でそれぞれの債券の特性を活かした分散投資が有効と考えられます。

(2021年12月3日)

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