回復進むアジア・オセアニアリート市場と見通し

回復進むアジア・オセアニアリート市場と見通し

1.新型コロナ感染再拡大をにらみながら回復進むリート市場
2.ニューノーマルを織り込みセクター間の乖離広がる
3.割安感は後退~各国の感染対策の成果により異なる展開に

1.新型コロナ感染再拡大をにらみながら回復進むリート市場

■アジア・オセアニアリート市場の代表的な指数であるアジア・パシフィック(除く日本)リート指数は、3月下旬、新型コロナ感染拡大を嫌気して大幅に下落した後、概ね反発しています。9月14日現在の最安値からの上昇率は+37.2%です。主要市場の上昇率は、シンガポールが同+43.0%、香港が同+13.5%、オーストラリアが同+49.9%でした。

■オーストラリアリートは、3月の大幅下落後、総じて上昇基調で推移しています。オーストラリアでは、外国人の入国規制や都市封鎖(ロックダウン)によって新型コロナ感染拡大が抑制されたことや、給与補助金や住宅パッケージなどの経済対策、RBA(豪州準備銀行)による金融緩和策の発動などが好感されました。6月以降、ビクトリア州で感染再拡大からロックダウンが再開されたため、経済活動の停滞や商業施設の業績悪化が懸念されましたが、8月には感染者数が減少傾向となったことや、6月期決算を通過し、行き過ぎた業績懸念が後退したことなどから、リート市場は堅調に推移しました。

■シンガポールリートは、順調に回復しています。政府が新型コロナの発生当初から厳格な感染抑制策を実施しており、コロナ抑制策が機能していることが相対的な同国の評価を高め、投資家に安心感を与えたことが一因です。

■香港リートは、新型コロナの影響に加え、6月には中国の国家安全法が導入されたことが嫌気され大幅に下落しました。7月に入り新型コロナの感染再拡大がみられたことから、政府が外出規制を再度厳格化させたことも投資家心理を冷え込ませました。

2.ニューノーマルを織り込み、セクター間の乖離広がる

■このように、アジア・オセアニアリートは全体としては回復しつつありますが、ロックダウンからその後の経済活動再開の過程では、セクター間で大幅な乖離が生じました。新型コロナ感染拡大によって人々の生活習慣は変化し、旅行や外食などの外出を伴う需要は大幅に減少した一方、テレワークの普及やEコマースの拡大などの影響が顕著にみられました。

■テレワークの普及やEコマースの拡大は、新型コロナ感染拡大が終息したあとも、一定程度「ニューノーマル」として続いていくとみられています。安定したインターネット環境やデータストレージ及びモバイルなどに対する需要の強まりは、「働き方と働く環境の変化」として浸透していくことになりそうです。リート市場でもこの動きを織り込み、データセンターや物流施設などが注目を集め、オンライン・ショッピングなどが含まれる「産業用施設」、データセンターや携帯電話の基地局などが含まれている「特殊用途」といったセクターが大幅に上昇しました。

■一方、「ホテル」、「小売り」、「オフィス」などは、経済停滞の影響を強く受けるため、年初来安値からの足元までの上昇率は低水準にとどまっています。

✓感染抑制により、改善し始めた経済

■ただし足元では、感染者数の減少傾向を確認しながら移動規制等を解除する国もあり、国内旅行や外食、ショッピングなども徐々に回復することが期待されます。

■オーストラリアやシンガポールの小売売上高は前月比で改善を始めています。オーストラリアは5月から、シンガポールは6月から前月比がプラスとなり、前年比のマイナス幅は縮小に転じています。

■世界的にみて景気の回復著しい中国では、8月には小売売上高が前年比プラスに転じ、生産や投資といった企業活動と対比してやや出遅れていた消費に明るい兆しがみられ始めました。中国の景気回復が東南アジアやオーストラリアの景気持ち直しを後押しすると思われます。

3. 割安感は後退~各国の感染対策の成果により異なる展開に

✓相場回復により割安感は後退

■相場の回復により、株価純資産倍率(PBR)も上昇に転じています。8月末で1.01倍と、リーマン危機後の下落局面も含めて計算した平均値(1.09倍)に近づいてきています。

■また、リートの配当利回りと国債利回りの差も縮小しました。8月末では、オーストラリアリートは3.0%(3月末:7.1%)、シンガポールリートは3.5%(同5.4%)となりました。これらの指標からみると、アジア・オセアニアのリート市場は回復が進み、3月のコロナ禍による下落後の割安感は相応に後退していると言えます。

✓感染抑制の差が今後の展開の違いに

■アジア・オセアニアのリート市場は、上記の他にも米欧中の景気動向と金融政策、米中対立などの外部環境に影響を受けながら、中期的には域内の相対的に堅調なファンダメンタルズを背景に業績に見合ったリート価格が形成されていくことが見込まれます。

■ただし、新型コロナ感染拡大については、国によって感染対策の成果に差が出ています。商業施設やホテルなどの戻りの強弱は、感染対策の機能している国とそうでない国とで違いが出ることが予想されます。

■シンガポールは、景気回復への見通し改善などから底堅い推移を想定します。感染抑制による経済活動の安定化に伴い、商業施設やホテルも他国に比べいち早く回復することが期待されます。

■香港については、政治体制変更の影響が不透明なことから上値の重い展開を予想します。

■オーストラリアは、決算を織り込み一旦材料出尽くしとみられますが、成長期待の高い銘柄への評価は持続すると見込まれます。旺盛なEコマース需要を背景に、効率的な大型物流施設の開発ニーズは続くとみられます。

(2020年9月18日)

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