米国株式市場は2番底を付けに行くのか

米国株式市場は2番底を付けに行くのか

1.米国株式市場は総じて堅調に推移しているが2番底を付けに行くのか
2.主要国・地域のファンダメンタルズ、金融政策面の整理
3.今後の見通し~明確な2番底をつけに行くリスクは比較的限定的

1.米国株式市場は総じて堅調に推移しているが2番底を付けに行くのか

■米国株式市場は、6月11日にNYダウで1,861.82米ドル安の2万5,128.17米ドルと今年3月16日以降の大幅下落となりました。下落幅は史上4番目の大きさです。今回の下落は、これまでの株価上昇で過熱感が出ていたところに、10日に政策決定会合で米連邦準備制度理事会(FRB)が経済の先行きに慎重な姿勢を示したことや米国で新型コロナウイルス感染の再拡大の兆しが表れていることなどが嫌気されたことが背景です。

■翌12日に株価は落ち着きを取り戻し、2日連続の大幅安とはなりませんでした。ただ、米国における新型コロナウイルスの感染再拡大に対する懸念と米国での感染第2波に関する報道は一時的ではあれ、投資家のセンチメントにマイナスの影響を与える可能性があります。株価は景気回復や業績改善に対する期待を織り込んで上昇してきましたが、まだワクチンなど有効な治療方法が確立していないため、感染拡大への懸念が大きな不安心理として、依然横たわっていることを表していると思われます。

■今回のマーケットの視点では、こうした不安を抱きつつも、経済・業績の再生に対する期待を背景とした米国株式市場の回復がこのまま順調に進むのか、それとも再度下落基調となり、2番底を付けに行くのかを、新型コロナに関連したファンダメンタルズ、金融環境などから考えてみようと思います。

2.主要国・地域のファンダメンタルズ、金融政策面の整理

<主要国・地域のファンダメンタルズの確認>

(1)ウイルス感染状況の確認

■主要国・地域は、金融財政政策と共に積極的に感染抑制策を発動してきました。その抑制策は成果をあげ、中国や先進国などで都市封鎖(ロックダウン)が段階的に解除され、中国の鉱工業生産や、米国の5月雇用統計など、実際に経済が改善を始めたことを示す指標が出ています。但し、足元では、米国で経済活動の再開を行った人口の多いテキサス州、カリフォルニア州などで感染が再拡大しています。また、韓国や中国、日本でもやや感染者が拡大する傾向にあります。

■新型コロナウイルスを抑制するにはワクチンが欠かせませんが、現時点ではまだ開発中です。欧米中で競うように開発されていますが、臨床試験には時間がかかるため、使い始めることが出来るのは早くて来年に入ってからと見られます。このため、感染の拡大によっては再度行動規制が引き締められるリスクは残っていると考えられます。

(2)業績の確認

■マクロ経済の大幅悪化が見込まれる中で、20年の業績見通しも大幅に悪化する見通しです。20年のS&P500種採用銘柄企業の1株当たり予想利益は前年比▲23.3%と予想されます(リフィニティブ、6月10日現在)。この減益を反映した12カ月予想ベースの株価収益率(PER)は株価急落前の6月10日は22.4倍でした。過去平均などと比較すると、22倍台のPERは割高感があります。

■ただ、予想収益は約2カ月間で20%下がっているので、これが元の水準に戻れば、株価が現在と横ばいならPERは18倍となります。この水準であれば、極端な割高感は解消されます。

■更に、Bloomberg L.P.の集計では、22年の予想利益は187.81ポイントで、20年の同125.21ポイントから年率で+22.5%と大幅な成長が見込まれています。

<金融政策の確認>

■金融政策の面では、政策金利を下げるだけでなく、量的緩和を積極化している点が重要です。

■米株が堅調に推移している背景として、大幅な流動性の増加を指摘できます。米国のベースマネーに、海外当局が保有するカストディ勘定の米国債・米政府機関債を足し合わせた「米ドル流動性」は3月から急拡大しています。合わせて、長期金利も大きく低下しており、インフレ期待を差し引いた実質金利はマイナスとなっています。これらは米国の金融環境が大きく緩和的になっていることを示しています。

■FRBは6月10日、米連邦公開市場委員会(FOMC)で、ゼロ金利政策を22年末まで続ける見通しを明らかにしました。3月に再開した量的緩和策も維持しました。中央銀行の社債購入は、社債金利と国債金利のスプレッドを圧縮する効果があり、これも株式などのリスク性資産市場を支える効果が期待できます。

3.今後の見通し~明確な2番底をつけに行くリスクは比較的限定的

■ファンダメンタルズ面でのリスクは、(1)コロナウイルスの感染再拡大と、それに伴って業績が再度下方修正されることと考えられます。また、(2)高いバリュエーションが正当化できるか、更にコロナ以外では、(3)米大統領選挙も大きなリスクとして考える必要があります。今後も米国株式市場は、コロナウイルスの感染再拡大懸念等によって期待と実態とのはざまで変動性が高止まりするリスクはあります。ただ、調整が大規模となり、3月の安値を割り込んだり、明確な2番底をつけに行くリスクは比較的限定的と考えられます。

<今後の感染再拡大と業績の再度の下方修正について>

■ワクチン開発前のため、コロナウイルス感染の大規模な再拡大の可能性はありますが、米国も感染状況を日々チェックし、パンデミックの再発につながらない措置をとると見られます。検査体制や病院の治療体制も充実化されています。小規模な感染拡大の発生リスクは常にありますが、パンデミックや再度のロックダウンという状況になる可能性は低いと考えられます。経済活動の再開は感染再拡大の状況を確認しつつ、緩やかに進むでしょう。このため、改善ペースが遅くなるリスクはありますが、業績が改善する方向性については十分な可能性があると考えられます。

<高いバリュエーションは正当化されるか>

■高いバリュエーションの水準が正当化されるには3つの条件があります。まず、政策のサポートが十二分にあり、金融市場に対する安心感が高いことです。次に、中央銀行の積極的な金融緩和によって、市場に流動性が過剰に供給され、それが期待リターンの高い資産に流入すること(流動性相場)です。最後に、投資家のポジションが慎重なスタンスを反映して株式のポジションが低いこと、です。こられを確認すると、政策によるサポートと流動性は十分あると考えられます。投資家ポジションはまだ機関投資家は比較的慎重なスタンスで臨んでいると見られています。

<米大統領選挙のリスクは>

■コロナウイルス問題の対処のまずさ、足元の人種差別問題などを背景に、トランプ大統領の支持率が低下しています。但し、バイデン前副大統領も圧倒的な人気を集めている訳ではなく、混戦と言っていい状況です。民主党・共和党の党大会が8月に予定されていて、大統領選挙が市場の懸念材料となっていくのはその頃からと見られます。

(2020年 6月16日)

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