運用者の視点:『買い占め騒動』と株式市場

運用者の視点:『買い占め騒動』と株式市場

「マーケット・キーワード」では、弊社のアジア株式運用者が運用業務を通して気付いたり、感じたことを“運用者の視点”として定期的にお届けしています。急速かつダイナミックに変革が進む、中国・アジア地域の経済やマーケットの“今”を、独自の視点でお伝えできれば幸いです。今回のテーマは、新型コロナウイルスの感染リスクが拡大する中、デマが引き起こした『買い占め騒動』と株式市場についてです。

【ポイント1】繰り返される歴史、『買い占め騒動』

■日本でも新型コロナウイルスの感染が広がり始めてからというものマスク不足が続き、2月末からは中国の生産や物流の停滞により供給が滞るというデマ情報の拡散により、トイレットペーパーやティッシュペーパーが品薄になっています。北海道の緊急事態宣言発表や、安倍首相の全国の小中学校・高校などの一斉休校要請など、新型コロナウイルスへの感染が現実的な脅威となりつつある中で、生活防衛に走る気持ちはよくわかります。近年では2011年の東日本大震災後に首都圏でトイレットペーパーの入手が一時的に困難になりました。そこから先となると1973年のオイルショックまで遡ります。第四次中東戦争の勃発で原油価格が急上昇したことを背景に、政府が「紙節約の呼びかけ」を行ったことを1つの契機に「紙がなくなる」との噂が流れ始め、『買い占め騒動』に発展しました。今回もデマ情報がきっかけとなって一部の消費者が買い占めに走り、それが連鎖的に拡大しています。

【ポイント2】株式市場へ参加する投資家との共通点

■消費者がトイレットペーパーに殺到する心理は、株式市場に参加する投資家がパニック時に正確な情報の入手や判断が出来ず、慌てて安値で売ってしまう心理に似ています。その際は、行動の背景となる情報が本当に正しいかどうかの確認、また、仮に正しいとして、それがもたらす影響がどの程度なのかの分析が後回しにされがちです。即座に行動を起こし、後になって間違いが分かればすぐに修正すれば良い話なのですが、今回のトイレットペーパー騒動は、イベント発生時に投資家としてどう振舞うべきか、改めて考えを巡らせてみる良い機会となりました。

【今後の展開】株価変動が続くなか、有望株発掘の機会と捉えるか

■オイルショック当時のトイレットペーパー騒動は収束まで数カ月かかったと言われています。一方、東日本大震災後はそれよりもはるかに短く、2週間程度で1人当たりのトイレットペーパー購入額は平時に戻ったとされます。今回は東日本大震災後に近い形で収束することになるのでしょう。トイレットペーパーに限らず、何事も本来あるべき需給の水準から需要が突発的に大きく乖離しても、長続きはしません。株式投資でも同様です。予想もしていなかった突発的なイベント等で株価が大きく動いても、中長期では個々のファンダメンタルズ(基礎的条件)に必ず収束します。新型コロナウイルスで投資家が浮足立ち、株価が大きく振れている銘柄が散見されますが、優良株を割安な水準で拾うチャンスであるかもしれません。

(2020年3月16日)

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