英国のEU離脱問題~混乱する現状を整理する

市川レポート(No.605)英国のEU離脱問題~混乱する現状を整理する

  • メイ首相は、アイルランド国境問題でEUと打開策を探るも、再国民投票などは受け入れない立場。
  • 強硬離脱派とDUPは国境問題の安全策の削除・修正を求めており、現行の離脱協定案に反対。
  • EUは離脱協定案に再交渉の余地なしとの見解で先行き不透明、目先はメイ首相の進退が焦点。

メイ首相は、アイルランド国境問題でEUと打開策を探るも、再国民投票などは受け入れない立場

英国のメイ首相は12月10日、欧州連合(EU)からの離脱案について、11日に予定されていた議会下院での採決を見送ると表明しました。混乱が続く英国のEU離脱問題ですが、足元の状況を整理するために、主要当事者の主張を確認します。ここでの主要当事者は、①与党保守党の党首であるメイ首相、②保守党内の強硬離脱派、③保守党に閣外協力する英領北アイルランドの地域政党、民主統一党(DUP)、④EU、⑤野党労働党、です。

それぞれの主張は次の通りです。①のメイ首相は、離脱条件などを定める離脱協定案と、将来関係の大枠を示す政治宣言案を議会で採決したい立場です。しかしながら、北アイルランドとEU加盟のアイルランドとの国境問題について、強硬離脱派とDUPから強い反発を受けており、改めてEUと打開策を検討する方向で動いています。なお、メイ首相は、再国民投票、プランB(図表1)、合意なし離脱は受け入れないとしています。

強硬離脱派とDUPは国境問題の安全策の削除・修正を求めており、現行の離脱協定案に反対

②の強硬離脱派と③のDUPは、離脱協定案に盛り込まれているアイルランド国境問題の「安全策(バックストップ)」を削除・修正するよう求めています。英国とEUは、国境に検問などを設置しないことで一致しています。協定案は、国境管理の具体策を2019年3月末から2020年末までの移行期間に検討するとしていますが、解決できない場合に備え、バックストップを盛り込んでいます。

バックストップは、移行期間を最大2年延長するか、あるいは、英国全土をEU同盟に残すか、北アイルランドのみ食品などの規制でEUルールを適用するか、英国とEUで決めるとしています。②の強硬離脱派は、英国全土がEU同盟に残れば永久にEUルールに縛られる恐れがあるとし、③のDUPは、北アイルランドのみEUルール適用なら英国本土と分断されるとしています。

EUは離脱協定案に再交渉の余地なしとの見解で先行き不透明、目先はメイ首相の進退が焦点

メイ首相は打開策として、バックストップは永続しないとの保証をEUから取り付け、強硬離脱派とDUPに再考を促すことを考えています。しかしながら、④のEUはバックストップが盛り込まれた法的拘束力のある離脱協定案について、再交渉の余地はないとしています。EUは法的拘束力のない政治宣言案の修正には応じる見通しですが、離脱協定案の変更を求めるDUPがそれで納得する公算は小さいと考えます。

⑤の労働党は、EU離脱は認めるものの、単一市場と関税同盟を志向しています。また、内閣不信任投票を優先し、それに失敗すれば再国民投票を求める立場です。なお、日本時間12月12日の朝方、保守党内で党首の不信任投票実施に必要な保守党議員48人の書簡が集まったとの報道がありました。英国のEU離脱は、どのような形にも展開し得る状況になっていますが(図表2)、まずはメイ首相の進退が目先の焦点になると思われます。

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(2018年12月12日)

 

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