不透明感が強まる英国のEU離脱問題

市川レポート(No.595)不透明感が強まる英国のEU離脱問題

  • EU離脱協定案が閣議承認された翌日、ラーブEU離脱担当相など政権幹部4人が相次ぎ辞任。
  • 目先は求心力低下のメイ首相の不信任投票有無に注目、ただ不信任決議は容易ではなかろう。
  • 12月に現行の協定案が議会承認されるとみるが、不確実性が高まっており慎重な見極めが必要。

EU離脱協定案が閣議承認された翌日、ラーブEU離脱担当相など政権幹部4人が相次ぎ辞任

英国政府は11月14日に開催した臨時閣議で、欧州連合(EU)からの離脱に関する協定案を了承しました。閣議では約30人のうち10人ほどが協定案に反対した模様で、全会一致ではありませんでしたが、離脱交渉は1つの山を越えたように思われました。しかしながら、閣議翌日の11月15日、ラーブEU離脱担当相やマクベイ雇用・年金相など政権幹部4人が協定案に抗議し、辞任を表明しました。

ラーブ氏は、協定案に盛り込まれたアイルランド国境問題への対応方針に反対していました。協定案では、英領北アイルランドとEU加盟のアイルランドとの国境管理について、2020年末までに解決策が見つからない場合、英国全土をEUとの関税同盟に残す案が採用されています。そのため、英国がEUルールに縛られたまま主権を取り戻すことができなくなるとして、保守党の強硬離脱派からも批判の声が出ています。

目先は求心力低下のメイ首相の不信任投票有無に注目、ただ不信任決議は容易ではなかろう

相次ぐ閣僚の辞任や、保守党の強硬離脱派からの強い反発に、保守党の党首であるメイ首相の求心力低下は避けられない見通しです。すでに保守党内では、メイ首相に対し、不信任投票を求める動きが広がっています。保守党には、議員委員会、通称「1922年委員会」に、下院議員(図表1)の15%(現状では315人のうち48人)の書簡が集まると、党首に不信任を突きつけることができる規定があります。

保守党の強硬離脱派の筆頭格であるリースモグ議員は11月15日、メイ首相の不信任を求める書簡を党に提出し、同僚議員に不信任を呼びかけ始めました。現時点では、まだ48人の書簡は集まっていませんが、メイ首相の不信任投票が実施されるか否かは当面の焦点です。ただ、実際の不信任には、保守党の下院議員315人の過半数の賛成が必要です。強硬離脱派は40~50人程度とみられるため、不信任決議は容易ではないと思われます。

12月に現行の協定案が議会承認されるとみるが、不確実性が高まっており慎重な見極めが必要

こうしたなか、EUのトゥスク大統領は11月15日、臨時EU首脳会議を11月25日に開催し、協定案に関し、政治レベルで正式合意する方針を示しました(図表2)。一方、メイ首相は不信任投票を乗り切ったとしても、EUとの協議を踏まえ、12月に協定案を議会承認する必要があります。仮に、議会で協定案が否決され、離脱交渉が振り出しに戻るとの懸念が強まれば、金融市場が混乱する恐れもあります。

弊社では、12月に予定されている協定案の議会承認について、合意なきEU離脱は政治的にまず容認されず、また他に有力な代替案もないことから、現行の協定案が承認されると予想しています。しかしながら、メイ首相の求心力が低下するなか、議会承認の不確実性は以前よりも高まっています。そのため、英国の政治情勢は、少なくとも12月までは慎重に見極める必要があると考えています。

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(2018年11月19日)

 

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