イタリア財政問題の要点整理

2018/10/03

市川レポート(No.570)イタリア財政問題の要点整理

  • イタリアの経済財政計画で財政赤字はGDP比2.4%、黒字化目標後退で市場の懸念が強まる。
  • EUが過剰財政赤字是正措置を発動した場合、イタリアは罰金が課されESIFの支援は一時凍結。
  • ただ最終的にはイタリアとEUの歩み寄りを予想、財政問題が金融市場を動揺させる恐れは小さい。

イタリアの経済財政計画で財政赤字はGDP比2.4%、黒字化目標後退で市場の懸念が強まる

足元では、イタリアの財政問題への懸念から、同国10年国債利回りの上昇(価格は低下)や、対主要通貨でのユーロの減価が顕著にみられます。背景には、イタリア政府が9月27日に閣議決定した、2019年から2021年までの3年間の経済財政計画があります。毎年の財政赤字はGDP比で2.4%と、欧州連合(EU)の財政ルール(3%未満)内に収まりましたが、前民主党政権が掲げた2021年までの財政黒字化目標からは大きく後退しました。

イタリアの新政権は、ポピュリズム(大衆迎合主義)色の濃い、「五つ星運動」と「同盟」による連立政権です。彼らの選挙公約には、付加価値税(VAT)の税率引き上げ見送りや、最低所得保障制度の導入などが含まれています(図表1)。そのため、今回の経済財政計画における財政赤字の拡大は、公約実現に向けた新政権の強い意思表明と捉えることができます。

EUが過剰財政赤字是正措置を発動した場合、イタリアは罰金が課されESIFの支援は一時凍結

今後イタリアは、10月15日までに経済財政計画に沿った2019年度予算案を欧州委員会(EC)に提出し、ECは11月30日までに予算案に対する意見を表明することになります。ただし、ECは、イタリアの予算案に修正が必要と判断した場合、予算案を受け取ってから1週間以内(例えば10月15日の提出なら10月22日まで)に、イタリアに対し修正を求めることができます。

仮に、イタリアが予算案の修正に応じず、EUが財政不均衡の恐れが大きいと判断した場合、「過剰財政赤字是正措置(EDP)」が発動されることになります。その場合、イタリアにはGDP比で0.2%相当の罰金が課され、また、欧州構造投資基金(ESIF)からの支援が一時的に凍結されます。イタリアは2014年から2020年までの期間、ESIFから427.7億ユーロの支援を受けることになっており、凍結の影響は極めて大きいといえます。

ただ最終的にはイタリアとEUの歩み寄りを予想、財政問題が金融市場を動揺させる恐れは小さい

市場はこの先、イタリアとEUの財政交渉を見守ることになりますが、明確な着地点が見えてくるまで、イタリアの10年国債利回りには、しばらく上昇圧力が残ると思われます。また、米格付け会社のムーディーズ・インベスターズ・サービスは、イタリアの債務格付けの見通しを、すでに「ネガティブ(弱含み)」としており、今月にも格下げを発表するのではないかとの見方が強まっています。

なお、ユーロドルの動きに目を向けると、8月のトルコショックでつけた水準よりもユーロ高で推移しており(図表2)、為替市場は今のところ冷静さを保っているように思われます。弊社は、イタリアの財政問題について、最終的にはイタリアとEUが互いに歩み寄り、イタリアは財政拡張の規模を縮小し、EUは移民問題への対応を加速させるなどの方向で妥協すると予想しています。そのため、この問題が悪化し、世界の金融市場を動揺させる展開となる恐れは小さいとみています。

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(2018年10月3日)

 

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