ETFステルス・テーパリングの議論について
市川レポート(No.557)ETFステルス・テーパリングの議論について
- 8月のETF買い入れが少額にとどまったため、市場ではETFステルス・テーパリングの議論が活発化。
- テーパリング開始との判断は早計だが、新方針が示された以上、まだ開始されずという判断も困難。
- 日銀は株式市場が堅調地合いにある間は減額を意識するオペレーションを念頭に置いた可能性。
8月のETF買い入れが少額にとどまったため、市場ではETFステルス・テーパリングの議論が活発化
日銀は7月30日、31日の金融政策決定会合で、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の持続性を強化する措置を決定しました。この時、ETFおよびJ-REITの買い入れ額に関し、「上下に変動しうる」という新たな方針を示しました。決定会合後、8月の買い入れ額は約1,682億円となり、ETF保有残高の増加ペースが年間約6兆円となった2016年8月以降、2番目に少ない月間の買い入れ額となりました(図表1)。
8月の実績が相対的に少額にとどまったことで、市場には、日銀がETFの買い入れについて、「隠れた段階的縮小(ステルス・テーパリング)」を開始したのではないかとの観測が広がりました。ただ、ステルス・テーパリングの開始をみる向きがある一方、まだ開始されていないとみる向きもあり、議論は分かれています。そこで、今回のレポートでは、少し論点を整理してみます。
テーパリング開始との判断は早計だが、新方針が示された以上、まだ開始されずという判断も困難
まず、ステルス・テーパリングはすでに開始されたという見方について、確かに8月の買い入れ総額は少額にとどまりましたが、決定会合後、わずか1カ月の実績に過ぎず、これだけで判断するのはやや早計です。また、買い入れ額は上下に変動しうるとしている以上、株式のリスクプレミアムが拡大する局面が続けば、ETFの買い入れ額が数カ月にわたって膨れ上がることも十分考えられます。
一方で、ステルス・テーパリングはまだ開始されていないと断言するのも、また難しいように思われます。7月の会合で新たに示された、ETFおよびJ-REITの買い入れ額は上下に変動しうるという方針は、8月以降の買い入れオペレーションに何らかの変化を加えるという日銀のメッセージと解釈するのが自然です。単に従来のオペレーションを継続するのであれば、わざわざ新方針を示す必要はありません。
日銀は株式市場が堅調地合いにある間は減額を意識するオペレーションを念頭に置いた可能性
以上より、ETFのステルス・テーパリングについては、現時点ですでに開始されたとも、まだ開始されていないとも言い切れないように思われます。しかしながら、少なくとも日銀は8月以降、株式市場が堅調地合いにある間は減額を意識しつつ、株価急落時には即座に買い入れるというオペレーションを念頭に置くようになったのではないかと考えています。
参考までに、9月に入ってからのETF買い入れは、東証株価指数(TOPIX)の前場の終値が、前日の終値から0.5%以上下落した日に実施されています(図表2)。年初から7月までは、少なくとも下落率が0.3%を超えれば買い入れが行われていました。最後に、次の点を確認しておきます。7月の会合で決定された措置により、フォワードガイダンスを活用して、資産買い入れ額を段階的に縮小できる環境は一応整いました。そのため、日銀は出口戦略を進めようと思えば、それがステルス形式でも、可能な状況にあります。
(2018年9月12日)
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