トルコショックでもドル円が比較的落ち着いている理由

 市川レポート(No.546)トルコショックでもドル円が比較的落ち着いている理由

  • トルコリラ急落で、新興国通貨や、世界の株式市場に影響が広がるも、ドル円は小動きにとどまる。
  • そもそもリスクオフで円買いが発生するのは、円は流動性が高く対外純債権国の通貨だからである。
  • 今回のトルコショックは強い円買いを促すほどの材料ではないとの見方が円高を小幅にとどめた要因。

トルコリラ急落で、新興国通貨や、世界の株式市場に影響が広がるも、ドル円は小動きにとどまる

8月10日から13日にかけて、トルコリラが対米ドルで急落したことを受け、新興国通貨や世界の株式市場に影響が広がりました。主要新興国通貨について、8月9日を基準に、8月13日までの対米ドル下落率をみると、トルコリラが20%近く下落したのを筆頭に、アルゼンチンペソ、南アフリカランド、メキシコペソ、ブラジルレアルが続いており、中南米通貨の下げが目立ちます(図表1)。

また、主要株価指数について、同期間で下落率の大きいものをみると、やはりトルコのイスタンブール100種指数を筆頭に、ロシアのRTS指数、インドネシアのジャカルタ総合指数が続き、日経平均株価の下げも比較的大きかったことが分かります。一方、ドル円については、8月9日と13日のニューヨーク市場終値を比較すると、38銭程度の小幅なドル安・円高の進行にとどまっています(図表2)。

そもそもリスクオフで円買いが発生するのは、円は流動性が高く対外純債権国の通貨だからである

今回は、市場がリスクオフ(回避)に傾いたにもかかわらず、有事の円買いはあまり見られませんでした。そもそも、なぜリスクオフ(回避)で円買いが発生するのか、ここで改めて考えてみます。これについては、2つの理由が挙げられます。1つは、「流動性の高さ」です。円は、取引量が十分大きく、不安定な市場の状況でも、比較的容易に売買ができるため、一時避難的に買われやすいという特徴があります。

もう1つは、「対外純債権国」の通貨という点です。日本は2017年末の対外純資産残高が328兆円と世界一です。日本の投資家がリスクを回避すべく、世界中に投資した資金を日本に戻せば、円高要因となります。また、実際に資金の戻りが発生しなくても、その思惑だけで円が買われることがあります。以上を踏まえ、いわゆる「トルコショック」で、あまり円高が進まなかった背景を検証します。

今回のトルコショックは強い円買いを促すほどの材料ではないとの見方が円高を小幅にとどめた要因

トルコリラの急落は、新興国通貨やユーロに飛び火しましたが、これらの通貨を売るために、相対で買われたのは、円よりも流動性の高い基軸通貨の米ドルでした。また、トルコショックはトルコ固有の問題に起因し、強い円買いを促すほどの危機的材料ではないとみる向きが多く、これもドル安・円高が小幅にとどまった要因と推測されます。なお、トルコリラは足元で買い戻されており、トルコショックという材料は、すでに消化されつつあるように思われます。

来週は、8月22日、23日に米中通商協議が開催されるとの報道もあり、また、24日には米ワイオミング州ジャクソンホールで、パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長の講演が予定されています。市場の関心は、再び米中貿易摩擦問題や米金融政策に向かうとみられますが、米中の歩み寄りには今しばらく時間を要し、パウエル議長の講演についても、金融政策に関する新しい手掛かりは乏しいと考えます。そのため、ドル円は当面110円を中心に、方向感なく小幅なレンジでの推移が続くと予想します。
 

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(2018年8月17日)

 

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