米通商政策アップデートと今後の注目点

市川レポート(No.484)米通商政策アップデートと今後の注目点

  • 鉄鋼とアルミニウムの輸入制限適用は、カナダとメキシコを除外、他の同盟国にも除外余地を残す。
  • 当初は適用に例外なしの強硬方針だったが、共和党議会などの反対もあり幾分譲歩した格好に。
  • 今回もトランプ流の交渉術で米国に貿易戦争の意図はない、今後の対中通商政策も同様とみる。

 

鉄鋼とアルミニウムの輸入制限適用は、カナダとメキシコを除外、他の同盟国にも除外余地を残す

トランプ米大統領は3月8日、鉄鋼とアルミニウムに輸入制限の発動を命じる文書に署名しました。15日後には、鉄鋼に25%、アルミニウムに10%の関税が課されます。全ての国に適用されますが、カナダとメキシコについては、北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉中のため、当面は適用が除外されることになりました。また、日本を含む同盟国にも適用除外の余地を残しています。

この結果を受け、市場ではとりあえず貿易戦争は回避されるとの期待が広がり、3月9日の日経平均株価は寄り付きから買い優勢の展開となりました。また、為替市場でも円が対主要通貨でほぼ全面安になるなど、リスクオンの動きがうかがえます。ただ、欧州連合(EU)や中国は、米国が輸入制限を発動すれば報復措置も辞さないとの考えを示していたため、今後の対応が注目されます。

 

当初は適用に例外なしの強硬方針だったが、共和党議会などの反対もあり幾分譲歩した格好に

ここで、今回の米通商政策を巡る政府要人の言動を時系列でまとめてみます(図表1)。まず、トランプ米大統領が、安全保障を理由に鉄鋼とアルミニウムの関税を引き上げ、輸入制限を課す方針を表明したのは3月1日でした。続いてロス米商務長官は3月2日、適用対象国に例外を設けるべきではないとの見解を表明しました。この時点での政策方針は、保護主義的な印象を強く与えるものでした。

その後、保護主義政策に強く反対していたコーン米国家経済会議(NEC)委員長が3月6日に辞任を表明し、ライアン米下院議長やマコネル米上院院内総務から、適用除外の例外措置を設けるべきとの意見が相次ぎました。トランプ米大統領はこれらを踏まえて幾分譲歩したとみられ、サンダース米大統領報道官は3月7日、カナダとメキシコに例外措置を設ける可能性があり、他の国に対してもあり得ると述べました。

 

今回もトランプ流の交渉術で米国に貿易戦争の意図はない、今後の対中通商政策も同様とみる

今回の通商政策の目的は、貿易赤字の削減ではなく、中間選挙に向けた支持固めだと思われます。また関税の適用除外を盾に、カナダとメキシコに対してはNAFTA再交渉を有利に進め、同盟国に対しては他の通商分野で市場開放を求めるという狙いもあると推測されます。これは、強気のカードを切り、ひるむ相手から有利な条件を引き出すという、トランプ流の交渉術であり、米国にはもとより貿易戦争を仕掛ける意図はないとみています。

なお、米国は別途、対中通商政策を進めることが予想されます。すでに米通商代表部(USTR)は2017年8月より、中国による知的財産権の侵害を対象に、通商法301条に基づく不正貿易の調査を開始しています。トランプ米大統領は同法の下、不正があると判断すれば、関税引き上げや輸入制限を発動することができます。トランプ米大統領は今回と同様、中国に対しこのカードをちらつかせ、政治的、経済的な交渉を有利な条件で進めることを狙うと思われます。

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(2018年3月9日)

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