円高警戒要因浮上?

市川レポート(No.451)円高警戒要因浮上?

  • 投機筋は円を大幅に売り越しているため、ポジション調整による円買い戻しが、市場の円高圧力に。
  • 米税制改革法案の遅れや独政局不安の高まりが、為替市場でリスクオフの円高を促す可能性も。
  • ただ、各材料の詳細をみていくと、110円を超えて円高が一方的に進む可能性は低いと思われる。

 

投機筋は円を大幅に売り越しているため、ポジション調整による円買い戻しが、市場の円高圧力に

 

ドル円は、11月17日と20日に1ドル=111円台をつけるなど、このところ徐々にドル安・円高が進行しています。足元では、円高に振れやすい材料が複数みられるため、今回はそれらを検証し、ドル円相場への影響を考えます。はじめに、投機筋の円ポジションを確認します。具体的には、米シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)の1部門であるインターナショナル・マネー・マーケット(IMM)に上場されている通貨先物取引に注目します。

非商業部門の建玉残高をみると、直近で円が大幅に売り越しとなっています(図表1)。一般に、これは投機筋による円売りポジションの積み上げと解釈されているため、このところの円高は、感謝祭を控えた投機筋による円の買い戻しが一因と考えることができます。したがって、投機筋のポジション調整が一段と進めば、更に円高圧力が強まる可能性があります。

 

米税制改革法案の遅れや独政局不安の高まりが、為替市場でリスクオフの円高を促す可能性も

 

次に、米税制改革法案の行方です。下院案はすでに下院本会議で可決されています。上院案も上院財政委員会で先週可決されましたので、感謝祭明けの上院本会議での採決が次の焦点です。ただ、上院本会議で可決されても、上院案と下院案に相違があるため(図表2)、両院協議会での調整作業が必要となります。調整が難航すれば、税制改革法案の年内成立は難しくなるので、年末のドル安・円高要因として市場に意識されやすくなります。

そして、にわかに浮上したのがドイツの政治リスクです。日本時間11月20日の朝方、メルケル首相が率いるキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)、自由民主党(FDP)、緑の党による3党連立協議が決裂しました。メルケル首相は、社会民主党(SDP)との大連立という選択肢は排除しないとし、連邦議会で過半数を確保できなければ、再選挙の方がよいと述べています。いずれにせよ、新政権誕生までは数カ月かかる見通しで、不確実性の高まりはユーロ安、円高を連想させます。

 

ただ、各材料の詳細をみていくと、110円を超えて円高が一方的に進む可能性は低いと思われる

 

最後に、各材料の相場への影響を考えます。通貨先物取引の非商業部門の建玉残高は、必ずしもすべての投機筋の動きを示すものではなく、あくまで1つの参考値と理解すべきです。また、仮に足元の円高が投機筋のポジション調整によるものであれば、調整一巡で円高一服となります。また、米税制改革法案について、市場はある程度の遅延を織り込んでいるとみられ、また米景気も底堅く推移していることから、成立が多少遅れても、大幅なドル安・円高には至らないとみています。

ドイツの政局は、今後の展開を見極める必要がありますが、新政権誕生までメルケル首相が暫定首相として職務を行い、内閣も継続されますので、政治的な不透明感が過度に強まる恐れは小さいと思われます。以上を踏まえると、投機筋の円ポジション、米税制改革法案、ドイツの政局、これらはいずれも円高の要素を持つものの、110円を超えて円を押し上げるほどの材料ではないと考えます。

 

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(2017年11月21日)

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