日銀のETF購入と出口戦略
市川レポート(No.407)日銀のETF購入と出口戦略
- 景気の現状判断は据え置き、国債の買い入れペースは毎月変動するとして80兆円のめどを維持。
- 出口戦略の考え方も従来通り、ただETFの買い入れ減額は、理論的にはありうるとの見解を示す。
- ETFの買い入れはリスクプレミアム縮小に一定の成果、この先、買い入れ減額の検討余地はあろう。
景気の現状判断は据え置き、国債の買い入れペースは毎月変動するとして80兆円のめどを維持
日銀は6月15日、16日に開催した金融政策決定会合で、大方の予想通り金融政策の現状維持を決定しました。今回、市場で特に注目されていたのは、①国内景気判断の変更有無、②国債買い入れペースの変更有無、③出口戦略に関する黒田総裁の見解、の3点でした。まず①について、個人消費は「底堅さを増している」と表現を強めましたが、国内景気の現状判断は、「緩やかな拡大に転じつつある」という前回の判断を据え置きました。
また②についても、「概ね現状程度の買い入れペース(保有残高の増加額年間約80兆円)をめど」という方針に変更はありませんでした。実際の国債買い入れペースは既に70兆円程度まで鈍化していますが、黒田総裁は6月16日の記者会見において、操作目標は長期金利であり、買い入れ額ではないこと、また買い入れ額は内生変数(金利操作の結果として決まるもの)であり、毎月ある程度変動すること、を強調しました。
出口戦略の考え方も従来通り、ただETFの買い入れ減額は、理論的にはありうるとの見解を示す
そして③の出口戦略に関する見解についても、従来から変化はありませんでした。黒田総裁は6月16日の記者会見において、現時点で出口戦略に関する具体的なシミュレーションを公表するのは、かえって混乱を招く恐れがあるので、適切ではないとの見解を示しました。ただ、株価指数連動型上場投資信託(ETF)については、出口戦略の議論に先立って、買い入れを減らすことは理論的にありうると述べました。
黒田総裁によれば、国債買い入れによる金利操作と、リスクプレミアムを縮小するためのETFの買い入れは、完全に連動して動く必要はないとのことです。また同時に、ETF買い入れは金融緩和の一環であり、2%の物価安定目標と離れて「やめる」ことは、普通考えられないとしています。この点をやや深読みすれば、国債の買い入れを続けるなかで、ETFの買い入れを「やめる」ことはないまでも、減らす可能性はあると解釈できます。
ETFの買い入れはリスクプレミアム縮小に一定の成果、この先、買い入れ減額の検討余地はあろう
日銀がETFの買い入れを行う日は、東証株価指数(TOPIX)の前場の終値が、前日の終値から下落した日です。下落率については、過去、1%超下がると買い入れていましたが、2015年からは0.2%程度の下げでも買い入れるようになり、2015年半ば以降は下落率に明確な基準はみられなくなりました。その傾向は現在でも続いていますが、2017年の年初からの動きをみると、少なくとも下落率が0.3%を超える日は、買い入れを行っています(図表1)。
日銀による積極的なETFの買い入れの結果(図表2)、日経平均株価は2万円の水準を回復するようになり、リスクプレミアムの縮小には一定の成果があったと思われます。ただし、それでも一般に中央銀行が長期にわたって株式市場に直接関与し続けることは、健全な価格形成機能を損なう恐れがあり、好ましいものではありません。ETFの買い入れを減額しても、買い入れ自体を続ける限り、2%の物価安定を目標とする金融緩和の枠組みに沿っていることになるため、検討の余地はあるのではないかと考えます。
(2017年6月19日)
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