アジア通貨安のリスクを再考する

2017/01/16

市川レポート(No.341)アジア通貨安のリスクを再考する

  • 一般に経常赤字で債務を抱える新興国は、通貨安を機に経済が大きく混乱する傾向がみられる。
  • アジアは経常黒字国/地域が多く、経常赤字国のインドなども短期債務の対外貨準備比は低い。
  • つまり海外からの資金に過度に依存しておらず、通貨安で経済危機に陥るリスクは小さくなっている。

一般に経常赤字で債務を抱える新興国は、通貨安を機に経済が大きく混乱する傾向がみられる

2016年11月8日の米大統領選挙後、トランプ次期大統領が掲げる大規模減税とインフラ投資への期待から、市場では米国の景気拡大、物価上昇、利上げペース加速という見方が強まりました。その結果アジア諸国/地域では、米長期金利の上昇を背景とする米ドル高を受け、相対的に通貨が下落し、株式市場などから一時的に投資マネーが流出する動きもみられました。しかしながら足元ではその動きが一服しつつあります。

市場では、「米長期金利上昇」⇒「米ドル高」⇒「アジア通貨安」⇒「アジアから資金流出」という思惑が強く、実際に今回の米大統領選挙後もこのように反応しています。一般に、経常赤字で債務を抱える新興国は、海外からの投資資金に過度に依存しているため、通貨安を機に市場や経済が大きく混乱する傾向がみられます。そこで以下、アジア諸国/地域について経常収支と債務構造を確認してみます。

アジアは経常黒字国/地域が多く、経常赤字国のインドなども短期債務の対外貨準備比は低い

図表1はアジアの7カ国/地域について経常収支のGDPに対する比率を示したものです。これをみると、インドとインドネシアを除き、5カ国/地域は経常黒字であることが分かります。なお経常黒字とは、家計・企業・政府の3部門を合わせた国全体の貯蓄投資バランスが貯蓄超過、すなわち資金余剰であることを意味します。そのため経常黒字国が海外からの投資資金に過度に依存することはありません。

また短期債務残高に対し、外貨準備残高が十分でない場合、市場混乱時に短期債務の返済が滞るとの懸念が強まります。図表2は短期債務残高の外貨準備残高に対する比率を示したものです。データは韓国と台湾を除く5カ国になりますが、いずれも100%を下回っており、経常赤字のインドは23.1%、インドネシアは36.7%と比較的低水準です。マレーシアは80.3%と高水準ですが、図表1の通り経常黒字国です。

つまり海外からの資金に過度に依存しておらず、通貨安で経済危機に陥るリスクは小さくなっている

以上を踏まえれば、アジア諸国は必ずしも海外からの投資資金に過度に依存している訳ではないと考えられます。そのため今後、「米長期金利上昇」⇒「米ドル高」⇒「アジア通貨安」⇒「アジアから資金流出」という動きがみられた場合でも、過去のように経済危機に陥るリスクは相当程度小さくなっていると思われ、アジア通貨安やアジアからの資金流出も、一時的なものにとどまる可能性があると考えます。

そもそも今回の米長期金利上昇は、トランプ政策で米国の成長ペースが上向くという期待によるものであり、良好な米国経済はアジア経済にも追い風です。ただトランプ次期大統領の通商政策が過度に保護主義的であれば、アジア経済への悪影響が懸念されます。しかしながら過度な保護主義は米国自身にもマイナスに作用する恐れがあることから、通商政策は現実的なアプローチが採用されると思われます。

170116図表1170116図表2

 (2017年1月16日)

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