歴代米財務長官とドル円相場

市川レポート(No.334)歴代米財務長官とドル円相場

  • リーガン財務長官は強いドル政策、ベイカー長官はドル高是正策、ベンツェン長官はドル安容認策。
  • 強いドル政策はルービン長官以降継承中も、近年のドル円は金融危機や日米政策期待で変動。
  • トランプ政権の為替政策は不明確だが、強いドルを唱えつつドル安容認というスタンスの可能性も。

リーガン財務長官は強いドル政策、ベイカー長官はドル高是正策、ベンツェン長官はドル安容認策

ドル円相場のトレンドは、米国の為替政策によって転換した場面が過去何度もみられました。米国では財務省が為替政策を管轄するため、財務長官の政策スタンスはドル円相場の方向性に大きな影響を及ぼすと考えられます。そこで今回のレポートでは、歴代の米財務長官と政策スタンスを振り返り、その当時ドル円が実際にどのように反応したかを検証します(図表1)。

1981年1月に就任したレーガン大統領とリーガン財務長官は、強い米国、強いドルを標榜し、ドル円相場は大きくドル高・円安方向に振れました。1985年2月にベイカー財務長官が就任すると、ドル高を是正する政策がとられ、実際の相場もドル安・円高トレンドに転換しました。1993年1月に就任したクリントン大統領とベンツェン財務長官はドル安を容認し、巨額の対米貿易黒字を抱える日本に円高圧力をかけました。

強いドル政策はルービン長官以降継承中も、近年のドル円は金融危機や日米政策期待で変動

1995年1月に就任したルービン財務長官は、「強いドルは国益にかなう」とし、自身が議長を務めた同年4月の7カ国蔵相・中央銀行総裁会議では、「(ドル安を)秩序ある形で反転させることが望ましい」との声明が出され、為替市場では協調ドル買い介入が実施されました。なお「強いドル」という基本スタンスは、ルービン財務長官以降、現職のルー財務長官まで引き継がれています。

ただ第1期ブッシュ政権は、為替レートは市場が決めるという姿勢であったため、オニール財務長官、スノー財務長官とも強いドルを唱えていたものの、実際のドル円相場への影響は限定的だったように思われます。またポールソン財務長官とガイトナー財務長官の任期中には、リーマンショックや欧州債務危機でドル安・円高が進行し、ルー財務長官の任期中には、アベノミクス相場やトランプ相場でドル高・円安が進行しました。

トランプ政権の為替政策は不明確だが、強いドルを唱えつつドル安容認というスタンスの可能性も

国際決済銀行(BIS)データによると、2016年4月時点の世界の為替市場における取引シェア上位3通貨は、ドル(43.8%)、ユーロ(15.7%)、円(10.8%)です。米財務省の為替政策は、近年やや注目度が低下しているように見受けられるものの、ドルという圧倒的な取引シェアを占める基軸通貨を政策対象としている以上、やはりドル円相場の方向性には極めて大きな影響を及ぼす要素と考えます。

米国のドル高標榜は双子の赤字をファイナンスする側面がありましたが、現在では日欧のマイナス金利政策で米国に資金が流入しやすくなっており、強くドル高を唱える必要性は過去に比べ低下したように思われます。またトランプ政権は製造業重視の観点から過度なドル高を容認しない可能性があります。現時点で次期政権の為替政策は不明確ですが、これらを勘案すると、次期政権は強いドルを唱えつつもドル安は容認するというスタンスをとることも考えられます。ムニューチン次期財務長官の今後の発言には注意が必要です。

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 (2016年12月26日)

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