イタリアの政局混迷が金融市場に与える影響

市川レポート(No.327)イタリアの政局混迷が金融市場に与える影響

  • イタリア国民投票で改憲案が否決されレンツィ首相は辞任へ、これを受けて日本株は軟調に推移。
  • 今後の政局は、暫定首相が指名されて議会が継続するか、議会が解散し総選挙となるかに注目。
  • 政局混迷でも欧州には過剰流動性と銀行同盟が存在、金融市場全体への影響は限定されよう。

イタリア国民投票で改憲案が否決されレンツィ首相は辞任へ、これを受けて日本株は軟調に推移

イタリアでは12月4日、憲法改正の是非を問う国民投票が行われました。レンツィ首相は改憲案を否決されれば辞任すると述べてきたため、今回の国民投票は、現政権に対する事実上の信任投票となりました。開票は同日に行われましたが、出口調査での反対多数を受け、レンツィ首相はテレビ演説で辞任を表明しました。これにより欧州では、国民投票を機に英国とイタリアの首相が相次いで辞任に追い込まれる事態となりました。

イタリア国民投票に関する一連のニュースは、日本時間12月5日の朝方に報道され、ユーロは対ドルで一時1ユーロ=1.0506ドル水準まで下落しました(図表1)。一方、円はリスクオフ(回避)で買い進まれ、ドル円は一時1ドル=112円88銭水準までドル安・円高が進行しました。日経平均株価も寄り付きから売りが先行した後、終日軟調に推移し、前週末比151円09銭安の18,274円99銭で取引を終えました。

今後の政局は、暫定首相が指名されて議会が継続するか、議会が解散し総選挙となるかに注目

イタリアの政局については今後2つのシナリオが想定されます。1つはイタリアのマッタレッラ大統領が暫定首相を指名し、議会任期(2018年5月予定)まで議会を継続するシナリオです。この場合、総選挙が行われませんので、欧州連合(EU)懐疑派の「5つ星運動」が躍進することはありません。しかしながら暫定首相の下では構造改革の停滞が予想され、同国の銀行不良債権問題が再燃する恐れもあります。

もう1つは総選挙が行われるシナリオです。総選挙はマッタレッラ大統領が議会を解散した場合に行われますが、暫定首相を指名しても上下両院で信任票が得られず、後任の首相が決まらなかった場合も行われる可能性があります。総選挙で「5つ星運動」が勝利し、EU残留の是非を問う国民投票を実施する流れは、市場が最も警戒する展開です。

政局混迷でも欧州には過剰流動性と銀行同盟が存在、金融市場全体への影響は限定されよう

ただ前回のレポートでもお話しした通り、イタリアの政局混迷は、直ちに世界的な金融危機の発生につながるものではありません。基本的に欧州の金融システムには、欧州中央銀行(ECB)の金融緩和により、潤沢な流動性が存在しています(図表2)。万が一イタリアの金融システムが動揺した場合には、同国中央銀行が市中銀行に対しELA(緊急流動性支援)を実施します。

またすでに欧州では、単一の銀行監督メカニズムや単一の破綻処理メカニズムが導入されており、ある金融機関が経営危機に陥っても、欧州統一の規定に基づいて関係当局が迅速に対応するため、危機の連鎖は発生しにくくなっています。さらには現在、イタリアがEU離脱とユーロの放棄を選択せざるを得ないほど、同国の経済が危機的状況に陥っているとは思われません。以上より、イタリアの政局混迷が金融市場全体に与える影響は、比較的限定される可能性があると考えています。

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 (2016年12月5日)

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