トランプ大統領誕生へ~今後の注目ポイントと相場への影響を考える

市川レポート(No.321)トランプ大統領誕生へ~今後の注目ポイントと相場への影響を考える

  • 「選挙結果」という材料は東京市場で消化され、欧米市場では改めて「政策内容」が焦点となった。
  • 政策は基本的に景気刺激的、ただ減税やインフラ投資などは大統領と議会の協調がカギとなろう。
  • 通商政策などに懸念は残るが、ドル円は1ドル=100円、日経平均は16,000円が下値目途か。

「選挙結果」という材料は東京市場で消化され、欧米市場では改めて「政策内容」が焦点となった

11月9日の東京市場は、トランプ候補優勢の報道が伝わるなか、株安、債券高、円高のリスクオフ(回避)で反応しました。しかしながら欧米市場に入るとこの流れが一転し、株高、債券安、ドル高というリスクオン(選好)の反応となりました。この動きを解釈すると、「選挙結果」という材料は早々に東京市場で消化されてしまい、欧米市場では「政策内容」が改めて焦点になった、ということと思われます。

「政策内容」では「大規模減税」と「インフラ投資」が材料視されました。単純に考えれば、これらは米国景気にプラスであり、株高、債券安要因となります。実際11月9日のダウ工業株30種平均は前日比で約257ドル上昇し、米10年国債利回りは一気に2%を超えて上昇しました。また金融規制強化と薬価引き下げを主張するクリントン候補の敗退で、この日は金融株とヘルスケア株が顕著に上昇しました。株高と長期金利上昇を受け、為替市場ではドルが対主要通貨で上昇しました。

政策は基本的に景気刺激的、ただ減税やインフラ投資などは大統領と議会の協調がカギとなろう

そもそもトランプ大統領が誕生したからといって、世界の金融システムが動揺する訳でも、信用収縮が起こる訳でもありません。トランプリスクは金融危機を引き起こすようなリスクではなく、政策自体は基本的に米国景気を浮揚させる内容のものです。市場がこの点を冷静に理解すれば、極端なリスクオフには至らないと思われます。ただ一方で、政策に保護主義色が強く、実現性にも不透明感が残るため、市場が嫌気する要素は存在します。

トランプ候補が掲げていた主な政策は図表1の通りですが、そのうちいくつかの項目について簡単にポイントをまとめておきます。まず減税について、そもそも税制変更は議会での立法化が必要であり、大統領単独で行うことができません。議会は上下院とも共和党が多数党ですが、財政規律を重視する向きもあり、約10兆ドル規模の減税が実現する可能性は低いと思われます。したがってインフラ投資も含め、景気対策は大統領と議会の協調がカギとなります。

通商政策などに懸念は残るが、ドル円は1ドル=100円、日経平均は16,000円が下値目途か

一方、市場で懸念されているのが通商政策です。既存の貿易協定に関し、大統領は単独で関税の引き上げや貿易制限を一時的に行うことができます。そのためトランプ候補は大統領就任後、直ちに北米自由協定(NAFTA)の再交渉に取り組むことも考えられ、環太平洋経済連携協定(TPP)の議会審議も難しくなったと思われます。通商政策を通じて保護主義的な動きが強まれば、市場がそれを嫌気してリスクオフに傾く恐れがあります。

また移民政策についても現行の予算内であれば、大統領が単独で一時的に変更することが可能です。昨晩の欧米市場では幾分期待先行の動きがみられましたが、しばらくはトランプ候補の政策に関する発言などに、市場が敏感に反応する展開が続くと思われます。そのためまだ楽観はできないものの、極端な混乱がなければ、年内の米利上げの可能性は残り、ドル円は1ドル=100円、日経平均株価は16,000円が取り敢えずの下値目途になる可能性があります。

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 (2016年11月10日)

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