シンプルに相場を考えてみる

市川レポート(No.289)シンプルに相場を考えてみる

  • 一見すると解釈しにくい足元の相場だが、あえてシンプルに考える場合、カギは米国の金融政策。
  • 米利上げ先送りでドル安進行は新興国株上昇の一因に、円高はアベノミクス期待の修正も影響。
  • 米利上げが見込まれる12月に相場の潮目が変わる可能性、ただ環境が悪化することはなかろう。

一見すると解釈しにくい足元の相場だが、あえてシンプルに考える場合、カギは米国の金融政策

8月18日の日経平均株価は、前日比95円73銭安の16,649円91銭で寄り付きました。朝方にドル安・円高が進行し、1ドル=100円を割り込んだことなどが材料視されたとみられます。円高懸念で日経平均株価が17,000円台の回復に苦戦する一方、米国ではダウ工業株30種平均、S&P500種指数、ナスダック総合指数がそろって過去最高値圏で推移しています。また新興国の一部にも株価の堅調な動きがみられます(図表1)。

一見すると解釈しにくい相場ですが、これは背景に複数の要因が存在し、それらが相互に影響し合っているためです。そこで今回はあえてシンプルに相場を考え、今後を展望してみます。その際カギとなるのは米国の金融政策です。これはすなわち、世界の投資マネーの流れは世界最大規模の米国経済と金融市場の動向に左右され、その米国経済と金融市場は米国の金融政策に最も大きな影響を受けるからです。

米利上げ先送りでドル安進行は新興国株上昇の一因に、円高はアベノミクス期待の修正も影響

多くの市場参加者にとって、今年最大の関心事は米国の利上げ時期と思われます。ただ米連邦準備制度理事会(FRB)は、今年1月の米連邦公開市場委員会(FOMC)以降、声明から「経済活動と労働市場の見通しに対するリスクは均衡している」との文言を削除し、「世界経済と金融情勢」について注視する旨を表明し続けています。これは、年初であれば原油安や中国の景気減速懸念、そして6月は英国民投票が、経済や市場にどの程度マイナスに作用するか、FRBが強く警戒していることを示唆しています。

実際にこれら米国外の要因で、世界の金融情勢が悪化する場面は多くみられました。その結果、米利上げ時期の先送りが徐々に織り込まれ、為替市場では主要通貨に対しドル安の動きが強まっていきました。そして新興国では、ドル安で相対的に自国通貨が上昇し、金融緩和の余地が広がるとの見方が広がり、これが新興国株上昇の一因になったと推測されます。なお円高の理由は、時々の金融情勢悪化で逃避需要が強まったためであり、また過去にみられたアベノミクスへの過度な期待にいくらか修正が入ったためと考えられます。

米利上げが見込まれる12月に相場の潮目が変わる可能性、ただ環境が悪化することはなかろう

今後を展望すると、FRBが利上げに対して慎重なかじ取りを続けた場合、緩やかなドル安と相対的に緩やかな新興国通貨の上昇が、米国株や新興国株を下支えするという状況が持続する可能性もあります。このような相場の潮目が変化するのは、米国が利上げに踏み切る時期であり、現時点では12月の可能性が高いと考えています。ただ利上げ判断の際には、「世界経済と金融情勢」は安定していると思われるため、円相場や日本株にも悪い環境ではないとみています。

米国は緩やかなペースでの利上げが見込まれていますが、日欧では追加緩和が予想され、すでにオーストラリアなどは利下げを実施しています。世界的に緩和的な金融環境は、株式などリスク資産にとって好ましい状況です(図表2)。ただ「低インフレ」、「低成長」、「低金利」の環境が世界的に長期間続いた場合は、リターンの確保が次第に難しくなります。そのため、これもシンプルに考えれば、利回りがプラス圏にある債券や比較的配当の高い株式などは、投資マネーに選好されやすくなる可能性があります。

160818図表1160818図表2

 

 (2016年8月18日)

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