足元における円安・株高の持続性

市川レポート(No.246)足元における円安・株高の持続性

  • 足元のドル高・円安は、投機筋の円買いポジション調整と一時的なドル全面高の動きによるもの。
  • 日本株の戻りは控えめで、投資家は外需や円相場に対し慎重な見方を維持している可能性。
  • これらの動きは持続性に乏しいが、政府・日銀の政策により一段の円安・株高という展開も。

足元のドル高・円安は、投機筋の円買いポジション調整と一時的なドル全面高の動きによるもの

ドル円は5月11日の日本時間早朝に1ドル=109円38銭水準をつけました。ドル高・円安方向の動きが顕著になったのは5月9日以降ですが、麻生財務大臣はこの日、参議院決算委員会において「当然介入の用意がある」と発言し、強い言葉で円高を牽制しました。為替介入の可能性や効果については5月6日付けのレポートでお話しした通りですが、麻生発言をきっかけに投機筋などが円買いポジションをいったん縮小した可能性があります。

為替市場全体をみると、3月に米金融当局がハト派姿勢を示して以降、ドルは4月にかけて全面安となりました。これを受けて新興国通貨が対米ドルで上昇し、新興国経済への過度な懸念が後退するなか、新興国株式や原油が堅調に推移しました。ただ5月に入るとドルが全面高に転じ、新興国の通貨や株式、原油はそろって反落しました。これらはいずれもポジション調整の動きと思われますが、ドル全面高によりドル円がドル高・円安方向に振れたとも考えられます。

日本株の戻りは控えめで、投資家は外需や円相場に対し慎重な見方を維持している可能性

日経平均株価はゴールデンウィーク中の5月2日と6日に一時16,000円を割り込む場面もみられましたが、その後は持ち直し5月11日の東京市場では16,000円台半ばから後半で推移しています。ドル円については、5月3日につけた1ドル=105円55銭水準から大きくドル高・円安が進んでいますが、相対的に日本株の戻りはやや控えめなものとなっています。

5月2日から10日までの期間について、東証株価指数(TOPIX)33業種の騰落率を確認してみます(図表1)。上昇率が大きかった5業種は、空運業(+5.1%)、輸送用機器(+4.9%)、ゴム製品(+4.7%)、水産・農林業(+4.7%)、小売業(+4.7%)でした。一方、下落率が大きかった5業種は、鉄鋼(-3.1%)、鉱業(-3.0%)、石油・石炭製品(-2.4%)、海運業(-1.6%)、非鉄金属(-1.2%)でした。

これらの動きは持続性に乏しいが、政府・日銀の政策により一段の円安・株高という展開も

上昇率の上位には水産・農林業や小売業などの内需関連、下落率の上位には鉄鋼や素材関連などの外需関連が目につきます。また円相場が円安に振れたにもかかわらず、電気機器や精密機器はそれほど上昇していません。決算発表時期のため33業種の動きは個別企業の決算に影響を受けている点を勘案する必要はありますが、日本株の投資家は外需や円相場の動向に対し、依然慎重な見方をしていると推測されます。

投機筋などによる円買いポジションの調整と一時的なドル全面高の動きが収束すれば、ドル高・円安の進行は鈍化し、日本株もそれに連れて上昇ペースが鈍ると思われます。ただ米金融当局のハト派姿勢は当面維持されるとみられ、金融市場は安定しやすい地合いにあると考えます。こうしたなか、5月中とみられる政府の景気対策や、早ければ6月とみられる日銀の追加緩和が確認されれば、ドル円の110円台定着や日経平均株価の17,000円台定着という展開も期待できると思われます。

160511図表1

 

 (2016年5月11日)

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