マイナス金利の先行事例~ユーロ圏の場合

市川レポート(No.212)マイナス金利の先行事例~ユーロ圏の場合

  • ECBは預金ファシリティに加えて、超過準備など幅広い余剰資金にマイナス金利を適用している。
  • マイナス金利導入後も中銀の預金残高は増加、EONIAへのマイナス金利波及は2カ月超を要す。
  • ユーロ圏では住宅ローンを中心に家計向けの貸出が伸びたが、物価の上昇率は緩やかなものに。

ECBは預金ファシリティに加えて、超過準備など幅広い余剰資金にマイナス金利を適用している

欧州中央銀行(ECB)は、2014年6月5日の定例理事会においてマイナス金利の導入を決定し、預金ファシリティ金利をゼロ%から-0.1%へ引き下げました。日銀も2016年1月29日にマイナス金利の導入を決めましたが、その政策効果についてさまざまな議論がみられます。そこで今回のレポートでは、ECBがマイナス金利を導入した後、ECBのバランスシート、銀行貸出、物価動向などにどのような変化がみられたか検証してみます。

ECBの預金ファシリティとは、金融機関が余剰資金を翌日物でECBに預け入れる制度です。マイナス金利はこの翌日物預金に付利されていますが、これ以外にもECBの当座預金における超過準備、一定額を超えてユーロシステムに預けられている政府預金、ユーロシステムの準備管理サービス勘定などもマイナス金利の対象となります。これに対し日銀は一定額を超える超過準備にのみ、マイナス金利を付利します。

マイナス金利導入後も中銀の預金残高は増加、EONIAへのマイナス金利波及は2カ月超を要す

ECBの主なバランスシート項目について、マイナス金利導入直前の2014年5月30日時点と直近の2016年2月12日時点との残高変化を確認します。総資産残高は約2.2兆ユーロから約2.8兆ユーロへ0.6兆ユーロ増加しました。資産項目をみると、量的緩和に伴う証券保有残高が約0.7兆ユーロ増加しているため、ほぼこの分で総資産残高の変化を説明できます。また負債項目では銀行券が約0.1兆ユーロ、当座預金が約0.4兆ユーロ、預金ファシリティが約0.2兆ユーロ、それぞれ残高が増加しました。

ECBは量的緩和によって金融機関から国債などの証券を購入しています。そして上記のバランスシートの変化をみる限り、ECBからの購入代金はほとんど、マイナス金利にも関わらずECBの当座預金や預金ファシリティに滞留していることが分かります(図表1)。なおユーロ圏の金融機関が短期資金を融通し合う無担保翌日物平均金利(EONIA)は、2014年8月28日に初めてマイナス金利をつけました。

ユーロ圏では住宅ローンを中心に家計向けの貸出が伸びたが、物価の上昇率は緩やかなものに

次に銀行の貸出行動を確認します。企業向け貸出残高の前年比変化率をみると、2014年5月は-2.7%でしたが、2015年12月は+0.1%まで持ち直しました。同様に家計向け貸出残高をみると、2014年5月は-0.7%でしたが、2015年12月は+1.9%まで回復しました。資金需要が低調なため、企業向け貸出の伸びは緩やかなものにとどまっていますが、家計向け貸出は住宅ローンを中心に堅調な伸びがみられます(図表2)。

一方、エネルギーなどを除くコア物価指数に目を向けると、2014年5月は前年比+0.7%、2015年12月は+0.9%と、緩やかな伸びになっています。以上の事例を踏まえると、日本でも時間をおいて無担保コール翌日物金利がマイナスとなることが考えられ、また企業の手元資金が潤沢なため、企業向け貸出よりも住宅ローンの伸びが大きくなる可能性があります。そして物価が伸び悩んだ場合、日銀はECB同様、マイナス金利の拡大を含む追加緩和に踏み切ると思われます。

160217 図表1 160217 図表2

 (2016年2月17日)

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