中国リスクの要点整理
市川レポート(No.200)中国リスクの要点整理
- 中国経済:成長ペースの減速は経済の運営方針であり、市場の過度な悲観はやや行き過ぎ。
- 人民元:人民元安は資本自由化の過程での事象、依然として当局は人民元相場を管理可能。
- 中国株:外国人の参入制限があり、中国株安で世界的な株安は思惑的な面が強いと考える。
中国経済:成長ペースの減速は経済の運営方針であり、市場の過度な悲観はやや行き過ぎ
1月19日に発表された2015年の中国実質GDP成長率は前年比+6.9%となり、政府目標の同+7.0%前後をほぼ達成しました。2014年実績(同+7.3%)からの減速傾向は明らかですが、「高速成長から中高速成長へ転換する新常態(ニューノーマル)に自発的に適応する」ことは2015年の経済運営方針です。成長ペースの減速を悲観することはありません。
2015年12月の中央経済工作会議において、中国政府は供給側の改革を重視し、過剰設備の削減や地方政府の債務圧縮を進める方針を示しました。ただそれだけでは成長が大幅に鈍化しますので、金融緩和と積極財政の継続も明示されました。また足元では住宅価格や土地購入が持ち直しており(図表1)、これらも成長を支える方向に作用するとみられます。方針に沿った政策をしっかりと実行することで、少なくとも景気後退は回避可能と思われることから、市場の過度な悲観はやや行き過ぎと考えます。
人民元:人民元安は資本自由化の過程での事象、依然として当局は人民元相場を管理可能
中国では資本の自由化を進めるなかで、金融政策に効力を持たせるため、為替レートの形成を市場に委ねる必要が生じています。最近では国際通貨基金(IMF)による特別引き出し権(SDR)構成通貨への採用が決まった2015年11月30日以降、為替介入を控えてより柔軟な為替相場の運営に方針を変更した可能性があります。ただ景気減速懸念を背景とする中国国外への資本流出と重なり、人民元は対米ドルで大きく下落しました。
人民元安を受けて世界の金融市場が混乱すると、中国当局は人民元の対米ドル為替レートの基準値を安定させることで対処しました。現行の通貨制度の下、中国当局は依然として人民元相場を管理可能であり、実際ここ数日で人民元安の動きは止まっています(図表2)。つまり人民元の下落は資本の自由化を進める過程での事象であり、中国当局が通貨の切り下げや通貨安競争を意図したものではありません。また人民元安で市場が動揺した場合には中国当局が動くと予想されますので、やはり過度な悲観は不要と思われます。
中国株:外国人の参入制限があり、中国株安で世界的な株安は思惑的な面が強いと考える
中国の株式市場は売買代金の約8割を中国国内の個人投資家が占める極めて特殊な市場で、株価の変動性(ボラティリティ)が急拡大した場合には中国当局が介入することもよくあります。また外国人投資家の参入が制限されていることから、外国人投資家が中国株の下落による損失を他国の株式売却で補填する動きも限られると思われます。そのため中国株の下げに連れて世界の株式市場が下落するのは、かなり思惑的な面が強いと推測されます。
中国経済については統計の精度を疑問視する声もありますが、国際通貨基金(IMF)は最新の経済見通しで2016年の中国の実質GDP成長率を前年比+6.3%としました。一方、中国当局は向こう5年間で年平均+6.5%以上の成長が最低ラインと明言しています。今後はこれらの数字を勘案しながら、中国経済が消費主導型の安定成長を実現できるか慎重に見極める必要があります。また人民元や中国株の動向も引き続き注視すべきですが、冷静に考えれば前述の通り不安要素は相当程度解消できると思われます。
(2016年1月20日)
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