投機筋と投資家

2016/01/18

市川レポート(No.199)投機筋と投資家

  • 投機筋にとって重要なのは、資産の将来価値ではなく市場で関心の高いテーマをみつけること。
  • 投資家の狼狽売りでパニック相場となれば、実体経済や企業業績にマイナス、投機筋にはプラス。
  • 個々のリスク要因に過剰な悲観は不要、投資家の冷静な行動で投機筋の買い戻し誘発も。

投機筋にとって重要なのは、資産の将来価値ではなく市場で関心の高いテーマをみつけること

世界の金融市場は依然混乱が続いています。背景には1月8日付けのレポートでもお話しした通り、①中国景気に対する懸念の再燃、②原油安の進行、③地政学リスクの高まりなど、複数のリスク要因の重なりがあります。ここに投機的な動きが加わったことで市場心理が一段と悪化し、株価など資産価格の下げ幅が拡大したと推測されます。そこで今回は投機の動きとリスク要因について、少し冷静に考えてみます。

資産価格の変動で利ざやを稼ぐ向きを一般に投機筋といいます。投機筋にとって重要なのは、投機の対象となる資産の価値が将来的に増えるか否かではなく、市場で関心の高いテーマをみつけて取引を行うことです。例えばアベノミクスが市場で注目されれば円を売って日本株を買い、その効果に市場の疑問が強まれば円を買って日本株を売ることになります(図表1)。また中国景気や原油安が市場で懸念されれば、原油やリスク資産を売って安全資産を買うことになります(図表2)。

 投資家の狼狽売りでパニック相場となれば、実体経済や企業業績にマイナス、投機筋にはプラス

つまり投機筋は、アベノミクスや中国経済、原油などを、主に利ざや稼ぎのための相場変動要因として捉えており、世界経済や金融市場への影響を見極める上での分析対象としてみてはいません。ここが将来の経済成長や企業業績を重視する長期の投資家とは全く異なる点です。そのため投機主導の相場では、ファンダメンタルズ分析などで資産価格が割安と示唆されても、しばらく価格が下げ止まらないことがよくあります。

また投機的取引によってもたらされる市場心理の悪化にも注意が必要です。投資家が過度に悲観的となれば、売りが売りを呼ぶパニック相場につながりかねません。これは結果的に将来の経済成長や企業業績にマイナスの影響を及ぼすだけでなく、投機筋により大きな利ざやを稼ぐ機会を与えることになります。長期の投資家であれば、投機筋による仕掛け売りで相場が大きく下落する局面は過去何度も経験しているはずですので、改めて個々のリスク要因を冷静にながめることも必要と考えます。

個々のリスク要因に過剰な悲観は不要、投資家の冷静な行動で投機筋の買い戻し誘発も

中国当局は、供給サイドの改善に注力する一方、緩和的な金融財政政策を維持しています。経済成長を持続可能なペースに減速させることが基本方針であり、景気後退は行き過ぎた懸念です。原油については、中国の2015年の原油輸入は過去最高でした。更にサウジアラビアなどが財政危機のリスクを無視して生産を続けるとも思えず、将来的な減産合意の可能性は残るとみています。また低格付けの高利回り(ハイイールド)債券には多くのエネルギー関連企業が含まれ、原油安の影響が懸念されています。ただ一般にハイイールド債券に投資するファンドは格付けや業種を分散し、信用リスクを抑制していますので、原油安で信用不安は行き過ぎです。

なお投機筋はいずれかの時点で株式などを買い戻して利益を確定する必要があります。彼らの行動パターンを踏まえると、それは市場心理が弱気一色となった時と考えます。その時点で一気に買い戻しが入れば、割安感からの投資家の買いを誘い、中国景気や原油相場などに著変ないままでも相場が上昇に転じる可能性があります。前述のように個々のリスク要因は警戒が必要ながらも、過剰に悲観するほどではありません。投資家が落ち着いて行動すれば、逆に早いタイミングで投機筋の買い戻しを誘発することも考えられます。

160118 図表1160118 図表2

 (2016年1月18日)

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