混乱が続く金融市場をどう考えるか

市川レポート(No.196)混乱が続く金融市場をどう考えるか

  • 複数のリスク要因が重なったことで、世界の金融市場は年初から大きな混乱が続いている。
  • 思惑として元安は中国経済の苦境の証左、原油安で産油国の財政悪化などがリスクオフを促す。
  • 相場反転にはリスク要因の落ち着きが必要だが、流動性相場は続いており過度な悲観は不要。

複数のリスク要因が重なったことで、世界の金融市場は年初から大きな混乱が続いている

 世界の金融市場では年初から大きな混乱が続いています。その理由として、①中国景気に対する懸念の再燃、②原油安の進行、③中東情勢の悪化や北朝鮮の水爆実験など地政学リスクの高まり、これら複数のリスク要因が重なったことが挙げられます。投資マネーが質への逃避の動きを一段と強めるなか、主要国では株価の下落(図表1)と国債価格の上昇(利回り低下)が顕著にみられ、為替市場でも円全面高の展開となっています。

 ①の中国景気について、市場の関心は人民元相場に集中しているように思われます。中国当局は毎営業日、人民元の売買基準為替レートである「基準値」を発表していますが、対ドルの基準値は、1月7日まで8営業日連続で元安・ドル高水準に設定されています。その結果、通貨安誘導で輸出を刺激しなければならないほど中国経済は苦しい状況にあるとの思惑が市場に広がり、リスクオフ(回避)を促す一因となっています。  

思惑として元安は中国経済の苦境の証左、原油安で産油国の財政悪化などがリスクオフを促す

 そのためこのところ、日本時間午前10時15分に発表される基準値が前営業日より元安・ドル高水準に設定されれば、ドル円と日本株は下落で反応し、その15分後に取引が始まる上海株が下落すれば、ドル円と日本株は更に下落するという流れになっています。すでにオフショア(中国本土外)市場では大幅な人民元安が進行しており(図表2)、これに乗じた投機的なリスクオフトレード(ドル売り・円買いと日本株売りの取引)などによって、ドル円と日本株の下げ幅が拡大していると推測されます。

 ②の原油安については、依然として需給改善の要因がみあたりません。①の中国景気にも関連しますが、世界第2位の原油消費国である中国の景気減速は、原油需要の減少という思惑につながります。また③の地政学リスクに関連するところでは、サウジアラビアとイランの関係悪化により、両国が加盟する石油輸出国機構(OPEC)での減産合意の公算はかなり小さくなりました。そのため供給超過を主因とする原油安はしばらく続くと思われ、産油国の財政悪化(オイルマネーの縮小)やエネルギー関連企業の業績悪化という連想が働きやすくなります。

相場反転にはリスク要因の落ち着きが必要だが、流動性相場は続いており過度な悲観は不要

 このように複数のリスク要因が同時に重なってしまえば、株式などのリスク資産は大幅な価格調整を余儀なくされます。ここに投機的なリスクオフトレードが加わることは往々にしてあるため、ドル円や日本株が一時的にせよ更に下押すリスクは残ります。なお相場の反転には、上記①~③のいずれかがある程度落ち着くことが必要です。例えば元安の速度が幾分安定するような状況になれば、ドル円と日本株の買い戻しにつながる1つのきっかけになる可能性があります。

 また世界経済のけん引役である米国において、景気の強さが確認できるような経済指標がみられれば、ドル円の上昇や日本株の押し上げも期待されます。なお基本的に、世界の金融市場は依然として過剰流動性が溢れており、相応の悪材料は吸収できる状態にあります。昨年もギリシャ問題やチャイナショックなどを経験しましたが、世界的な金融危機や信用収縮は発生しませんでした。仮に危機的な状況が強まるようであれば、日銀や欧州中央銀行は追加緩和に踏み切り、米連邦準備制度理事会(FRB)はしばらく利上げを休止することも考えられます。こうした政策対応は市場の安定に貢献すると思われます。

160108 図表1160108 図表2

 (2016年1月8日)

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