為替ヘッジの考え方

2015/11/24

市川レポート(No.178)為替ヘッジの考え方

  • 為替先物予約を用いた為替ヘッジにより為替変動リスクは金利変動リスクに変換される。
  • そもそも為替先物予約は、為替スワップという2国間通貨の貸借取引を通じて行われる。
  • 故に為替ヘッジをしても金利変動で外貨建て資産の円換算運用益が影響を受けることも。

為替先物予約を用いた為替ヘッジにより為替変動リスクは金利変動リスクに変換される

 一般に円貨から外貨建て資産へ投資する場合、円と外貨の為替変動により、外貨建て資産の円換算価値が変化することがあります。例えば外貨建てで利益が生じていても、投資開始時点から大幅に円高が進行していれば円換算で利益が減少、または損失に転じる恐れがあります。逆に大幅に円安が進行していれば円換算で利益が増加する可能性もあります。この不確実性を「為替変動リスク」といい、これを回避する手法が「為替ヘッジ」です。

 為替ヘッジには「為替先物予約」などが用いられます。為替先物予約とは、将来のある時点で外貨を売って円を買い戻す為替レートを現時点で約定しておく取引です。これによって将来の為替変動による外貨建て資産の円換算価値の変化という不確実性は回避されます。しかしながらリスクそのものは消滅した訳ではありません。為替先物予約の場合、為替変動リスクは「金利変動リスク」に変換されます。  

そもそも為替先物予約は、為替スワップという2国間通貨の貸借取引を通じて行われる

 そこで手持ちの円を1年満期の米国債に投資するという簡単な例を考えてみます。なお便宜上、税金や手数料などは考慮しないこととします。為替ヘッジなしの場合、①投資開始時点の為替レートで手持ちの円を米ドルに交換、②その米ドルで米国債を購入、③1年後に米国債が満期償還、④償還金の米ドルをその時点の為替レートで円に交換、となります。そのため前述の通り、1年間の運用益はドル円の為替レート次第で変動します(図表1)。 

 次に為替ヘッジありの場合として、3カ月の為替先物予約を4回行うことを想定します。為替先物予約は「為替スワップ」という取引を通じて行われます。3カ月の為替先物予約では、為替スワップで3カ月間米ドル資金と円資金を交換(貸借)することになります。つまり、①投資開始時点で円の貸出と米ドルの借入を3カ月間実施、②米ドルの借入金で米国債を購入、③3カ月後の貸借満期に再び円の貸出と米ドルの借入を実施(計4回継続)、④1年後に米国債が満期償還、⑤償還金の米ドルを借入返済に充て、円の貸出を回収、となります。

故に為替ヘッジをしても金利変動で外貨建て資産の円換算運用益が影響を受けることも

 為替スワップは為替取引の形態をした資金取引です。円を貸して米ドルを借りる場合、スポット(約定日から2営業日後の受け渡し)でドル買い・円売りを行い、同時に3カ月後のドル売り・円買い(為替先物予約)を行います。資金の流れに注目すると、3カ月間円を貸して米ドルを借りる取引になっていることが分かります。資金取引ですので当然金利が発生し、円の貸出金利は受け取り、米ドルの借入金利は支払いとなります(図表1)。

 米ドルの借入金利が円の貸出金利よりも高ければその差がヘッジコストになり、3カ月後の先物予約の為替レートに受け取り円貨の減額という形で反映されます(図表2)。今回は為替ヘッジの例として為替先物予約を4回行うことを想定しましたが、その間に米国の短期金利の上昇が続けば、ヘッジコストは都度拡大します。つまり為替先物予約で為替変動リスクをヘッジしても、日米の金利変動によって外貨建て資産の円換算運用益が影響を受ける可能性があり、この点には注意をしておく必要があります。

151124 図表1151124 図表2

 (2015年11月24日)

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