日銀理論を整理する
市川レポート(No.176)日銀理論を整理する
- 日銀はすでに物価目標を中期的に達成する方向へ政策理論を変更したとの観測が浮上。
- ただ達成期限を示し、期待に強く働きかける現行の基本理論は維持されているとみる。
- 将来的には操作目標や目標達成時期を変更する新たな政策理論が打ち出される可能性も。
日銀はすでに物価目標を中期的に達成する方向へ政策理論を変更したとの観測が浮上
日銀は11月18日、19日に開催された金融政策決定会合で金融政策の維持を決定しました。前回の会合(10月30日開催)から13営業日しか経過しておらず、市場も追加緩和なしの見方でほぼ一致していました。なお11月16日の本邦7-9月期実質GDPは事前予想を下回りましたが、在庫の下振れが主因であったことや、その後の株価や円相場が安定推移していることから、日銀に強く追加緩和を促す材料とはなりませんでした。
前回の会合と同日に公表された経済・物価情勢の展望(展望レポート)では、経済成長と物価の見通しが下方修正され、また物価目標の達成時期も先送りされました。それにもかかわらず前回以降、追加緩和が見送られているため、市場では日銀がすでに物価目標を中期的に達成する方向へ政策理論を変更したとの観測が浮上しています。そこで日銀理論を改めて整理し、今後の政策運営の方向性について考えてみたいと思います。
ただ達成期限を示し、期待に強く働きかける現行の基本理論は維持されているとみる
日銀が採用しているリフレ派理論の基本骨子は、①物価目標を設定して大量のマネタリーベースの供給をコミット(約束)し、市場の期待に働きかける、②名目金利がゼロの環境下でも期待インフレ率が上昇する、③実質金利が低下して総需要が増加する、④実際のインフレ率も上昇する、というものです(図表1)。日銀は2%の物価安定目標を設定し、①から④の流れを「2年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期に実現する」と明言しています。
このように現行の日銀の政策理論では「期待に働きかける」ことが極めて重要な役割を果たします。そのため黒田総裁自身も物価目標達成の明確な期限をコミットすることはデフレ脱却の強力な手段であるとの立場にあります。つまり日銀にとって大切なのは目標達成時期そのものではなく、具体的な期限を明示して積極的に政策を運営することです。しがたって原油安で目標達成時期が先送りとなっても、①から④の流れが続いていれば追加緩和は不要であり、現行理論の基本的な枠組みは維持されていると考えられます。
将来的には操作目標や目標達成時期を変更する新たな政策理論が打ち出される可能性も
黒田総裁は11月6日の講演で、企業収益は過去最高水準にあり、労働市場も完全雇用状態にあることから、企業には設備投資と賃上げを期待すると述べました。ただいずれも伸びが鈍いことから、広い意味での「デフレマインド」が必ずしも払拭されていないとの懸念を示しました。日銀は、物価だけでなく賃金の上昇も伴う経済全体でバランスのとれた形での目標達成を目指していますので、黒田総裁発言からは追加緩和の可能性が読み取れます。
なお物価はこの先、原油安要因が剥落し、前年比の伸びが拡大する見通しです(図表2)。この物価の伸びと、場合によっては2016年の春闘の動向を見極めるまで、追加緩和が先送りされることも想定しておく必要があると思われます。また将来の政策運営を展望した場合、日銀は物価の伸びが安定してきた時期、早ければ来年にも操作目標をマネタリーベースから金利へ、目標達成時期を「2年程度の期間」から「中期」へそれぞれ変更し、新たな政策理論を打ち出すことも考えられます。そのため来年は今年以上に日銀の金融政策に対する市場の注目度は高まると考えています。
(2015年11月19日)
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