日本株急落に関する考察
市川レポート(No.136) 日本株急落に関する考察
- 足元の日本株の動きは、中国景気のリスクシナリオをかなり強めに織り込んだもの。
- ただ中国の株安が景気腰折れに直結し、元切り下げは政策の手詰まりとの見方は早計。
- 日本株急落はやや行き過ぎの面もあるが、しばらく慎重に相場をみていくことが賢明。
足元の日本株の動きは、中国景気のリスクシナリオをかなり強めに織り込んだもの
8月25日の東京市場では日経平均株価が乱高下し、日中の値幅が1,000円を超えるなど不安定な値動きが続いています(図表1)。依然として中国の景気減速懸念が日本株の重しとなっており、投資家の間には中国株の急落が中国経済の停滞につながり、人民元切り下げは政策手詰まりによるものという見方も強いように思われます。こうしたなか日経平均株価は6月24日の高値から8月25日の安値まですでに15.3%下落しています。
2014年度の本邦貿易統計によれば、中国は輸出シェアで2位、輸入シェアで1位を占めています。そのため中国景気が腰折れとなれば、貿易を通じて日本経済に悪影響が及び、日本株も中国関連銘柄やインバウンド消費関連銘柄中心に売り圧力が強まる恐れがあります。足元の日本株の動きは、このリスクシナリオをかなり強めに織り込んだものとみることができます。
ただ中国の株安が景気腰折れに直結し、元切り下げは政策の手詰まりとの見方は早計
そこでまず中国の株安と景気の関係を考えてみます。中国の個人金融資産に占める株式の割合は10~20%程度とみられ、株安の逆資産効果による個人消費の冷え込みは比較的限定される可能性があります。また中国の銀行間取引金利は落ち着いており、株安の金融システムへの影響は抑制されているように見受けられます。中国景気の先行きには引き続き注意が必要ですが、株安が景気腰折れに直結するという見方はやや早計と思われます。
次に人民元について考えます。人民元は実質的に当局の管理下にあるため、周辺国経済にダメージを与えるほどのペースで元安を進行させる可能性は極めて低いと思われます。また中国人民銀行(中央銀行)は8月25日、追加の金融緩和を決定しました(図表2)。中国当局は国内景気をにらみ金融、財政、通貨政策を総合的に行っており、人民元切り下げは政策の手詰まりを意味するものではありません。
日本株急落はやや行き過ぎの面もあるが、しばらく慎重に相場をみていくことが賢明
一方、日本では昨年以降、政府が「稼ぐ力」の強化を標榜するなか、コーポレート・ガバナンス・コードを導入した企業が持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に努め、日本版スチュワードシップ・コードを導入した機関投資家が対話を通じてそれを促し、中長期的な投資リターンの拡大を図るという仕組みが出来上がりました。株式市場を取り巻く制度改革が一気に進み、投資効率の改善につながる見通しも強まりました。中国の景気がいくらか減速しても、これらの進展には何ら影響は及びません。また原油安は日本経済にとって総じて好ましく、円高が進行したといっても、主要輸出企業の2015年度の想定為替レートが1ドル=115円付近に集中しており、足元のドル円レートの水準を過度に警戒する必要はありません。
このように考えると中国の景気減速懸念を背景とする日本株の急落はやや行き過ぎの面もあるように思われますが、世界的に金融市場の動揺が続いているため、しばらく慎重に相場をみていくことが賢明と考えます。日本株がある程度落ち着きを取り戻すには、中国経済の不確実性が解消に向かうことが必要で、具体的には中国当局による更なる追加緩和を含む一段の景気対策や、成長ペースの持ち直しを示す経済指標の発表などは、投資家心理の改善につながる材料とみています。
(2015年8月26日)
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