中国の通貨制度

市川レポート(No.131) 中国の通貨制度

  • 中国が採用する通貨制度は、基準値と変動幅が定期的に調整される変動相場制の1種。
  • 新たな基準値の算出方法が、実勢との乖離を縮小させ「人民元切り下げ」との解釈に。
  • 元は自由化の方向だが、依然当局の管理下にあり、極端な元安進行の恐れは小さい。

 

中国が採用する通貨制度は、基準値と変動幅が定期的に調整される変動相場制の1種

 このところ人民元の切り下げとその影響に関するお話しをして参りましたが、今回は改めて中国の通貨制度について整理しておきたいと思います。8月12日付けのレポートでも少し触れましたが、中国では一定の範囲内で通貨の変動を許容する変動相場制度を採用しています。より厳密には、中心となる交換レート(中国の場合は基準値)を定期的に変更し、必要に応じて変動幅も定期的に調整するクローリング・バンド制です。

 主要通貨の基準値は、中国外貨取引センターが取引開始前に市場参加者から報告される為替レートを基に決定し、毎朝公表しています。変動幅は通貨毎に異なり、米ドルの場合は基準値の上下2%が1日当たりの許容幅となります。人民元の対米ドル実勢レートは、年初から基準値よりも元安方向に乖離する傾向が続き、8月10日までの基準値と終値の平均乖離率は1.5%でした。 

新たな基準値の算出方法が、実勢との乖離を縮小させ「人民元切り下げ」との解釈に

 しかしながら乖離率は許容範囲内であるため問題なく、また基準値を日々少しずつ元安方向に設定すれば乖離を縮小させることも可能でしたが、この間の基準値はほぼ一定水準に据え置かれました。こうしたなか通貨当局は8月11日、「基準値と実勢レートの乖離はかなり大きい」という見解を示し、基準値を算出する際に「前日の終値」も勘案する新しい方針を明らかにしました。

 これにより8月11日の基準値は10日の終値を踏まえて決定され、その結果10日の基準値よりも1.9%ドル高・元安水準に設定されました。これが今回の「人民元の切り下げ」という解釈につながった訳です。12日、13日の基準値も同様の手法で算出され、市場実勢に沿う形でドル高・元安水準に設定されたことから、市場では「連日の人民元切り下げ」とみなされました。ただこれにより、基準値と終値の乖離率は11日の1.5%から12日には0.9%へ縮小し、13日には0.0%となって乖離は解消されました(図表1)。

元は自由化の方向だが、依然当局の管理下にあり、極端な元安進行の恐れは小さい

 ここ数日の人民元相場の変動を受け金融市場には動揺が広がりました。こうしたなか、中国人民銀行(PBOC、中央銀行)13日に記者会見を行い、人民元を10%切り下げるとの見方は事実無根であるとし、乖離の是正は基本的に完了したとの見解を示しました。会見後、市場の極端なリスクオフ(回避)の動きが修正され、日本やアジア諸国では株価の反発や通貨の買い戻しがみられました(図表2)。しかしながら依然として今後の人民元の変動ペースは気になるところです。

 国際金融制度には、①為替相場の安定(固定相場の維持)、②独立した金融政策、③自由な資本移動、この3つを同時に達成することはできない「国際金融のトリレンマ」という命題があります。中国はこれまで③を放棄し(資本規制)、①と②を選択していました。今後は段階的に資本移動と通貨取引の自由化が進む見通しであることから、①を放棄し(変動相場への移行)、②と③を選択することになると思われます。現時点の通貨制度はこの移行過程のなかにあり、当局が適切と判断すれば、基準値や変動幅の変更や為替介入によって人民元相場を管理することが可能です。この点を踏まえれば、この先、極端なペースで一方的に元安が進行する恐れは小さいと思われます。

   150814 図表1150814 図表2

 (2015年8月14日)

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