行動ファイナンスにおける心理的バイアス

市川レポート(No.126)行動ファイナンスにおける心理的バイアス

  • 行動ファイナンスは、人々の非合理的行動を分析し、投資判断への影響を研究。
  • プロスペクト理論で、利益よりも損失に強く反応する心理的バイアスが解明された。
  • 個別資産のパフォーマンスに捉われることなく、運用資産全体で考えることが大切。

 

行動ファイナンスは、人々の非合理的行動を分析し、投資判断への影響を研究

 今回は7月31日付けレポートの最終段落で触れた、行動ファイナンスにおける心理的バイアス(偏り)についてお話しします。「行動ファイナンス」や「心理的バイアス」は、あまり耳慣れない言葉だと思いますが、基本的な内容を整理しておくだけでも投資を考える上で非常に有効と考えます。行動ファイナンスとは、伝統的ファイナンス理論では考慮されない人々の非合理的な行動を分析し、それらが投資判断に与える影響について研究する比較的新しい分野です。

 伝統的ファイナンス理論では、「人々は合理的な判断をし、その予測にバイアスはない」と考え、資本資産評価モデル(Capital Asset Pricing Model, CAPM)や、裁定価格理論(Arbitrage Pricing Theory, APT)などが生まれました。これに対し行動ファイナンスでは、「人々は時には非合理的な判断をし、バイアスによって誤った予測をする」と考えます。つまり現実の世界においては、伝統的ファイナンス理論で説明されるような、一定のリスクに対して最大の収益率を期待する投資判断は必ずしも行われないということになります。  

プロスペクト理論で、利益よりも損失に強く反応する心理的バイアスが解明された

 それでは以下、心理的バイアスが投資判断に与える影響について考えます。まず先のレポートでも挙げた「プロスペクト理論」ですが、この理論によれば、「人々は100円の利益が発生した時の喜びよりも、100円の損失が発生した時のショックの方が大きい」ことになります。このような利益よりも損失に強く反応する心理的バイアスは、非合理的な投資判断を促します。例えば、利益が発生していれば損失を回避するために早めに利益を確定し、損失が発生していればそれを取り戻すためにより大きなリスクを取ることが考えられます。これは従来の伝統的ファイナンス理論では説明できなかった行動です。

個別資産のパフォーマンスに捉われることなく、運用資産全体で考えることが大切

 先のレポートでもう1つ挙げたのは「メンタルアカウンティング(心の会計)」です。行動ファイナンスでは、人々は投資目的に合わせて別々のメンタルアカウントを持ち、それぞれに見合った資産に投資すると考えます。具体的には、資産維持を目的とするアカウントでは定期預金など安全資産に投資し、配当や金利収入目的のアカウントでは高配当株式や債券に投資し、資産増加目的ではリスクのより大きい資産に投資することになります。この場合、個々の運用資産は分断されて扱われますので、現代ポートフォリオ理論に基づく分散投資とは異なり、必ずしも一定のリスクに対して最大の収益率を期待するようにポートフォリオが構築されることはありません。

 改めて実際の分散投資を考えた場合、個別資産の損失に目を奪われて、非合理的な投資判断をしてしまうケースもあるのではないかと思われます。大切なのは、あくまでパフォーマンスは運用資産全体で考えることです。また全ての目的を踏まえた上で資産の相関性を重視したポートフォリオを構築し、それを1つのアカウントとみなすことも必要です。常に合理的な投資判断をし続けることは困難ですが、代表的な心理的バイアス(図表1)を理解することで、合理的な行動に努めることはできると考えます。

    150807 図表1 

 (2015年8月7日)

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