ギリシャのユーロ離脱見通しについて考える

市川レポート(No.106) ギリシャのユーロ離脱見通しについて考える

  • 7月20日のギリシャ国債償還とECBのELAに関わる政策判断に注目。
  • ギリシャの並行通貨発行で、いったんユーロ離脱という解釈がなされる可能性も。
  • ギリシャ問題にも関連するユーロ圏財政の未統合は将来的に議論が進むことも。

 
7月20日のギリシャ国債償還とECBのELAに関わる政策判断に注目

  欧州連合(EU)は7月7日のユーロ圏首脳会議と財務相会合で、ギリシャ側が示す金融支援に関する新たな提案について協議する見通しです。合意に至ればギリシャ向けの第3次金融支援となりますが、実行にはドイツなど関係各国の議会承認が必要となります。7月20日に欧州中央銀行(ECB)が保有する約35億ユーロのギリシャ国債の償還が控え、十分な時間があるとは言い難い状況です。

 なおECBはギリシャの中央銀行がギリシャの民間銀行に資金を供給する「緊急流動性支援(ELA)」を承認していますが、7月6日に民間銀行が資金供給を受ける際に差し出すギリシャ国債の担保価値引き下げを決定しました。ELAは健全な銀行に対して資金を供給する制度ですので、7月20日にギリシャ国債が償還されず、債務不履行(デフォルト)となった場合、ギリシャ国債を大量に保有する同国の民間銀行は不健全と判断され、ELAは打ち切りとなる可能性があります。ただECBは自らギリシャ破たんの引き金を引くことを避けるため、金融支援の協議が行われている間は、ELAの承認を継続すると思われます。  

ギリシャの並行通貨発行で、いったんユーロ離脱という解釈がなされる可能性も

 追加の金融支援がなければ、ELA継続でも資本規制の解除は難しく、ギリシャの経済活動が立ち行かなくなるのは時間の問題です。ユーロが枯渇した場合、ギリシャ政府は「借用証書(IOU)」などの並行通貨を発行し、公務員給与の支払いなどに充てることも考えられますが、事実上の二重通貨となるため、これをもってギリシャはいったんユーロから離脱したという解釈がなされる可能性があります。しかしながら並行通貨については、EU条約の下で発行可能か、ユーロとの交換比率は安定するか、公務員などが受け入れるのか、などの問題点が指摘されており、根本的な解決策にはなりそうにありません。

 ギリシャ国民はユーロ圏に残留することを望んでいますので、並行通貨の導入によってそれが難しくなるとの不安が強まることも考えられます。また並行通貨が安定的に国内で流通しなければ、国民の不満が高まり、結局はEUに支援を求めて政権が交代するという事態も想定されます。現代の欧州経済の基盤を創り出したのは、約60年に及ぶ経済統合です。そしてこの統合は「深化」(単一市場や単一通貨の創設)と「拡大」(加盟国の増加)という2つの方向で進められてきました。この長い歴史を踏まえれば、1カ国でもユーロ離脱という前例を作ることは欧州当局にとって好ましい事態ではなく、基本的にはそれを回避する方向で支援協議が行われると思われます。

ギリシャ問題にも関連するユーロ圏財政の未統合は将来的に議論が進むことも

 第3次金融支援が7月20日前に実行された場合でも、あるいは並行通貨の発行と国内経済の大きな混乱を経て実行された場合でも、それによってギリシャの財政問題が完全に解決される訳ではありません。支援後にはギリシャの財政改革の進展を見極める必要がありますし、またより大きな観点では、ユーロ圏全体の財政制度を改めて考える必要もあると思われます。ユーロ加盟国は単一の通貨と金融政策を採用していますが、財政は未統合であり、この歪みがギリシャ問題にも関連しています。財政統合は国の財政主権にかかわる極めて難しい課題ですが、統合強化のため将来的に議論が進むことも予想されます。

 

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(2015年7月7日)

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