ギリシャ問題の展望と金融市場への影響を考える
市川レポート(No.97) ギリシャ問題の展望と金融市場への影響を考える
- ギリシャ問題に大きな進展はみられず、最後まで予断を許さない状況。
- 合意がなければ、ギリシャが資本規制の導入に追い込まれるリスクが高まる。
- リスクシナリオが実現しても、金融危機や信用収縮が発生する可能性は極めて低い。
ギリシャ問題に大きな進展はみられず、最後まで予断を許さない状況
ギリシャ向け第2次金融支援の継続を巡る欧州連合(EU)とギリシャ政府の交渉がヤマ場を迎えています。6月18日のユーロ圏財務相会合でも議論に進展はみられず、今週は6月22日に緊急ユーロ圏首脳会議、6月25、26日にはEU首脳会議が開催される予定ですが(図表1)、現時点でEUなどの債権団とギリシャとの溝が埋まる気配はありません。
ただ最終的には融資を受けるギリシャ側が、融資を行うEU側の要求に従わざるを得ないと思われます。そのため双方が現実的な落としどころをみつけて、ギリシャが財政改革を進めることで、金融支援の枠組みは維持されるとみています。それでもこの問題は最後まで予断を許しません。そこであくまで仮のシナリオとして、双方合意のないまま6月を終えた場合、金融市場にどのような影響を与えるかについて考えてみます。
合意がなければ、ギリシャが資本規制の導入に追い込まれるリスクが高まる
第2次金融支援は6月30日に終了しますので、約72億ユーロのギリシャ向け融資は失効します。ギリシャは同日、国際通貨基金(IMF)に対し約15億ユーロを返済しなければなりませんが、IMFのラガルド専務理事は、返済できなければギリシャは7月1日にもデフォルト(債務不履行)状態に陥ると警告しています。そのため6月30日にIMFへの支払いが行われなかった時点で、ギリシャの民間銀行からの預金流出が一段と加速し、ギリシャ政府は資本規制の導入に追い込まれる可能性が高まります。ただすでに預金流出の勢いが強まっていることから、6月22日の緊急ユーロ圏首脳会議で合意に至らなかった場合、直ちに資本規制を導入することも考えられます。なお現在ギリシャの民間銀行は、緊急流動性支援(Emergency Liquidity Assistance、ELA)によってギリシャの中央銀行から資金供与を受けています。ECBはELAの利用可否や上限金額を2週間ごとに理事会で決めていますが、支援協議が行われている間はギリシャのELA利用を承認すると思われます。
リスクシナリオが実現しても、金融危機や信用収縮が発生する可能性は極めて低い
ギリシャが資本規制を導入した場合、経済活動の急速な縮小は避けられず、国民の生活はさらに厳しくなると思われます。こうしたなかで国民投票や総選挙が開催されれば、EU寄りの政党が政権を握り、第3次支援に向けた新たな協議が始まるという展開も予想されます。いずれにせよ、資本規制が導入されたとしても、それが直ちにユーロ離脱につながるものではないとみています。一方、金融市場への影響については、このようなシナリオが実現する過程において、いったんリスクオフ(リスク回避)の動きが強まると思われますが、リーマン・ショックのような金融危機や信用収縮が発生する可能性は極めて低いと考えます。
その理由として、①ギリシャの債務は公的部門が7割強を占め(図表2)、債務金額や所在が明確であることから、金融システムへの影響が抑制されていると思われること、②欧州安定メカニズム(ESM)やECBによる国債買い入れプログラム(OMT)が整備され、他国への債務危機波及リスクが限定されていること、③世界的に金融市場が動揺してデフレ懸念が強まれば、ECBと日銀が追加緩和を実施し、米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げ開始を先送りすることも予想されること、などが挙げられます。以上、合意のない場合に想定されるリスクシナリオについてみてきましたが、最終的には金融支援の枠組みは維持されると考えます。ただギリシャ問題については最後まで楽観視できず、今後の展開を十分見極める必要があると思われます。
(2015年6月22日)
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