ドル安円高の進行と日本株の動き
市川レポート(No.90) ドル安円高の進行と日本株の動き
- 株式市場は早々に黒田総裁の発言を消化したと思われる。
- 昨日の発言は市場を熟知した黒田総裁の極めて高度な戦略である可能性も。
- 今回の為替の影響は限定的、米利上げは懸念だが日本株の上昇基調は維持されよう。
株式市場は早々に黒田総裁の発言を消化したと思われる
10日の日経平均株価は変動の大きい展開となりました。朝方に発表された4月の機械受注が市場予想を上回ったことなどを受けて、午前中は比較的堅調な値動きとなりました。しかしながら午後に入ると、黒田日銀総裁が国会で「さらに円安に振れていくことはありそうにない」と発言し、ドル円相場は一時122円台までドル安円高が進行、日経平均株価は急落しました。
同日の米国株式市場では、ドル安の流れやギリシャ向け金融交渉が妥結に近づいているとの楽観的な見方が広がるなか、ダウ工業株30種平均は前日比236ドル36セント高(前日比+1.3%)となり、18,000ドルを回復して取引を終えました。11日の東京株式市場ではこの流れを受け、日経平均株価が大幅反発しています。このように10日の円高進行で急落した日本株でしたが、ドル安などで米国株が大きく上昇したことを好感し、翌11日には反転したという動きをみる限り(図表1)、株式市場は早々に黒田総裁の発言を消化してしまったように思われます。
昨日の発言は市場を熟知した黒田総裁の極めて高度な戦略である可能性も
黒田総裁発言とドル円相場については、昨日のレポートでもお話ししました。黒田総裁が言及したのは実質実効為替レートですので、デフレ脱却が実現すれば、「(実質実効為替レートが)さらに円安に振れていくことはありそうにない」というのは、黒田総裁からすれば単なる理論の説明であったとも考えられます。なお為替レートの種類がどのようなものかというよりも、黒田総裁が為替の水準について発言したということに瞬時の反応を示したのは、まさに為替相場の性格です。あくまで推測に過ぎませんが、市場を熟知する黒田総裁がこの点を踏まえ、表向きは理論を説明する形で実質実効為替レートを引用しつつ、実際は名目為替レートのスピード調整を図っていたとすれば、極めて高度な戦略だと思います。
今回の為替の影響は限定的、米利上げは懸念だが日本株の上昇基調は維持されよう
さて為替市場も1日を経過し、落ち着きを取り戻したように見受けられます。現状程度の為替変動であれば、株式需給(図表2)や業績見通しへの影響は限定的と思われ、日本株を取り巻く環境が急速に悪化することはないとみています。なお日本では今月下旬に3月期決算企業の株主総会がピークを迎えます。6月1日から上場企業を対象に企業統治指針(コーポレートガバナンス・コード)が適用されており、株主還元策や自己資本利益率(ROE)水準に関する議案に機関投資家の注目が集まっています。効率経営の進展度合いが鈍いとの声が目立つようであれば、海外投資家の日本株評価に影響を及ぼす恐れもあるため、目先の材料の1つとして注意しておきたいと思います。
日経平均は昨日かろうじて2万円割れを回避しましたが、この先、米国の利上げ時期が近付くにつれ、株式市場は緊張感の強まる時間帯に入っていくとみています。そのため日米をはじめ主要株価指数の調整色が一時的に強まる場面も十分想定されます。ただ米連邦準備制度理事会(FRB)は慎重に金融政策の正常化を進めるとみられることから、利上げによる株式市場への影響は最終的には抑制され、日本株は振れ幅を伴いつつも年内上昇基調を維持するとの見方に変わりはありません。
(2015年6月11日)
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