植田総裁発言に市場は金融政策の早期正常化を意識~その真意を探る
植田総裁発言に市場は金融政策の早期正常化を意識~その真意を探る
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- 植田総裁はインタビューで、物価目標が達成可能との判断なら、マイナス金利は解除すると述べた。
- ただ発言の意図は政府への配慮と政策の自由度確保とみられ、緩和修正のシグナルではなかろう。
- 長期金利動向はオペなども焦点、上昇一服なら過度な円高回避もドル円は145円水準に注意。
植田総裁はインタビューで、物価目標が達成可能との判断なら、マイナス金利は解除すると述べた
読売新聞は9月6日に日銀の植田和男総裁への単独インタビューを行い、その内容を9月9日に報じました。植田総裁はマイナス金利政策について、「賃金上昇を伴う持続的な物価上昇に確信が持てた段階になれば、(解除を含め)いろいろなオプション(選択肢)がある」と述べました。ただ、「どれくらい(金利を)動かすか、複数(の政策を)動かすのか、現状で到底決め打ちできる段階ではない」としました。
しかしながら、「マイナス金利の解除後も物価目標の達成が可能と判断すれば、(解除を)やる」と明言し、日銀の物価見通しについては、「インフレ率やインフレ期待を過小評価していた」と述べ、賃金と物価に関し「十分だと思える情報やデータが年末までにそろう可能性もゼロではない」と語りました。これらの発言は、従来よりもややタカ派的との印象を受けますが、以下、その真意について考えてみます。
ただ発言の意図は政府への配慮と政策の自由度確保とみられ、緩和修正のシグナルではなかろう
今回の発言には、①政府への配慮、②政策の自由度の確保、という意図があると思われます。①について、岸田文雄首相は8月22日に植田総裁と会談し、30日にはガソリン補助金の延長を表明しました。政府が物価対策を講じるなか円安が進行すると、神田真人財務官は9月6日、「あらゆる選択肢を排除せずに適切に対応する」と述べ、円安けん制のトーンを強めました。植田総裁は政府に配慮し、円安抑制で歩調を合わせたとも推測されます。
②に関し、植田総裁はマイナス金利解除について幾分踏み込んだ発言をした一方、「物価目標の実現にはまだ距離があり、粘り強い金融緩和を続ける」、「(物価が)下振れした時の対応は非常に難しい。下振れリスクを重視せざるを得ない」とも述べています。つまり、今回は必ずしも緩和修正の強いシグナルを発した訳ではなく、先行きの物価が見通しにくいなか、あらかじめ政策に自由度を確保しておきたい考えがあったとみられます。
長期金利動向はオペなども焦点、上昇一服なら過度な円高回避もドル円は145円水準に注意
植田総裁のインタビュー報道を受け、週明け9月11日の東京市場では、10年国債利回りは0.705%水準まで上昇し、ドル円は一時1ドル=145円90銭水準までドル安・円高が進行しました。植田総裁に、金融政策の早期正常化の意図はないと思われますが、翌日物金利スワップ(OIS)市場から推測される2024年1月のマイナス金利解除確率は、9月8日時点で約69%でしたが、11日には完全に解除を織り込みました(図表1)。
今後の日銀金融政策決定会合では、展望レポートや植田総裁記者会見などにおける物価見通しに注目がより集まると思われます。目先、国内長期金利の落ち着きどころは、日銀による臨時のオペ(公開市場操作)なども焦点とみており、長期金利の上昇一服なら、急速な円高進行は避けられると考えます。ただ、ドル円が145円に近づくとドル安・円高トレンド転換の可能性もあり(図表2)、米国側の金利動向にも注意が必要です。
(2023年9月12日)
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