2カ月が経過した米量的引き締めの進捗状況

2カ月が経過した米量的引き締めの進捗状況

  • QT開始最初の1カ月で保有有価証券は232億ドル減、計画の月475億減に比べてかなり慎重。
  • 次の1カ月では、保有有価証券は170億ドル減となり、減少ペースは最初の1カ月よりも鈍化した。
  • QTの強力な引き締め効果のためFRBは慎重な舵取りに、ただ9月以降の資産減少ペースに注目。

QT開始最初の1カ月で保有有価証券は232億ドル減、計画の月475億減に比べてかなり慎重

米連邦準備制度理事会(FRB)は、6月1日から財務省証券などの保有資産を減らす、いわゆる量的引き締め(QT)を開始しています。計画では、当初の縮小上限額について、財務省証券が月300億ドル、政府機関債と住宅ローン担保証券(MBS)が月175億ドル、合計で月475億ドルに設定されています。3カ月後には、それぞれ月600億ドル、月350億ドルに引き上げられ、合計で月950億ドルとなります。

なお、7月13日付レポートでは、5月25日時点と7月6日時点におけるFRBのバランスシートを比較し、QT開始後、最初の1カ月の進捗を検証しました。その結果、保有有価証券(財務省証券、政府機関債、MBSの合計)は232億ドル減少したことが確認されました(図表1)。前述の計画における当初の上限額は、月475億ドルでしたので、QTは慎重なスタートを切ったといえます。

次の1カ月では、保有有価証券は170億ドル減となり、減少ペースは最初の1カ月よりも鈍化した

そこで、今回は、QTが開始されてから2カ月経過後の進捗状況を、改めて検証してみます。まず、前月からの変化をみる上で、7月6日時点と8月3日時点におけるFRBのバランスシートを比較します。7月6日時点で、バランスシートの総額は、8兆8,919億ドルでした。このうち、保有有価証券の残高は、8兆4,560億ドルで、内訳は財務省証券が5兆7,443億ドル、政府機関債が23億ドル、MBSが2兆7,093億ドルです。

8月3日時点のバランスシートの総額は、8兆8,746億ドルでした。このうち、保有有価証券の残高は、8兆4,390億ドルで、内訳は財務省証券が5兆7,191億ドル、政府機関債が23億ドル、MBSが2兆7,176億ドルです。つまり、7月6日時点から、バランスシートは173億ドル縮小、保有有価証券は170億ドル減少したことになり(図表2)、保有有価証券の減少ペースは、最初の1カ月(232億ドル減少)から鈍化したことが分かります。

QTの強力な引き締め効果のためFRBは慎重な舵取りに、ただ9月以降の資産減少ペースに注目

次に、保有有価証券の内訳を詳しくみていきます。5月25日時点と7月6日時点、7月6日時点と8月3日時点、それぞれの残高の変化をみると、財務省証券は251億ドル減、252億ドル減となっており、当初の計画(縮小上限額月300億ドル)をやや下回る程度です。一方、政府機関債の残高はいずれも変わらず、MBSは19億ドル増、83億ドル増となっており、当初の計画(同月175億ドル)から大きくかい離しています。

このように、QTによるバランスシート縮小のペースが鈍いのは、MBSの残高縮小が進んでいないことが主因と考えられます。ただ、QTには強力な引き締め効果があるため、FRBは、フェデラルファンド(FF)金利が急騰しないよう、慎重にQTを実施しているものと推測されます。しかしながら、前述の通り、9月からは縮小上限額が倍増するため、秋口以降のバランスシート縮小のペースには注意が必要です。

(2022年8月9日)

市川レポート バックナンバーはこちら

https://www.smd-am.co.jp/market/ichikawa/index.html

三井住友DSアセットマネジメント株式会社
主要国のマクロ経済や金融市場に関する注目度の高い材料をとりあげて、様々な観点から分析を試みます。
●当資料は、情報提供を目的として、三井住友DSアセットマネジメントが作成したものであり、投資勧誘を目的として作成されたもの又は金融商品取引法に基づく開示書類ではありません。
●当資料に基づいて取られた投資行動の結果については、当社は責任を負いません。
●当資料の内容は作成基準日現在のものであり、将来予告なく変更されることがあります。
●当資料は当社が信頼性が高いと判断した情報等に基づき作成しておりますが、その正確性・完全性を保証するものではありません。
●当資料に市場環境等についてのデータ・分析等が含まれる場合、それらは過去の実績及び将来の予想であり、今後の市場環境等を保証するものではありません。
●当資料にインデックス・統計資料等が記載される場合、それらの知的所有権その他の一切の権利は、その発行者および許諾者に帰属します。
●当資料の内容に関する一切の権利は当社にあります。本資料を投資の目的に使用したり、承認なく複製又は第三者への開示等を行うことを厳に禁じます。
●当資料の内容は、当社が行う投資信託および投資顧問契約における運用指図、投資判断とは異なることがありますので、ご了解下さい。

三井住友DSアセットマネジメント株式会社
金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第399号
加入協会:一般社団法人投資信託協会、一般社団法人日本投資顧問業協会、一般社団法人第二種金融商品取引業協会