WHOの緊急事態宣言とドル安・円高の目途

市川レポート WHOの緊急事態宣言とドル安・円高の目途

  • WHOの緊急事態宣言を好感し30日の米国市場は株高、長期金利上昇、ドル高・円安で反応。
  • ドル円は短期的な三角保ち合いを形成、円高と円安、いずれかの方向に加速する可能性を示唆。
  • この先ドル円は三角保ち合いの下値支持線や200日平均線による108円台維持の成否が焦点。

WHOの緊急事態宣言を好感し30日の米国市場は株高、長期金利上昇、ドル高・円安で反応

世界保健機関(WHO)は1月30日、中国で発生した新型コロナウイルスによる肺炎の感染拡大について「国際的に懸念される公衆衛生の緊急事態」を宣言しました。22日と23日の緊急委員会では、緊急事態にはあたらないとしていましたが、中国以外にも感染が広がり始めた事態を重くみての判断となりました。ただ、現時点では中国への渡航や貿易の制限などは必要ないとしています。

なお、過去にWHOが緊急事態宣言を出した事例は図表1の通りです。1月30日の米国市場では、緊急事態宣言を受け、世界的に対策が強化されるとの見方が広がり、主要株価指数は上昇に転じました。中国への渡航や貿易の制限が不要とされたことも、実体経済への影響が軽減されるとの安心感につながったとみられます。リスクオン(選好)の流れが強まるなか、米10年国債利回りの上昇につれ、ドル円はドル高・円安方向に振れました。

ドル円は短期的な三角保ち合いを形成、円高と円安、いずれかの方向に加速する可能性を示唆

ドル円は年初、米国とイランの対立による中東情勢の緊迫化を受け、1月8日に一時107円65銭水準までドル安・円高が進行しました。ただ、今回の新型肺炎の感染拡大を嫌気したリスクオフ(回避)相場では、まだ107円台をつけていません。リスクオフの局面では、日本円も米ドルも一時避難的に買われる傾向があるため、やはり極端なドル安・円高は進行しにくくなっているように見受けられます。

ドル円の値動きをみると、2019年8月26日安値と2020年1月8日安値を結んだ下値支持線と、2019年4月24日高値と2020年1月17日高値を結んだ上値抵抗線が形成されています(図表2)。チャート分析では、この形状を「三角保ち合い(もちあい)」といい、一般に、下値支持線を下抜けるとドル安・円高が加速し、上値抵抗線を上抜けると、ドル高・円安が加速すると解釈されます。

この先ドル円は三角保ち合いの下値支持線や200日平均線による108円台維持の成否が焦点

三角保ち合いの下値支持線は、2月3日に108円30銭水準、2月28日には108円90銭水準に位置しています。2月は、ドル円がこの下値支持線でサポートされ、ドル安・円高方向に切り返すことができるか否かが注目されます。なお、200日移動平均線は、本日108円44銭水準に位置していますので、目先は200日移動平均線でドル安・円高の動きが止まるのか、こちらも焦点となります。

これらのサポート水準を下抜けた場合、2020年1月8日安値の107円65銭水準や、2019年10月3日安値の106円48銭水準が意識されやすくなると思われます。新型肺炎の感染の拡大、終息にかかわる正確な予測は困難ですが、弊社は、感染拡大で企業のサプライチェーン(供給網)に問題が起こっても、規模は限定的という基本シナリオを想定しています。このシナリオに沿った展開ならば、105円までドル安・円高が進む可能性は低いと考えています。

(2020年1月31日)
 

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