香港人権法案と米中貿易協議との関連性
市川レポート 香港人権法案と米中貿易協議との関連性
- 米上下両院は圧倒的多数で香港人権法案を可決、次の焦点はトランプ米大統領の署名判断。
- 米国で法案成立の可能性は高いため中国の反発から米中貿易協議に悪影響が及ぶとの懸念も。
- 米中とも貿易協議の継続を優先、法案が成立しても協議に与える影響は現時点で限定的とみる。
米上下両院は圧倒的多数で香港人権法案を可決、次の焦点はトランプ米大統領の署名判断
米議会下院は11月20日、「香港人権・民主主義法案」を賛成417、反対1で可決しました。下院は10月15日に類似の法案を可決していましたが、上院が11月19日に全会一致で可決した同法案をそのまま受け入れ、両院協議会での法案一本化作業を回避しました。同法案には、香港に高度の自治を認める「一国二制度」が機能していないと米政府が判断すれば、貿易取引やビザ発給に関する香港への優遇措置を取り止めるなどの内容が含まれます。
法案成立にはトランプ米大統領の署名が必要なため、次の焦点はトランプ米大統領の判断です。仮に署名すれば、大統領の弾劾裁判でカギを握る上院(100議席のうち共和党53議席、大統領罷免には上院で3分の2の賛成が必要)の意向に沿う形になる一方、中国側の強い反発や、貿易協議への影響も懸念されます。逆に署名しなければ、中国側に配慮を示せますが、上院の意向には反することになります(図表1)。
米国で法案成立の可能性は高いため中国の反発から米中貿易協議に悪影響が及ぶとの懸念も
なお、トランプ米大統領が署名に応じず、拒否権を行使した場合でも、上下両院においてそれぞれ3分の2の賛成多数で再び可決されれば、法案は成立します。また、署名もせず、拒否権も行使しない場合でも、トランプ米大統領に法案が提出された後、日曜日を除いて10日たてば法案は成立します。法案提出は11月21日ですので、この日から日曜日を除いた10日後は12月2日になります。
以上を踏まえると、米国で香港人権・民主主義法案が成立する可能性は、比較的高いと考えられます。一方、中国では、同法案の成立を内政干渉ととらえており、法案が成立した場合は、報復措置をとるとの考えを表明しています。そのため市場では、香港人権・民主主義法案が米中対立の新たな火種となり、米中貿易協議に悪影響が及ぶとの懸念もみられます。
米中とも貿易協議の継続を優先、法案が成立しても協議に与える影響は現時点で限定的とみる
ただ、中国の劉鶴副首相やトランプ米大統領の発言からは、香港問題での衝突ではなく、貿易協議の継続を優先的に考えている様子がうかがえます(図表2)。そのため、トランプ米大統領は、法案に署名せず、拒否権も行使しない公算が大きいと思われます。署名をしなければ中国側に一定の配慮を示すことができ、また、法案が自然成立すれば上院の意向に沿うこともできるからです。
第1段階の合意については、関税撤廃なども協議されている模様で、難航すれば年内の合意は難しくなります。なお、米国は12月15日に対中制裁関税第4弾(1,600億ドル分)を発動する予定ですが、協議が継続する限り、発動の延期は十分に予想されます。以上の諸点は、市場でもある程度、織り込みが進んでいるとみられるため、香港人権・民主主義法案が成立しても、現時点で米中貿易協議に与える影響は限定的と考えています。
(2019年11月25日)
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