英国のEU離脱が合意なしとなった場合のリスクを考える

2019/04/12

 

市川レポート 英国のEU離脱が合意なしとなった場合のリスクを考える

  • 離脱期限は再延期されたが英議会で離脱案可決が見通せない以上、問題の先送りに過ぎない。
  • 仮に合意なき離脱なら関税復活や物流停滞の恐れ、ただ金融などの分野は一部対策強化済み。
  • 合意なき離脱は短期的な影響は大きいが、世界の金融市場の混乱が長期間続く可能性は低い。

離脱期限は再延期されたが英議会で離脱案可決が見通せない以上、問題の先送りに過ぎない

欧州連合(EU)は4月10日に開催した臨時首脳会議において、4月12日に迫った英国のEU離脱期限を10月31日まで再延期することで合意しました。報道によれば、EUは6月に進捗状況を確認し、英議会下院で離脱案が可決された場合は早期離脱を認める模様です。英国のメイ首相はEUに対し6月30日までの延期を求める一方、EUのトゥスク大統領は最長1年延期する案をEU加盟国に示していたため、今回の合意は妥協案といえます。

これにより、4月12日に英国が「合意なし」でEUから離脱するリスクは取り敢えず回避されましたが、もともと英国とEUは合意なしの離脱は避けたいという点で一致していたため、再延期は大方予想されていたと思われます。ただ、英議会下院では依然として離脱条件について意見がまとまっておらず、離脱案可決の見通しが立っていない以上、離脱期限の再延期は「問題の先送り」に過ぎません。

仮に合意なき離脱なら関税復活や物流停滞の恐れ、ただ金融などの分野は一部対策強化済み

仮に、離脱案が可決されない状況が続けば、英国がEUから合意なしで離脱する恐れが大きくなります。現時点で、その可能性は低いとみていますが、敢えて合意なし離脱が実現した場合のリスクについて考えてみます。例えば、合意なし離脱となった場合、英国とEU間で取引されるモノとサービスに関税が復活するため、これらの価格上昇と物価への影響が懸念されます。また、通関手続きも必要となり、物流の停滞が予想されます。

ただ、緊急性の高い分野については、英国とEUが早い段階で対策を強化しています(図表1)。その1つがデリバティブ(金融派生商品)です。現在、世界のデリバティブ取引はロンドンに集中しているため、合意なしの離脱は大きな混乱を招く恐れがあります。そこで、英国とEUは、合意なしの離脱でも1年間は、EU側の参加者が在英デリバティブ清算機関を利用できるとしました。

合意なき離脱は短期的な影響は大きいが、世界の金融市場の混乱が長期間続く可能性は低い

国際通貨基金(IMF)は4月9日、合意なしの離脱となった場合(通関の混乱なく金融条件の引き締まりが小さいケース)、2021年時点で、英国の実質GDP成長率は合意ありの離脱の成長率に比べ3.5%押し下げられ、同様にEU(英国除く)は同0.5%、世界全体で0.2%押し下げられるとの試算を公表しました。合意なし離脱の影響を最も大きく受けるのは、やはり英国のようですが、世界全体への影響は相対的に軽微とみられます。

一般に市場で悪材料が発生した場合、確認すべきは、①世界の金融システムが大きなダメージを受けるか、②主要市場の流動性が枯渇するか、③同じ問題が他国・他地域に波及するか、の3点です。いずれも該当しなければ、それほど心配する必要はありません。合意なし離脱は欧州経済への影響は大きいものの、必ずしもこの3点に該当するとはいえません(図表2)。そのため、短期的には市場へのインパクトは大きいものの、長期にわたって世界の金融市場が混乱し続ける可能性は低いと思われます。

(2019年04月12日)

 

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